日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PB065] 4歳児における「集団生活のルール」の理解と共有

手洗い・集まり・食事場面でのできごとからの検討

冨田久枝1, 山田真梨子#2 (1.千葉大学, 2.松庵保育園)

キーワード:4歳児, 集団生活, ルールの理解

1.問題と目的
幼稚園教育要領(文部科学省, 2008)の領域「人間関係」の内容には「(11) 友達と楽しく生活する中できまりの大切さに気付き,守ろうとする」とあり,幼児期には他者(友達や保育者)とのかかわりお中で,きまり(ルール)があることに気付き,必要性を理解したうえで守ろうとするなど規範意識の芽生えを培うことが重要である。そこで,本研究では保育場面で幼児期の子どもはどのように集団生活のルールを理解しているかについて,明らかにし,援助の在り方を検討しようと思う。
2.対象
関東地方にある0公立幼稚園の年中クラスの幼児
男児17名,女児15名,計32名
平均年齢4歳11か月
※4歳児を対象に選定した理由は,自己中心的な思考と向社会的な行動の獲得が始まる混沌とした時期であるために,過渡期の特徴をとらえて援助の方向性を探ろうと考えた。
3.実施期日
2012年9月(2日間)
4.方法
個別面接法
材料と手続き:幼稚園のある集団生活場面において数人の子どもがルールを守れていない姿を描いた絵を5枚(①順番を守らない,②並んでいるときに押す,③水を無駄にする,④集まりで話を聞かない,⑤食べ物・食器で遊ぶ)用意し,ランダムに1枚ずつ呈示しながら場面理解に関する質問と絵の行動に対する5段階の善悪判断とその理由づけを求める質問を求めた。5枚の絵については,保育士へのインタビューと,18名の保育士からのアンケート結果から最も多く,集団生活場面でみられるルール順守場面を選定してもらい決定した。
5.結果と考察
○善悪の判断について
①から⑤のルールの絵の行動に対する5段階の善悪判断についてルールごとの人数と割合を算出した結果,少し悪いと判断した人数とすごく悪いと判断した人数についてχ2検定を行った結果,性別と善悪判断に関連があることが分かった(χ2(1)=3.47, p<.10)。「順番を守る」というルールでは,男児は女児よりも,「少し悪い」と判断する傾向が高く,女児は「すごく悪い」と判断する傾向が強く,順番に関するルール順守意識は女児のほうが高いことが推測された。
また,②の,並んで手を洗う場面:「押さない」というルールにおいても性別と善悪判断には関連が見られた(χ2(1)=4.21, p<.05)。つまり,男児は女児よりも「少し悪いと判断し,女児は「すごく悪い」と判断する割合が高かった。これは,女児は友達とのかかわりの中で,友達に押されたり叩かれたりという経験が男児よりも少ないため「押す」などの他者への身体的な攻撃をイメージする行動を「すごく悪い」感じるのかもしれない。
さらに,①から⑤のルールの絵の行動に対する5段階の善悪判断について,全体の人数から,少し悪いと判断した人数とすごく悪いと判断した人数についてχ2検定をおこなった結果人数の偏りは5%水準で有意であり,ルールと善悪判断との間には関連があることが分かった(χ2(4)=13.09, p<.05)。その後,残差分析を行った結果③の水を大切にするというルールについてすごく悪いと判断した人数が5%水準で有意に高かった。「水を大切にする」というルールは家庭やでも保育場面でも親や保育者から何度も伝えられているからかもしれない。また,水は子どもの遊びに最も身近な環境であり,理屈ではなく,水の大切さを理解しているのかもしれない。「話をしっかり聞く」というルールでは善悪判断にばらつきが見られた。これは,直接的に危害を及ぼす行動ではないために4歳児では「悪い」という判断をしていない可能性が示唆され,直接的な危害や身近な問題にはかなり善悪の判断ができるようになっていることが明らかになった。
6.まとめ
今回の研究では,ルールを獲得する途上の4歳児を対象にその善悪判断の傾向を中心に検討した。その結果,子どもたちの集団生活に対するルールへの捉え方にはある特徴がみられた。自分に直接危害が予測できるものや,明らかに経験から嫌な思いをした場面では「悪い」と判断できるが,その判断理由は未熟で「先生が怒るから」といった理由も多く聞かれた。善悪についてある程度できていてもその判断理由は成長段階で未分化なのかもしれない。保育者は集団生活のルールについて伝える際は,子どもの気持ちに寄り添いながら,どうして守らなければならないのかといった善悪の判断理由についても分かりやすく伝えてたり,一緒にその理由にについて考えたりといった場面を活用した教育的取り組みが期待される。