日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PC

2015年8月26日(水) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PC007] 小中接続期における算数・数学の動機づけと学習方略の関係

大家まゆみ (東京女子大学)

キーワード:小中接続期, 算数・数学の動機づけ, 学習方略

【問題と目的】
本研究では小中接続期の算数・数学の動機づけに着目し,算数から数学へと教科名が変わるとともに,学習内容がより抽象的で難解なものに変わる小学校から中学校への移行期に,より算数・数学の動機づけが高まる学習方略を検討することを目的とする。
【方 法】
調査対象者:小学5年生491名,小学6年生486名,中学1年生464名,中学2年生374名,計1815名(男子908名,女子907名)を対象者とした。対象者はいずれも首都圏の国公立小中学校に通う児童生徒であった。
調査内容 (1)自己学習方略尺度(28項目):堀野・市川・奈須(1990),堀野・市川(1993)の学習動機尺度の下位尺度「思考過程の重視」,上淵・無藤・藤江(2004)の自己学習力尺度,佐藤・新井(1998)の学習方略使用尺度の2つの下位尺度「メタ認知方略尺度」「認知・リソース方略尺度」を参考に28項目を作成。(2)算数・数学の動機づけ尺度(20項目):大家・藤江(2007a, b)の20項目。回答は「そう思う」(4点)「まあそう思う」(3点)「あまりそうは思わない」(2点)「そうは思わない」(1点)の4件法。
【結 果】
算数・数学の動機づけに自己学習方略が及ぼす影響における小中接続期の学年差の検討
まず,自己学習方略の下位尺度から算数・数学の動機づけへのパスを仮定し,動機づけ間に相関を仮定した。さらに,佐藤・新井(1998)では学習方略使用尺度の因子間に中程度の相関が見られたため,自己学習方略尺度の誤差間にも共分散を仮定した(Figure1)。
「予習・復習する力」からは,6年生,中学1,2年生の「算数(数学)が好き」に対して有意な正のパスが見られた。しかし,「よい成績を取りたい」には中学2年生のみ有意な正のパスが見られたのみで,あとは有意なパスは見られなかった。
また5年生では「学習内容に対するよいイメージ」と「算数(数学)が役に立つ」に低い負の有意なパスが見られた。次に,「ふだんの生活につなげる力」は全学年で,「よい成績を取りたい」の6年生(β=.05, n.s.)以外の3つの算数・数学の動機づけに有意なパスが見られた。この変数からは全学年で「算数(数学)が好き」と「算数(数学)が役に立つ」,「学習内容に対するよいイメージ」に有意な正のパスが見られた。特に内発的動
機づけにあたる「算数(数学)が好き」には全学年で高い値のパス係数が見られた(各々β=.66, .83, .81, .71, いずれもp<.001)。
「資料を使って調べる力」からは5,6年生の「算数(数学)が好き」,5年生の「学習内容に対するよいイメージ」にのみ有意な正のパスが見られたが,他の学年の算数・数学の動機づけとは無相関であった。同様に,「自主的に学ぶ力」からは5,6年生のみで「学習内容に対するよいイメージ」に有意な正のパスが見られ(各々β=.16, p<.01;β=.13, , p<.05),6年生では「よい成績を取りたい」に有意な正のパスが見られた(β=.10, p<.05)。しかし,中学生では中学2年生で「算数(数学)が好き」に正のパス係数が有意だった(β=.31, p<.01)以外は,無相関だった。
「ノートをとる力」は全学年で「算数(数学)が好き」とは無相関であり,6年生では「学習内容に対するよいイメージ」と,中学2年生では「算数(数学)が役に立つ」に負の有意なパス係数が認められた(各々β=-.14, p<.05;β=-.16, , p<.05)。一方,「よい成績を取りたい」には中学生のみで有意なパス係数が認められ,中学1,2年生では正のパスが見られた(各々β=.18, p<.01;β=.20, p<.05)。最後に,「プロセスを重視する力」からは5年生では「算数(数学)が好き」と無相関だったものの,これ以外の3つの動機づけ変数では全学年で有意なパスが見られた。
算数や数学に対する内発的動機づけを高めるには,小中接続期にあたる6年生以降,予習・復習と問題を解く途中のプロセスでじっくりと取り組む学習方略と,ふだんの生活とつなげて考える学習方略が重要といえるだろう。学習内容に対するよいイメージを高めるためには,より精緻化した学習方略である個人的な経験や既得の知識,ふだんの生活に新しい知識を結びつけて考える方略が有効であろう。