The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PC

Wed. Aug 26, 2015 4:00 PM - 6:00 PM メインホールA (2階)

[PC037] パフォーミングアートとフレイレ

パフォーミングアートの手法を用いたフレイレ式対話を通じてのコミュニティ形成のケーススタディ

石川純子 (立教大学大学院)

Keywords:パフォーマンス, 演劇教育, 地域作り

パフォーミングアートとフレイレ
パフォーミングアート,特に演劇をフレイレの理論に基づいた演劇的手法を多く開発した1人にAugusto Boalがいる。彼はPaulo Freireの著書Pedagogy of the Oppressedに感銘を受け,その理論を応用したTheatre of the Oppressedの中で人間の発達を促す演劇活動には対話式,ファシリーテーターが参加者個人の持っている知識や状態を活動のスタートポイントにすること(アセットベース),意識化,問題提起という要素が必須であると述べている(Boal, 1979)。これまでの「観る」演劇とは異なり,社会問題や政治にインスパイアされた「参加型」の演劇活動である(Jackson & Vine, 2013, p10)。ドラマアクティビティは参加者に“演じる”という自由を与える。演劇というフィクションの世界での体験をする―演じている自分は本当に自分ではないのか,自分なのか―をドラマアクティビティ及び振り返りの中で経験する事によって,自分の中にある価値観に気づくことができ,価値観の過程の形成につながるのはないか。そしてFreireの理論基盤に基づいた応用演劇を通じたその気付きは,自身の感情,考えの共有をグループを無理することなく自然に行えるということに繋がり,グループ内の繋がりを強めることに役立つのではないか,というこのような理論的基盤(rationale)を元に本研究はスタートした。
方法(概要)
本研究は2013年にニューヨーク市の高齢者施設で,発表者と共同研究者であるLydia Gaston氏との共同で行われたものである。ニューヨーク市在住のフィリピン人高齢女性を対象に考察及びワークショップを約半年に渡り行った。彼女たちは様々な時期にフィリピンからアメリカに移住してきた移民である。ここでは,フィリピンにルーツを持つという共通点を軸に,毎週木曜日の集会を通じてすでに形成されているコミュニティーにおいて,応用演劇はどのような役割をするのか,そしてその中でパウロ・フレイレの教育原理,特に対話に焦点を当て,これがどのような影響を参加者に与えるのかを本研究では考察した。
このコミュニティにおいて,毎週木曜日に行われる集会に参加し,事前の聞き取り及び観察調査を行った。ここでは,常にリーダー的な役割の人間が大部分を彼らの話に費やし,その他のメンバーはそのリーダーの話を揶揄するなど,集団として一つの事を共に行う事がとても困難である様子が見受けられ,インタビューにおいてもそれと同様のことが話された。加えて,この調査により,彼らが芸術,特に音楽や演劇に強い興味を持っていることが分かった。調査方法として,①Four Cornerと呼ばれる応用演劇の技法,②質問紙調査及び③ワークショップの過程を2台の固定ビデオカメラで撮影するという3つの記録手段を用いた。ビデオで使用された言語,身体の動き,表情,声のトーンの移り変わりなどが筆者によって書き起こされ,他の2つの記録とともにKJ法により分析が行われた。全6回のGaston氏との共同作成で計画を作成及び実践の様子が記述されている。使用された技法,参加者の反応,計画を変更した際の理由やそれによる反応,その場においての困難だと筆者が感じた事などの詳細が実践毎に述べられている。
結果と考察
参加者たちに次のような変化が見られた。1)態度の変化:集中力の向上やグループ内での各人が他のメンバーの話をしっかりと聞く態度へと変化した2)協働が更なる協働をひきおこす:回を経て行くごとに参加者の間から出てきた話や事柄が個々の記憶の思い起こしにつながり,グループ全員の思い出に繋がる更なる共有へとの広がりも観察された。3)個人の意見の表明の幅の広がり:あるキーワードを発端に活発なディスカッションが繰り広げられた。各人の職業にちなんだ価値観やリーダーシップ観が語られ,フィリピンとアメリカのリーダー観の違いもグループ内で討論された。
このように協働の場を演劇という形で作る事によってその協働が更なる協働を産み,過去の個々の経験がその現在の瞬間にrelivingするという瞬間を形成したことによってグループへの繋がりをより強く感じるようになったと8割の参加者が質問志において回答している。