[PB061] 単調な作業課題における日本の子どもの生理的ストレス反応
親の言わないで見守る方略との関連
キーワード:生理的ストレス反応, 言わないで見守る方略, 他者感情理解
【問題と目的】
チャレンジングな課題での感情制御の程度は,行動や表情とともに生理的反応にも表れる。コルチゾール分泌量などの生理的ストレス反応は,子どもの気質,実行機能抑制制御(e. g., Rothbart & Rueda, 2005)に加えて,親子関係の質の関連が示されている(Ahnert et al., 2004)。子育て方略が異なる(e.g., 東, 1994)日本とアメリカでは,それらの関連は異なってくると予想される。本研究では,感情制御課題実施時の子どもの生理的ストレス反応と日本でよくみられる言わないで見守る方略,子どもの気質,実行機能抑制制御,他者理解との関連について日米で比較した。
【方 法】
◇研究協力者:都内の幼児(51.85months, SD=5.84)とその母親46組,米国ミシガン州の幼児(54.12months, SD=4.91)とその母親58組。
◇子どもへの実験課題:
チャレンジ課題:退屈で単調な課題として封筒に白い紙を入れる封筒課題を実施(Olson, 1990)。
生理的ストレス反応:課題実施30分前から90分後まで10本の唾液を採取し,実施10分後から50分後までのコルチゾール分泌増加量(AUCi10-50)を分析に用いた(Fekedulegn et al., 2007)。
実行機能抑制制御:草雪課題(Carlson & Moses, 2001),ハンドゲーム(Luria et al., 1964),昼夜課題(Diamond & Taylor, 1996)の3課題の平均を分析。
他者理解:心の理論課題(Wellman & Liu, 2004)と他者感情理解課題(Denham, 1986)を用いた。
動作性知能:WPPSI-Ⅲの積木課題を実施した。
◇母親への質問紙調査:
Socialization of Moral Affect –Parent of Preschoolers (SOMA: Rosenberg et al., 1997)を実施し,言わないで見守る方略を分析に用いた。子どもの気質は,Children's Behavior Questionnaire (CBQ; Rothbart et al.,1989; Kusanagi, 1993)を実施し,注意の焦点化,抑制的制御を用いた。
【結果と考察】
子どもの生理的ストレス反応(AUCi10-50)を従属変数,心の理論,他者感情理解,実行機能抑制制御,気質の注意の焦点化と抑制的制御を独立変数として日米別々に重回帰分析を行った。日本では子どもの他者感情理解得点が高いほど生理的ストレス反応が小さいことが示されたのに対し,アメリカでは実行機能抑制制御が高いほど生理的ストレ反応が大きいことが示された。次に,日本について,親の言わないで見守る方略と子どもの生理的ストレス反応との関連を検討するために,生理的ストレス反応を従属変数,ステップ3に言わないで見守る方略,ステップ4に交互作用項を投入して階層的重回帰分析を行った。その結果,子どもの他者感情理解得点が高いほど生理的ストレス反応が小さいこと,注意の焦点化が高いほど生理的ストレス反応が大きいこと,実行機能抑制制御×言わないで見守る方略の交互作用項が有意を示した。Aiken & West(1991)に基づき下位検定を行った結果,子どもの実行機能抑制制御が低い場合,言わないで見守る方略を用いると生理的ストレス反応が小さいが,子どもの実行機能抑制制御が高い場合,言わないで見守る方略の多少は生理的ストレス反応の大きさと関連が示されなかった。
付 記
「複雑系システムとしての感情制御」(B) 20330139平林秀美,NSF HSD # SES 0527475 Tardif, Twilaの助成を得ている。
チャレンジングな課題での感情制御の程度は,行動や表情とともに生理的反応にも表れる。コルチゾール分泌量などの生理的ストレス反応は,子どもの気質,実行機能抑制制御(e. g., Rothbart & Rueda, 2005)に加えて,親子関係の質の関連が示されている(Ahnert et al., 2004)。子育て方略が異なる(e.g., 東, 1994)日本とアメリカでは,それらの関連は異なってくると予想される。本研究では,感情制御課題実施時の子どもの生理的ストレス反応と日本でよくみられる言わないで見守る方略,子どもの気質,実行機能抑制制御,他者理解との関連について日米で比較した。
【方 法】
◇研究協力者:都内の幼児(51.85months, SD=5.84)とその母親46組,米国ミシガン州の幼児(54.12months, SD=4.91)とその母親58組。
◇子どもへの実験課題:
チャレンジ課題:退屈で単調な課題として封筒に白い紙を入れる封筒課題を実施(Olson, 1990)。
生理的ストレス反応:課題実施30分前から90分後まで10本の唾液を採取し,実施10分後から50分後までのコルチゾール分泌増加量(AUCi10-50)を分析に用いた(Fekedulegn et al., 2007)。
実行機能抑制制御:草雪課題(Carlson & Moses, 2001),ハンドゲーム(Luria et al., 1964),昼夜課題(Diamond & Taylor, 1996)の3課題の平均を分析。
他者理解:心の理論課題(Wellman & Liu, 2004)と他者感情理解課題(Denham, 1986)を用いた。
動作性知能:WPPSI-Ⅲの積木課題を実施した。
◇母親への質問紙調査:
Socialization of Moral Affect –Parent of Preschoolers (SOMA: Rosenberg et al., 1997)を実施し,言わないで見守る方略を分析に用いた。子どもの気質は,Children's Behavior Questionnaire (CBQ; Rothbart et al.,1989; Kusanagi, 1993)を実施し,注意の焦点化,抑制的制御を用いた。
【結果と考察】
子どもの生理的ストレス反応(AUCi10-50)を従属変数,心の理論,他者感情理解,実行機能抑制制御,気質の注意の焦点化と抑制的制御を独立変数として日米別々に重回帰分析を行った。日本では子どもの他者感情理解得点が高いほど生理的ストレス反応が小さいことが示されたのに対し,アメリカでは実行機能抑制制御が高いほど生理的ストレ反応が大きいことが示された。次に,日本について,親の言わないで見守る方略と子どもの生理的ストレス反応との関連を検討するために,生理的ストレス反応を従属変数,ステップ3に言わないで見守る方略,ステップ4に交互作用項を投入して階層的重回帰分析を行った。その結果,子どもの他者感情理解得点が高いほど生理的ストレス反応が小さいこと,注意の焦点化が高いほど生理的ストレス反応が大きいこと,実行機能抑制制御×言わないで見守る方略の交互作用項が有意を示した。Aiken & West(1991)に基づき下位検定を行った結果,子どもの実行機能抑制制御が低い場合,言わないで見守る方略を用いると生理的ストレス反応が小さいが,子どもの実行機能抑制制御が高い場合,言わないで見守る方略の多少は生理的ストレス反応の大きさと関連が示されなかった。
付 記
「複雑系システムとしての感情制御」(B) 20330139平林秀美,NSF HSD # SES 0527475 Tardif, Twilaの助成を得ている。