[PB054] TALIS2013の日本の教員における自己効力感の一検討
項目反応理論を用いて
キーワード:TALIS, 自己効力感, 項目反応理論
問 題
OECD国際教員指導環境調査の2013年調査(以下,TALIS2013)では,前期中等教育段階において,通常の仕事として指導を行う教員及び校長に対して質問紙調査が実施された。TALIS2013の多くの重要な結果が2014年6月に公表されたが,このうち,教員の自己効力感に関する部分では,対象の12項目に対する教員の回答について,“日本では自己効力感の高い教員の割合が16%から54%と低い”(国立教育政策研究所,2014,p.191)という,参加国平均並びに各調査対象国と比べての低い実態が指摘された。一方で,これらの項目の回答カテゴリは「非常に良くできている」,「かなりできている」,「ある程度できている」,「まったくできていない」からなっていたが,前者二つへの回答の割合の計を各項目における自己効力感の高い教員の割合としていた。このため,「ある程度できている」という回答は必ずしも否定的なものではないにもかかわらず,その割合は上記に含められない。また,TALIS2013のテクニカルレポート(OECD, 2014)から,自己効力感に関する3尺度(「学級運営」,「教科指導」,「生徒の主体的学習参加の促進」)の参加国を込みにした際の分析方法が,回答を連続変数とみなした確認的因子分析であることが分かるが,この方法では,個々の回答カテゴリと関連づけた日本の各項目や因子の解釈が行いにくいと考えられる。
本研究では,TALIS2013の公開データのうち,日本の教員が回答した自己効力感に関する12項目の部分に対して多次元項目反応モデルを適用し,回答カテゴリと関連づけた結果の解釈を行う。
方 法
分析対象:日本の192校の教員3,463名であった。また,各尺度における項目の数はそれぞれ4であった。
分析モデル・方法:多値型の項目反応モデルである段階反応モデル及び一般化部分採点モデルに基づいた。さらに,潜在特性の数を3とし,各潜在特性から各項目へのパスの配置についてOECD(2014)に則った確認的モデルを適用した。学校を一次抽出単位とする層化二段抽出法の標本抽出法であったため,学校IDによるクラスタリングと各教師の標本加重を考慮した(層の情報は公開データになかった)。Mplus(Muthén & Muthén, 1998–2012)Version 7.3を用い,MLRという推定法で分析した。なお,一般化部分採点モデルについては,名義反応モデルに制約を課すことを入力ファイルに反映させ,回答部分を反転させたデータファイルを用いることで,Mplusで分析することができる(Huggins-Manley & Algina, 2015)が,本研究ではこれを多次元の場合に拡張して分析した。
結果・考察
確認的な多次元段階反応モデルにおける各項目の母数の推定値を表1に示す。各潜在特性の分布の平均は0であり,「まったくできていない」とそれを超える回答カテゴリとの間の閾値(表中の閾値1)はいずれも負で高度に有意であった。確認的な多次元一般化部分採点モデルによる分析結果も,「まったくできていない」と「ある程度できている」との間で,どの項目においても後者の方が選ばれやすいことを示唆していた。
以上より,日本の前期中等教育段階の教員は平均的に,これらの自己効力感に関して,「ある程度(は)できている」としていることが示唆された。
文 献
Huggins-Manley, A.C., & Algina, J. (2015). The partial credit model and generalized partial credit model as constrained nominal response models, with applications in Mplus. Structural Equation Modeling: A Multidisciplinary Journal, DOI: 10.1080/10705511.2014.937374.
国立教育政策研究所(編) (2014). 教員環境の国際比較:OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2013年調査結果報告書明石書店.
Muthén, L. K., & Muthén, B. O. (1998–2012). Mplus user's guide. Seventh edition. Los Angeles, CA: Muthén & Muthén.
OECD (2014). TALIS 2013 technical report.
※科研費(26350219)の助成を受けた。
OECD国際教員指導環境調査の2013年調査(以下,TALIS2013)では,前期中等教育段階において,通常の仕事として指導を行う教員及び校長に対して質問紙調査が実施された。TALIS2013の多くの重要な結果が2014年6月に公表されたが,このうち,教員の自己効力感に関する部分では,対象の12項目に対する教員の回答について,“日本では自己効力感の高い教員の割合が16%から54%と低い”(国立教育政策研究所,2014,p.191)という,参加国平均並びに各調査対象国と比べての低い実態が指摘された。一方で,これらの項目の回答カテゴリは「非常に良くできている」,「かなりできている」,「ある程度できている」,「まったくできていない」からなっていたが,前者二つへの回答の割合の計を各項目における自己効力感の高い教員の割合としていた。このため,「ある程度できている」という回答は必ずしも否定的なものではないにもかかわらず,その割合は上記に含められない。また,TALIS2013のテクニカルレポート(OECD, 2014)から,自己効力感に関する3尺度(「学級運営」,「教科指導」,「生徒の主体的学習参加の促進」)の参加国を込みにした際の分析方法が,回答を連続変数とみなした確認的因子分析であることが分かるが,この方法では,個々の回答カテゴリと関連づけた日本の各項目や因子の解釈が行いにくいと考えられる。
本研究では,TALIS2013の公開データのうち,日本の教員が回答した自己効力感に関する12項目の部分に対して多次元項目反応モデルを適用し,回答カテゴリと関連づけた結果の解釈を行う。
方 法
分析対象:日本の192校の教員3,463名であった。また,各尺度における項目の数はそれぞれ4であった。
分析モデル・方法:多値型の項目反応モデルである段階反応モデル及び一般化部分採点モデルに基づいた。さらに,潜在特性の数を3とし,各潜在特性から各項目へのパスの配置についてOECD(2014)に則った確認的モデルを適用した。学校を一次抽出単位とする層化二段抽出法の標本抽出法であったため,学校IDによるクラスタリングと各教師の標本加重を考慮した(層の情報は公開データになかった)。Mplus(Muthén & Muthén, 1998–2012)Version 7.3を用い,MLRという推定法で分析した。なお,一般化部分採点モデルについては,名義反応モデルに制約を課すことを入力ファイルに反映させ,回答部分を反転させたデータファイルを用いることで,Mplusで分析することができる(Huggins-Manley & Algina, 2015)が,本研究ではこれを多次元の場合に拡張して分析した。
結果・考察
確認的な多次元段階反応モデルにおける各項目の母数の推定値を表1に示す。各潜在特性の分布の平均は0であり,「まったくできていない」とそれを超える回答カテゴリとの間の閾値(表中の閾値1)はいずれも負で高度に有意であった。確認的な多次元一般化部分採点モデルによる分析結果も,「まったくできていない」と「ある程度できている」との間で,どの項目においても後者の方が選ばれやすいことを示唆していた。
以上より,日本の前期中等教育段階の教員は平均的に,これらの自己効力感に関して,「ある程度(は)できている」としていることが示唆された。
文 献
Huggins-Manley, A.C., & Algina, J. (2015). The partial credit model and generalized partial credit model as constrained nominal response models, with applications in Mplus. Structural Equation Modeling: A Multidisciplinary Journal, DOI: 10.1080/10705511.2014.937374.
国立教育政策研究所(編) (2014). 教員環境の国際比較:OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2013年調査結果報告書明石書店.
Muthén, L. K., & Muthén, B. O. (1998–2012). Mplus user's guide. Seventh edition. Los Angeles, CA: Muthén & Muthén.
OECD (2014). TALIS 2013 technical report.
※科研費(26350219)の助成を受けた。