日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PB067] 犬の飼育経験が中年期の人々の心理社会的発達に与える影響

家庭内で飼育する犬とのかかわりとGenerativity発達との関連性

西村信子1, 戸枝沙也佳#2 (1.ヤマザキ学園大学, 2.草村動物病院)

キーワード:中年期, 心理社会的発達, 犬の飼育

問題と目的
現在,わが国において約2万頭の犬や猫がペットとして飼われており,そのうち犬は約1万1千頭であると報告されている(日本ペットフード協会,2013)。養老・的場(2008)は,犬をはじめその他の動物をペットとして飼う人々は大切な「うちの子」として愛情を注ぎ飼育する傾向がある,と指摘している。また,濱野(2013)は,ペットとのかかわりが心理社会的発達理論(エリクソン,1989)に基づく中年期の発達課題Generativity,新しいものを生み出し育て次世代に繋ぎ継承していくこと,の獲得を促す一因になりうると述べている。ヒト同士の関係性の中で次世代を育て世代継承していくことで獲得するGenerativity は,飼い主がペットを家族の一員として愛情を注ぎ育てることによっても獲得することが考えられる。
よって,本研究では日ごろ家庭内で犬を飼育する中年期の人々にとっての犬との関わりと心理社会的発達との関連性について明らかにすることを目的とした。
方法
2014年8月下旬~9月上旬,本大学動物看護学実習に家庭犬をモデル犬として登録する飼い主200名に対しに取り置き調査を実施し,175名(男性21名,女性151名,不明3名)から回収が得られた(回収率87.5%)。調査内容は,ペットによる癒され効果に関する質問項目(金子・村上,2003)の11項目と筆者が予備調査収集した13項目の計23項目を合わせたペットとの暮らし尺度(表1)と串崎(2005)が作成したジェネラティヴィティ尺度25項目4下位尺度(「生み出し育てることへの関心」,「自己成長・充実感」,「世代継承的感覚」,「脱自己本位的態度」)を用いた。
結果と考察
その結果,ペットとの暮らし尺度は22項目3因子(「気持ちの変化」「生活環境の変化」「育児に対する負担」)の構造が確認された。また,本研究において対象となった中年期の飼い主は,ペットの暮らし尺度において概ね高い得点が認められ(男性4.07;女性3.98),性差なく家庭内で犬とかかわる生活を通して悲しみや怒りが軽減し,穏やかに生活が送れるようになるなど肯定的な変化を実感していることが明らかとなった。男性に比べ女性の飼い主は,「世代継承的感覚」(t=2.52,df=165,p<.05)と「脱自己本位的態度」(t=-3.16,df=157,p<.05)の両下位尺度得点が有意に高いことが明らかとなった。愛犬をモデル犬として大学に提供する女性の飼い主は,より他者に貢献し奉仕したいと望む気持ちが強いと考えられた。
本調査の対象となったモデル犬飼い主は,次世代である動物看護師を目指す学生の技術と知識の向上及び育成のため,自らの愛犬を提供していると考えられた。彼らは,そのような大切な存在である犬を次世代の教育のために提供するという社会貢献を行うことによって,自らのGenerativityを発達させていることが示唆された。
引用文献
E. H.エリクソン. (1989).ライフサイクル,その完結.東京みすず書房.
濱野佐代子.(2013).第2章家族としてのコンパニオンアニマル.(石田攝・濱野佐代子・花園誠・瀬戸口明久). 日本の動物観―人と動物の関係史―.東京大学出版会.
一般財団法人日本ペットフード協会. (2013).平成25年度全国犬・猫飼育実態調査結果.http://www.petfood.or.jp/.
養老孟司・的場美芳子.(2011).ペットブームの定着と動物と人間の関係の哲学的反省. 月間 法律のひろば.