[PB039] 自閉症者に対する文相互を関係づける心理学的工作
前後関係と時制の形式的パターン化を用いて
Keywords:自閉症, 複文構成, 形式的パターン化
高機能自閉症と思われる対象者は,現段階では単文は理解できるが,文章全体の意味を読み取るところが適切でない。できごとを関係づけて処理することが不十分なことによると仮定する。文間を関係づける品詞としては,接続詞や接続助詞があるが,日本語では文脈によって多様な意味が発生し,種々の単語が該当する。文と文の関係づけが十分でない学習者にとっては,この事態は混乱を招くだけである。そこで,文相互の関係づけを図ったこれまでに行われた実践の問題点を踏まえて,本研究では内容を捨象して形式的な理解を導く実践工作を行い,具体的な内容を伴う文の関係づけへの汎化の有無から実践の意義を検討する。
これまでは,できごとの時系列的な関係を手がかりとして,できごとが発生する由縁(根拠,目的,理由)を前文と後文を関係づけて文章化させた。現在から過去に逆向する関係づけ(根拠:ⅠしてからⅡする)現在から未来に向けた関係づけ(目的:ⅡするためにⅠする)(理由:ⅠするのはⅡするためです)を,表現を変えて構成させた。その結果,前後関係を意識して,系列順に並べられている基本文に戻って関係づける形式的ルールが扱えるようになった。自発的に「ため」や「から」を使用した文を作り,過去形を使用する様子を見せた。しかし上述した根拠・目的・理由の表現は安定しなかった。動詞の時制も曖昧であった。
これらの問題の原因は,できごとの内容にとらわれて,提示文の論理関係に注目できないことによると仮説した。そこで本研究では論理関係だけに注目させることにより,文相互の関係づけを促進できるのではないかと仮説した。そのため提示文の内容を捨象して文相互の前後関係という形式のみを提示して,前後関係と時制の使用をパターン化して提示する。このような形式的なルールが,具体的内容をもつ文同士の関係づけに汎化すれば,このルールが関係づけを促進したことになる。
方法と成り行きと結果
対象者:BOとBI(中学3年,男児) 教授者:A
実践日2014年7月12日(5月からの実践最終日)
課題1:現在形と過去形を使い分けて,順向(ため)と逆向(から)に対応づける。
方法:〇,△,□,☆を一つずつカードに書いて縦に並べて提示し,以下の文章を使用した。
1)《三角しました。(その前に,その後に)四角します。》《星します。(その前に,その後に)四角しました。》と提示して選択させた。正答である。
2)《三角(します,しました)。その後に四角(します,しました》《丸( )。その後に三角( )》結果:BOはゆっくり考えて全問正解した。BIは「その後に(しました)」を選択したが,教授者が前後のカードを指すと(します)を選択した。
3)《三角するのは( )したからです。》《三角したのは( )するためです。》の2パターンをランダムに提示した。BIは「から」には逆向の記号を選択し,「ため」には順向の記号を対応づけた。
課題2:課題1の関係づけパターンが,具体的内容の素材相互の関係づけに汎化するか検討する。
方法:カード1枚に以下のように1つずつ書いて,縦に並べて,時系列順であることを指示する。助詞は省略し,動詞は現在形で提示する。《野菜 洗う》《野菜 切る》《なべ 煮る》《お皿 入れる》。
成り行きと結果:前後関係を確認してから,《なべ( )その後に( )》と提示すると,BIは「煮る」と答えたのでAが《なべで()ました》と提示した。「煮えました→煮れました」と答えたので「煮ました」と正答を提示した。《その後に》は「入れる」と答えた。Aがカードを指すと「お皿に入れる」と助詞を自発的に入れて答えた。
《おさらに(1)そのまえに(2)》1には「入れる」2には「煮ました」を自発的に対応づけた。
《野菜を洗ったのは()するためです。》では,「野菜を・・切るためです」,《鍋で煮るのは()したからです。》では,「野菜を切った」,《野菜を切るのは()からです。》では,「野菜を切ったからです・・野菜を洗ったからです」と自発的に修正した。前後関係と時制の表現が対応してきた。自発的に助詞を挿入し,過去形と現在形を使い分けた。
考 察
文同士を関連づけて複文化するためには,言及する事柄をどの視点から捉えるとどういう表現になるかを手がかりにして,表現されている意味と用法を一致させる必要がある。本研究では視点を揺らしながらまとめ方をパターン化した。課題1で前後の包摂関係のみに基づいて前後関係と時制の使用をパターン化して提示したことが,課題2の具体的内容の関係づけにも汎化したと考えられる。関係づけるための枠組みを形成して形式的ルールを獲得するパターン化工作が有効に機能した。
これまでは,できごとの時系列的な関係を手がかりとして,できごとが発生する由縁(根拠,目的,理由)を前文と後文を関係づけて文章化させた。現在から過去に逆向する関係づけ(根拠:ⅠしてからⅡする)現在から未来に向けた関係づけ(目的:ⅡするためにⅠする)(理由:ⅠするのはⅡするためです)を,表現を変えて構成させた。その結果,前後関係を意識して,系列順に並べられている基本文に戻って関係づける形式的ルールが扱えるようになった。自発的に「ため」や「から」を使用した文を作り,過去形を使用する様子を見せた。しかし上述した根拠・目的・理由の表現は安定しなかった。動詞の時制も曖昧であった。
これらの問題の原因は,できごとの内容にとらわれて,提示文の論理関係に注目できないことによると仮説した。そこで本研究では論理関係だけに注目させることにより,文相互の関係づけを促進できるのではないかと仮説した。そのため提示文の内容を捨象して文相互の前後関係という形式のみを提示して,前後関係と時制の使用をパターン化して提示する。このような形式的なルールが,具体的内容をもつ文同士の関係づけに汎化すれば,このルールが関係づけを促進したことになる。
方法と成り行きと結果
対象者:BOとBI(中学3年,男児) 教授者:A
実践日2014年7月12日(5月からの実践最終日)
課題1:現在形と過去形を使い分けて,順向(ため)と逆向(から)に対応づける。
方法:〇,△,□,☆を一つずつカードに書いて縦に並べて提示し,以下の文章を使用した。
1)《三角しました。(その前に,その後に)四角します。》《星します。(その前に,その後に)四角しました。》と提示して選択させた。正答である。
2)《三角(します,しました)。その後に四角(します,しました》《丸( )。その後に三角( )》結果:BOはゆっくり考えて全問正解した。BIは「その後に(しました)」を選択したが,教授者が前後のカードを指すと(します)を選択した。
3)《三角するのは( )したからです。》《三角したのは( )するためです。》の2パターンをランダムに提示した。BIは「から」には逆向の記号を選択し,「ため」には順向の記号を対応づけた。
課題2:課題1の関係づけパターンが,具体的内容の素材相互の関係づけに汎化するか検討する。
方法:カード1枚に以下のように1つずつ書いて,縦に並べて,時系列順であることを指示する。助詞は省略し,動詞は現在形で提示する。《野菜 洗う》《野菜 切る》《なべ 煮る》《お皿 入れる》。
成り行きと結果:前後関係を確認してから,《なべ( )その後に( )》と提示すると,BIは「煮る」と答えたのでAが《なべで()ました》と提示した。「煮えました→煮れました」と答えたので「煮ました」と正答を提示した。《その後に》は「入れる」と答えた。Aがカードを指すと「お皿に入れる」と助詞を自発的に入れて答えた。
《おさらに(1)そのまえに(2)》1には「入れる」2には「煮ました」を自発的に対応づけた。
《野菜を洗ったのは()するためです。》では,「野菜を・・切るためです」,《鍋で煮るのは()したからです。》では,「野菜を切った」,《野菜を切るのは()からです。》では,「野菜を切ったからです・・野菜を洗ったからです」と自発的に修正した。前後関係と時制の表現が対応してきた。自発的に助詞を挿入し,過去形と現在形を使い分けた。
考 察
文同士を関連づけて複文化するためには,言及する事柄をどの視点から捉えるとどういう表現になるかを手がかりにして,表現されている意味と用法を一致させる必要がある。本研究では視点を揺らしながらまとめ方をパターン化した。課題1で前後の包摂関係のみに基づいて前後関係と時制の使用をパターン化して提示したことが,課題2の具体的内容の関係づけにも汎化したと考えられる。関係づけるための枠組みを形成して形式的ルールを獲得するパターン化工作が有効に機能した。