The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PC

Wed. Aug 26, 2015 4:00 PM - 6:00 PM メインホールA (2階)

[PC023] 子どものつまずきを踏まえた授業設計力測定の試み

指導案作成課題を通じた検討

深谷達史1, 植阪友理2 (1.群馬大学大学院, 2.東京大学大学院)

Keywords:授業設計力, Pedagogical Content Knowle, 教師教育

問題と目的
日本の児童生徒において学習した内容について深い理解が達成されていない(藤村, 2012),理解に至るための学習方略が身についていない(市川, 2004)といった問題が指摘される。これらの問題の一因として,教師が理解や方略の習得を促す指導を十分に行っていない可能性が考えられる。よって,教師の学習指導力を測定し高める方策の検討が求められていると言えよう。
教師教育研究では,教師の学習指導力に関わる構成概念として「教育方法と教科についての混合知識」(Pedagogical Content Knowledge; PCK)が提案され(Schulman, 1986),知見が蓄積されてきた(Depaera et al., 2013)。PCKの測定についても,特に近年に入ってテスト開発が進んでいる(e.g., Krauss et al., 2008)。従来のPCKテストは「生徒が平行四辺形の面積の公式をうまく適用できない平行四辺形の例を示せ」というように,学習者のつまずきを明示的に同定するよう求めてきた(e.g., Krauss et al., 2008)。しかし,実際の学習指導を有効に行うためには,実験者に求められずとも,学習者のつまずきを見とり,それに対する手だてを講じることが必要であり,こうしたPCKの自発的活用こそ教師の学習指導力の重要な側面であると考えられる。
そこで,本研究では,教員を対象に「台形の面積の公式」の指導案の作成を求め,指導案の工夫や工夫設定の理由,児童のつまずきを考慮したかをたずねる。当該の内容について「上側の辺を上底,下側の辺を下底と考えてしまう」といった誤概念や「定義に立ちかえって公式の適用可否を判断できない」といった学習方略のつまずきが考えられる。教師はこうした子どもの学習状のつまずきを考慮して授業設計を行っているのかを実証的に検討する。また, PCKが児童生徒との相互作用によって蓄積される知識だとすると,小学校の教員は他の校種の教員に比べ,当該内容に関する児童のつまずきを踏まえた授業設計を行う傾向が強いと予測される。本研究では,この予測の検証を行い,指導案作成課題のPCKテストとしての妥当性も検証した。
方 法
参加者 教員免許更新講習に参加し,調査協力に同意した98名を対象とした。校種は小学校教員25名,その他73名であった。
手続き 講習ではまず70分×2の講義を行った。前半は,実験デモを通じて理解の重要性などを伝えた上で,理解を深める授業デザインとして「教えて考えさせる授業」(市川, 2008)の概要を解説した。後半は,授業ビデオを視聴しグループで良かった点や改善可能な点を話し合った。次に,ふり返りとして「台形の面積の公式」の教科書を配布し教えて考えさせる授業の枠組みに従って指導案を作成するよう求めた。教えて考えさせる授業は,教師からの説明と児童生徒による主体的な表現や協同を組み合わせた授業枠組みで,学習者のつまずきを考慮し授業を設計することが方針として示されており(市川, 2014),授業でもその点を伝えた。ただ,課題実施時には特にその点は教示しなかった。指導案作成後,工夫した点と工夫を設けた理由をたずねた他,指導案作成時児童の誤解などのつまずきを考慮したか,考慮した場合どんなことを考えたかを記述するよう求めた。
結果と考察
作成された多くの指導案は,教科書に従い,台形を2つ組み合わせた平行四辺形から「(上底+下底)×高さ÷2」という公式が導出できることを教師から解説し,児童同士のペアで説明活動を行った後,教科書の練習問題(例として図1右)を解かせるという流れで構成されていた。
まず,指導案作成時に何に児童がつまずきそうか考えたかという設問の回答を分析したところ,小学校教員の96%,その他の72%が「考えた」と回答した。校種の比率差は5%水準で有意だった。次に,工夫を設けた理由と考慮したつまずきの記述から,つまずきそうな内容として挙げられたものをボトムアップ的に抽出したところ,高さや上底・下底の混同に関する記述(「同定」,23件)と,教科書に記載された解法に関する記述(「教科書解法」,5件)の2つが見出された。回答が多かった同定について校種ごとの記述比率を確認したところ,小学校は44%,その他は16%であった(p=.01)。最後に,指導の工夫の内容を分析したところ,児童のつまずきに対する直接的な手だてに関する記述として,「上底・下底を指し示しながら説明活動を行う」,「課題遂行中に個別にヒントを与える」などが見られた(「誤概念対処」)。ただし,こうした記述は小学教員の28%,その他の8%に見られただけだった(校種の比率の差はp=.02)。
本研究で分析したいずれの観点においても校種の差が認められたことから,指導案作成課題がPCKのテストとして一定の妥当性を有していることが示唆された。ただ,小学校教員においても,具体的な内容を伴う見とりを記述したものは必ずしも多くなく,さらに手だてを設定したものの比率は一層少なかった。また,図1右の問題を解くにあたっても,ヒントを出したりするだけでなく,教師から「分からないときは定義に戻る」といった形で学習方略の指導を行うことは有効だと思われるが,学習方略の観点から児童のつまずきに言及した見とりと手だて設定の記述は皆無であった。知識面だけでなく方略面に関する学習指導力の向上を図る必要性が示唆される。