日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PB064] 乳幼児期のけんかやいざこざに関する意識

保育者へのアンケート調査を通して

竹中美香 (東大阪大学短期大学部)

キーワード:けんかやいざこざ, 保育者, 意識調査

Ⅰ.問題と目的
けんかやいざこざなどのぶつかり合いの経験は,子どもの発達に大きく寄与すると考えるが,その経験の多少は,子どもを取り巻く大人の発達観に大きく左右されるといえよう。中でも保育者の価値観は,けんかやいざこざへの対応の仕方に影響を与えると考える。保育者は,子どものけんかやいざこざをどのように捉えているのだろうか。また,その対応に困難さを感じてはいないだろうか。
本研究では保育者を対象として,けんかやいざこざの捉え方や対応に関する意識を調査した。
Ⅱ.方法
1.調査時期:2014年2月~5月
2.調査対象者:保育所や幼稚園または認定こども園に勤める保育士や幼稚園教諭(以下保育者)127名
3.調査内容と方法:子どもの発達におけるけんかの重要性,けんか対応の難しさなどについて,5件法や自由記述により回答を求めた。
Ⅲ.結果
1.けんかの経験は重要か:9割以上の保育者が子どもの発達にとってけんかやいざこざの経験は重要だと思う(「どちらかといえば重要」を含む)と答えていた。理由として,相手や互いの感情に気づくきっかけになる,思い通りにならないことを理解する,自分の気持ちを伝えるなどのコミュニケーション能力や感情のコントロール等,スキルを身に付けるなどが述べられていた。
2.けんかを止めるタイミング:子どものけんかやいざこざが起こったとき,どのタイミングで止めるかについて9項目から選択回答を求めたところ,「一方が相手をたたいたり蹴ったりし始めた時」という回答が半数近くを占めた。理由としては,怪我をさせないようにするためが最も多かったが,個人的な意見だけではなく,園の方針従った回答であったり,双方の発達を促すためのタイミングをはかっていたりなど,保育者ならではの記述も散見された。
3.けんか対応への困難さ:子どものけんか対応について6割以上の保育者が困難さを感じると答えていた。理由として,けんかが起こったときにその状況を①理解できるか,②対応できるか,③解決出来るかについての不安に関する記述が多かった。①では,子どもの気持ちや状況を理解できるかどうか,②では,けんかの原因や経過が分からない時にどのように対応したらよいか,③では,けんかしている双方の子どもの気持ちを尊重したいが,互いに譲らない時や泣いた時,興奮している時などうまく対応できるか,③では,子どもの気持ちを納得させられるか,同じ子どもがターゲットになっていたり,怪我をした時など解決させられるかなど,多くの不安が述べられていた。中でもけんかの現場を見ていなかった時の判断に困難さを感じるものが多かった。けんか後の保護者対応については5割以上が困難さを感じていた。理由として,保護者にどの様に伝えたら良いか判断に迷ったり,現場を見ていなかったことへの批判はないか,同じ子どもが被害者であったり加害者であったりする場合や怪我をした場合など,保護者からの苦情を恐れている記述も散見された。
4.保護者対応が子ども対応に与える影響:保護者対応の経験が,子どものけんかへの対応に影響を与えたと感じたという回答は,2割弱あった。保護者対応の経験によって,自分が考えている基準より早くけんかを止める方向に傾くという回答が散見された。中には「(けんかした相手の)子と遊ばせないでほしい」という要望もあり,けんかの重要性は認識しつつも,保護者のクレームや怪我対応の困難さから,けんかに敏感になってしまう様子が窺えた。影響の受け方は保育の経験年数によって差があり,保育経験が長いほど,保護者対応の影響を受け難いという結果も得られた。
Ⅳ.考察
ほとんどの保育者が,子どものけんかやいざこざの重要性を認識し,子ども達の力でけんかを解決出来るよう見守りたいと思いつつも,対応には難しさを感じていることが明らかとなった。子どものけんかへの対応において,経験年数の長い保育者ほど保護者の影響を受けにくいことも分かった。保育経験が長いほど,安定した子どものけんか対応を実践していることを示している一方で,新人の保育者は,保護者対応の事を考えて,けんかをさせない様に気を付ける割合も高く,保育者自身がのびのびと保育出来ない現状が垣間見えた。子どもの発達において重要な経験が,大人の都合によって損なわれることのないよう,保育者を支えていく体制も必要なのではなかろうか。