日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PB049] 保育者の役割にみる観察視点の差異に関する考察

保育のPDCAに寄与できる記録項目と評価指標の作成を目指して

糠野亜紀1, 平野真紀#2, 新谷公朗#3 (1.常磐会短期大学, 2.常磐会短期大学, 3.常磐会短期大学)

キーワード:保育現場, 観察視点, 評価の差異

1.問 題
保育所・幼稚園では,保育・教育の質の向上にむけてPDCAサイクルの活用が提案されている。著者らは,PDCAサイクルのCheck,Actに活用できる子どもの観察記録項目と評価指標を提案した。
記録項目は,保育指針と幼稚園教育要領をベースに作成した。また,評価の指標は,ヴィゴツキーのZPD理論を参考に設定した。記録項目と評価指標を設定することにより,客観的な記録が作成され,Check,Actにおける情報共有が容易になると考えたからである。
提案した記録項目と評価指標を用いて保育現場で調査を実施したところ,保育者によって記録に差異が生じることが判った。この差異の要因として考えられるのは,1)保育者の経験値,2)保育計画の把握,3)保育実践への関わり等である。
そこで,このような課題を明らかにするために,保育現場において調査を実施した。
2.調査概要
1.調査方法
保育現場において,保育者を抽出し,観察項目を記載したシートを用いて対象児について観察を行った後に,記録結果を集計,分析を行う。
2.調査概要
・保育者3名 クラス担任 1名 経験年数4年
クラス副担任 1名 経験年数2年
補助教員1 1名 経験年数8年
・観察対象児 4名 (年少クラス)
Ⅰ群 クラス内で平均的な幼児
Ⅱ群 クラス内で支援・配慮が比較的必要な幼児
対象児を2群に分けたのは,今回の調査の目的から,補助教員の関わりの相違を検証するためである。
・観察項目 3歳児の「健康」と「人間関係」の2領域を基に作成した32項目。
・評価指標 「0:全くできない」「1:保育者の援助が必要」「2:保育者の声掛けが必要」「3:友達と一緒にできる」「4:自で進んでする」の5段階。
3.結果と考察
表1.は,3名の保育者が評価した観察項目の値を2つの領域ごとに集計した結果である(上段は平均,下段は分散)。Ⅰ群の健康領域では,平均がM児3.17,N児3.85であり,分散に大きな広がりがないことから3名の保育者が,ほとんどの項目で,「自分でできる」と評価していることが判る。しかし,人間関係領域では,平均はM児3.15,N児3.40であるが,分散が大きく,保育者の評価に差異が生じていることが判る。さらに,Ⅱ群では,平均値から対象児に未達成の部分が多いことが確認できるが,分散が大きく,保育者の評価に差異があることが,より顕著に表れている。
表2.は,3名の保育者の評価の相関である。副担任と補助教員の評価には,0.73の相関がみられた。一方,担任と副担任は,0.46,補助教員では,0.40となっている。
このことから,クラスを主体的に指導する立場にある担任とクラス運営を側面的にサポートする副担任,補助教員との間に観察視点の差異があることが判る。保育者としての経験値という観点からこの結果を見ると,経験値よりもむしろ,保育活動中に果たす役割による子どもとの関わり方が,評価に影響していると考えられる。
また,担任は,クラス全体の状況を判断して活動を進めていく役割を担っている。副担任や補助教員は,状況を判断してクラスの中でサポートの必要な子どもを見出して適切な支援を行う役割を担っている。このような役割の差が,評価に反映されていると考えられる。
4.結果と考察
今回の結果から,観察記録には,保育者の役割による視点の差が,評価の差異となって表れることが示唆された。役割の違いが,子どもとへの関わり方,子どもの姿を捉え方の微妙な差となっていると考えられる。
今後,保育者や対象児を増やし,結果について精査を進めたいと考えている。

1 必要に応じて,保育活動の手助けを行う教員のことを示している。保育現場では,「フリー」と呼ばれることもある。