[PB040] 大学教育の反転授業デザイン
授業観察からその効果を考察する
Keywords:エスノグラフィ, 反転学習, 知識観
1.はじめに
昨今の大学教育改革はますます教育方法の改善にその重きを置いている。2014年度末に発表されたいわゆる高大接続答申では,大学入試改革の指針に付随し,大学における「教育改革の断行」が謳われており,その際に推奨するアクティブラーニングの事例として挙がっているのが反転授業である。しかし日本においてはまだその効果や学びの構造は明らかになっていない。
森らの研究グループでは2013年よりこの反転授業,さらには授業に限らない学習場面においてその効果に注目し,欧米とは大きくカリキュラムが異なる日本の大学教育の文脈でどのような効果があるのかその知見を明らかにするために,組織的に調査を行っている。本発表はこれまでの研究の途中報告を行うものである。
2.研究の概要
研究は,実際に授業を行う授業担当者と,その効果を質的・量的に調査する研究者がグループとなり,次の調査を行った。1)個々の授業の成果を測る受講者対象のプレポストアンケート,2)授業デザインのタイプ分け,3)授業における学習者同士の発話分析,である。1)は個別の授業に関するプレポストではあるものの,共通様式を用いることによって反転授業受講者全体の学びの傾向を明らかにすることができる。1)と3)は現在分析中であることから,本発表では2)のデザインのタイプの特徴とその知識観および効果いついてエスノグラフィの記述から報告を行う。
3.授業デザインのタイプ
本研究で調査を行った13の反転授業において,その授業デザインの類似性で取りまとめを行ったところ,3つのタイプに区分された。1)完全習得学習型,2)高次能力育成型(いずれも山内2013),3)ダブル・ティーチング型である。反転授業は,事前学習に講義動画等を用いることに注目が集まるが,1)と2)のタイプで理解の向上や知識の活用などの深い学習(Deep Learning)がより促進された授業は,対面授業のアクティブラーニングが影響している場合が多い(森 2014)。
3.1 完全習得学習型の知識観
このタイプはクラス全員がある一定の知識やスキルを習得することを目的にしている。適切なグルーピングと学びあいを中心とするアクティブラーニングのデザインにより,成績の向上が見られている。溝上(2014)や山内(2014)によれば,解があるものをより正確に理解することが求められる知識観においては,高次能力の育成や深い学習が想起されないとの指摘もあるが,授業観察においては学生同士の活発な建設的相互作用が多く認められ,バリエーションの吟味や,他者との意見との違いから生じる葛藤や躊躇が出現していた。これは福島(2010)が言うまさに「身体知」であり,今後の学士課程教育におけるまさに基盤となる力を育成するに適していると考えられる。
3.2 高次能力育成型
事前学習で学習した内容を用いて,さらに発展的な課題に取り組むことを目的とする。
対面学習では,ケーススタディやプロジェクト学習を行うことにより,より知識を活用することに重きを置くことが特徴である。確かに知識の活用という意味においてより深い学習を達成することが可能でるが,観察の結果では,学生のかかわり度合によってその効果は大きく変化することが明らかとなった。フリーライダーの出現など,これまでのアクティブラーニングが抱えてきた課題を内包することから更なる対面授業の工夫・構造化が必要である。
発表では観察という調査方法の可能性と限界について考察しながら各型の知識観を検討し,それぞれにどのような効果が考えられるのか考察を行う。
昨今の大学教育改革はますます教育方法の改善にその重きを置いている。2014年度末に発表されたいわゆる高大接続答申では,大学入試改革の指針に付随し,大学における「教育改革の断行」が謳われており,その際に推奨するアクティブラーニングの事例として挙がっているのが反転授業である。しかし日本においてはまだその効果や学びの構造は明らかになっていない。
森らの研究グループでは2013年よりこの反転授業,さらには授業に限らない学習場面においてその効果に注目し,欧米とは大きくカリキュラムが異なる日本の大学教育の文脈でどのような効果があるのかその知見を明らかにするために,組織的に調査を行っている。本発表はこれまでの研究の途中報告を行うものである。
2.研究の概要
研究は,実際に授業を行う授業担当者と,その効果を質的・量的に調査する研究者がグループとなり,次の調査を行った。1)個々の授業の成果を測る受講者対象のプレポストアンケート,2)授業デザインのタイプ分け,3)授業における学習者同士の発話分析,である。1)は個別の授業に関するプレポストではあるものの,共通様式を用いることによって反転授業受講者全体の学びの傾向を明らかにすることができる。1)と3)は現在分析中であることから,本発表では2)のデザインのタイプの特徴とその知識観および効果いついてエスノグラフィの記述から報告を行う。
3.授業デザインのタイプ
本研究で調査を行った13の反転授業において,その授業デザインの類似性で取りまとめを行ったところ,3つのタイプに区分された。1)完全習得学習型,2)高次能力育成型(いずれも山内2013),3)ダブル・ティーチング型である。反転授業は,事前学習に講義動画等を用いることに注目が集まるが,1)と2)のタイプで理解の向上や知識の活用などの深い学習(Deep Learning)がより促進された授業は,対面授業のアクティブラーニングが影響している場合が多い(森 2014)。
3.1 完全習得学習型の知識観
このタイプはクラス全員がある一定の知識やスキルを習得することを目的にしている。適切なグルーピングと学びあいを中心とするアクティブラーニングのデザインにより,成績の向上が見られている。溝上(2014)や山内(2014)によれば,解があるものをより正確に理解することが求められる知識観においては,高次能力の育成や深い学習が想起されないとの指摘もあるが,授業観察においては学生同士の活発な建設的相互作用が多く認められ,バリエーションの吟味や,他者との意見との違いから生じる葛藤や躊躇が出現していた。これは福島(2010)が言うまさに「身体知」であり,今後の学士課程教育におけるまさに基盤となる力を育成するに適していると考えられる。
3.2 高次能力育成型
事前学習で学習した内容を用いて,さらに発展的な課題に取り組むことを目的とする。
対面学習では,ケーススタディやプロジェクト学習を行うことにより,より知識を活用することに重きを置くことが特徴である。確かに知識の活用という意味においてより深い学習を達成することが可能でるが,観察の結果では,学生のかかわり度合によってその効果は大きく変化することが明らかとなった。フリーライダーの出現など,これまでのアクティブラーニングが抱えてきた課題を内包することから更なる対面授業の工夫・構造化が必要である。
発表では観察という調査方法の可能性と限界について考察しながら各型の知識観を検討し,それぞれにどのような効果が考えられるのか考察を行う。