[PB048] 原級留置制度の有無が高校生の学習意欲に与える影響について‐2
日本と韓国の比較
キーワード:達成目標, 動機づけ, 学習意欲
問題と目的
原級留置とは,学校で各学年の課程の修了の認定に当たって,当該学年の修了が認められず,引き続き元の学年に留まって学習を続けることである。原級留置制度は罰ではなく,学習量が足りない科目において基礎知識を獲得できるよう学習を促進させるという教育的な趣旨をもっている(坂本・中野,1989,p56)。韓国では日本のような学業成績による原級留置制度はない。ところが,2014年から韓国でも再履修制度が導入され,高校では絶対評価でFを取った生徒はその科目を再履修することになった(教育科学技術部,2012)。金(2013)では,達成目標と動機づけに基づいて原級留置制度に伴う学習意欲の影響を学業成績別に分析を行った。本研究では,日本と韓国で,達成目標(学習接近,学習回避,遂行接近,遂行回避)と動機づけ(内発的動機づけ,外発動機づけ)を指標に原級留置制度が学習意欲に与える影響についての比較を行った。また,日本では高校による偏差値の差が大きいため,偏差値が平均値と近い2つの東京都立高等学校のデータのみを分析対象とした。
方法
調査期間と形式:2012年9月~12月,質問紙調査
調査対象者:全日制普通科の高等学生,日本(200名)と韓国(271名)
質問紙項目 達成目標,動機づけ,原級留置に伴う学習意欲,原級留置措置になりたくない理由
結果と考察
日本と韓国を比較するため,「国別」を独立変数,「達成目標」,「動機づけ」,「(原級留置制度に伴う)学習意欲」のそれぞれを従属変数とした分析を行った。達成目標の遂行回避,遂行接近,学習接近目標では有意差がみられ,韓国のほうが高い結果となった。動機づけで有意差がみられ,内発的動機づけでは日本のほうが高い結果であったが,外発的動機づけでは韓国のほうが高い結果であった(Figure 1)。韓国は学力社会で大学進学率が日本より高いことから外発的動機づけが日本より高い結果となったと考えられる。
達成目標と動機づけにより原級留置制度に伴う学習意欲を比較するため,「達成目標」,「動機づけ」を独立変数,「(原級留置制度に伴う)学習意欲」を従属変数とした分析を行った。達成目標の学習回避,遂行接近,学習接近目標では有意差がみられ,達成目標の傾向が高い生徒が低い生徒より学習意欲が高い結果となった。また,動機づけで有意差がみられ,外発的動機づけの高い生徒ほど学習意欲が高い結果であった(Figure 2)。原級留置制度では,教科成績の不合格により当該学年の修了が認められないことを避けるための学習であるので,外発的動機づけと関係があると考えられる。
原級留置措置になりたくない理由の日本と韓国の比較の分析結果を以下に述べる。日本の高校生では,自尊感情<経済,自尊感情<対人関係,社会<経済,社会<対人関係であるのに対し,韓国の高校生は,自尊感情>経済,自尊感情>対人関係,社会>対人関係であった。自尊感情,社会,経済,対人関係で原級留置措置になりたくない理由の傾向は日本と韓国で文化的な差がみられた。この結果の理由としては,自尊感情について日本の高校生は弱く,韓国の高校生は強いことが考えられる(財団法人日本青年研究所調査,2010)。
金賢美(2013).原級留置制度の有無が高校生の学習意欲に与える影響について―日本と韓国の比較―.日本教育心理学会第55回総会発表論文集,126.
原級留置とは,学校で各学年の課程の修了の認定に当たって,当該学年の修了が認められず,引き続き元の学年に留まって学習を続けることである。原級留置制度は罰ではなく,学習量が足りない科目において基礎知識を獲得できるよう学習を促進させるという教育的な趣旨をもっている(坂本・中野,1989,p56)。韓国では日本のような学業成績による原級留置制度はない。ところが,2014年から韓国でも再履修制度が導入され,高校では絶対評価でFを取った生徒はその科目を再履修することになった(教育科学技術部,2012)。金(2013)では,達成目標と動機づけに基づいて原級留置制度に伴う学習意欲の影響を学業成績別に分析を行った。本研究では,日本と韓国で,達成目標(学習接近,学習回避,遂行接近,遂行回避)と動機づけ(内発的動機づけ,外発動機づけ)を指標に原級留置制度が学習意欲に与える影響についての比較を行った。また,日本では高校による偏差値の差が大きいため,偏差値が平均値と近い2つの東京都立高等学校のデータのみを分析対象とした。
方法
調査期間と形式:2012年9月~12月,質問紙調査
調査対象者:全日制普通科の高等学生,日本(200名)と韓国(271名)
質問紙項目 達成目標,動機づけ,原級留置に伴う学習意欲,原級留置措置になりたくない理由
結果と考察
日本と韓国を比較するため,「国別」を独立変数,「達成目標」,「動機づけ」,「(原級留置制度に伴う)学習意欲」のそれぞれを従属変数とした分析を行った。達成目標の遂行回避,遂行接近,学習接近目標では有意差がみられ,韓国のほうが高い結果となった。動機づけで有意差がみられ,内発的動機づけでは日本のほうが高い結果であったが,外発的動機づけでは韓国のほうが高い結果であった(Figure 1)。韓国は学力社会で大学進学率が日本より高いことから外発的動機づけが日本より高い結果となったと考えられる。
達成目標と動機づけにより原級留置制度に伴う学習意欲を比較するため,「達成目標」,「動機づけ」を独立変数,「(原級留置制度に伴う)学習意欲」を従属変数とした分析を行った。達成目標の学習回避,遂行接近,学習接近目標では有意差がみられ,達成目標の傾向が高い生徒が低い生徒より学習意欲が高い結果となった。また,動機づけで有意差がみられ,外発的動機づけの高い生徒ほど学習意欲が高い結果であった(Figure 2)。原級留置制度では,教科成績の不合格により当該学年の修了が認められないことを避けるための学習であるので,外発的動機づけと関係があると考えられる。
原級留置措置になりたくない理由の日本と韓国の比較の分析結果を以下に述べる。日本の高校生では,自尊感情<経済,自尊感情<対人関係,社会<経済,社会<対人関係であるのに対し,韓国の高校生は,自尊感情>経済,自尊感情>対人関係,社会>対人関係であった。自尊感情,社会,経済,対人関係で原級留置措置になりたくない理由の傾向は日本と韓国で文化的な差がみられた。この結果の理由としては,自尊感情について日本の高校生は弱く,韓国の高校生は強いことが考えられる(財団法人日本青年研究所調査,2010)。
金賢美(2013).原級留置制度の有無が高校生の学習意欲に与える影響について―日本と韓国の比較―.日本教育心理学会第55回総会発表論文集,126.