日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PB077] 価値追求的自分づくりをもって就職目標の喪失化を乗り越える青年のその後

宮野祥雄 (上武大学)

キーワード:価値追求, 自分づくり, 就職目標の喪失化

【問 題】
前研究(日本教育心理学会第55回総会で発表)において仮説Ⅰ(本青年が部活でレギュラーになれないのではないかとの懐疑心を強めて休みが少なく疲れがとれないなどの記述をし,部活に消極的になっている。)と仮説Ⅱ(本青年がこの授業を介して精神的に自立的な価値追求的自分づくりを試み,この問題を乗り越えていく。)を立案。2013年4月以降の研究結果を報告する。
【方 法】
①本研究はSprangerの了解に則る。②対象は男子大学生である。③授業において本青年が記述した,反省や抱負・展望などの事柄および朝日新聞(2013年度)朝刊のある記事についての意見や,本青年との面談などをもとに本青年の心のうちやこの変化の探求にあたった。④指導・研究の継続期間は2013年4月1日より2014年3月31日まで。⑤場所は教室・ホールなど。⑥本学倫理委員会の承認を得て研究にあたった。
【了解的探求】
《就職目標の喪失化における自我防衛》4月,2012年度の反省や翌年度の抱負,「春休み」「将来」について,本青年は「…学校生活に対してもう1度見直していく…。」「私の春休みは部活で全てが終わった。…。休みも少なく練習漬けの毎日で体がボロボロに…。しかし、メンバーのサポートをした結果…大学戦は順調に…勝ち点を取る事が出来…達成感があった。」と記述。
この記述からは部活への消極的な態度が明らかであり,本青年の本スポーツにおける価値追求性が読み取れ,仮説Ⅰが妥当と判断した。
「将来」については「…。…今まで自分が学んできたことを子ども達に伝えていければいい…。…尊敬されるパパになれるように今の内からたくさん…頑張っていきたい…。」と本青年は記述。
本青年が記述し語ってきた事柄に留意し,“代償・置き換え”が図られ,生まれ来る子に“初志”を繋いでの夢をもって就職目標(“初志”)の喪失化を乗り越えようとする本青年を読み取った。
《自己の混乱する部活目標や役割と宮野へのその訴え》オノ・ヨ-コ氏の記事(1月20日付)について,本青年は「…部の…目標が…自分自身なにをしていいか分かっていません。」と記述。
この記述から,自己の部活の目標と役割の混乱を訴えての本青年の心のうちを読み取った。
《限界への挑戦が最後は必ず成功に繋がる,と自己に言い聞かせる》5月,樫木裕実氏の記事 (4月22日付)について,本青年は「…人間コツコツと努力していれば、…最後には良い結果として返ってくるという事をこの女性が証明…。…来る日も来る日も自分の限界に挑戦…最期に必ず成功を勝ち取る事が出来る…。…。…人生の勝ち組になるように…励んでいきたい…。」と記述。
この記述において,難しいということは認識しつつも初志貫徹を願い,それがだめでも最後には努力が報われるとの思いのもとに部活や学業に頑張ろうとする本青年の心のうちを読み取った。
6月,高代延博氏の記事(5月19日付)について,本青年は「…。…何事も…まず自らで考え行動していくことが大切…。」と記述。
この記述には,本記事を読み,確信を強めての本青年の精神的に自立的な信条が示されている。
7月,有川浩氏の記事(7月21日付)について,本青年は「… 挑戦をしてみて、壁に当たってしまった場合にはもう一度足元を見直し、今自分に足りないものはなんなのかを考え…。…最後まで諦めずに一生懸命やる事が一番大切…。」と記述。
この記述から,宮野が授業で説明した“問題解決の方略”を活用して問題に自立的に取り組もうとする本青年の姿勢を読み取った。
《今でも辞めずに部活を続けていられる》11月,舛添要一氏の記事(11月10日付)について,本青年は「…私も部活をやっている中で、色々な仲間に支えてもらっているので、今でも辞めずに部活を続けてい(ら)れる…。…。」と記述。
この記述から,初志を断念しての本青年の心のうちを読み取った。宮野は本青年に「レギュラー入りがどうしても難しいならば,…教職をとってはどうか」「卒業後の資格取得(平成24,25年に本青年が語った事柄)は大変ではないか」と述べた。「よく考えてみます」と本青年は応じた。
《部活を続け,企業への就職を目指す》(付記) 2014年の4月14日,出会った時に,企業への就職,部活に頑張っている,と本青年は語った。
苦境における本青年の自己の問い直しと自分づくりが職業選択や就職,就職しての職業及び会社への適応に生きるという事を,宮野は確信する。
(付記,2015年1月26日,本稿の草稿をもって本青年に発表の承認を得た。このとき,進行している某会社への就職のことを,本青年は語った。)
※宮野祥雄は,2014年3月31日に上武大学を退職した。本研究は,宮野が本学常勤職在職中に行ったものである。