[PD001] 情報モラル教育はSNSにおける同調を抑制するのか
同調を抑制する教示方法の検討
キーワード:ネットいじめ, 同調
問題と目的
近年,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を利用したいじめが増加している。SNSでの人間関係は現実の延長であることが多く,従来インターネットの特徴とされていた匿名性は保たれていない。一方,時間や場所による制約のなさや,拡散性や履歴性といったインターネット特有の性質は備えている。
閉ざされた空間であるSNSでのいじめは第三者による発見や介入が難しいため,予防的な対策が重要と思われる。インターネット利用によって生じる問題を予防するため,その危険性や特徴を教える情報モラル教育が行われてきた(加納, 2014;高橋,2014)。しかし,いじめには傍観者の加害者に対する同調行動が関係していると指摘されており(齋藤,2000),インターネットの特徴に関する知識の有無のみでなく,同調行動の抑制に関しても考慮する必要がある。
Reicher(1984)は,個人アイデンティティよりも集団アイデンティティが活性化された場合,脱個人化を起こしてその集団規範に従うと述べている。また,Lea & Spears(1991)は非対面状況において集団アイデンティティが活性化された場合に同調行動が起こりやすいとしている。SNSにおけるコミュニケーションは非対面状況で行われるため,集団アイデンティティが活性化された状況では,いじめ予防教育が効果を発揮しない可能性がある。そこで本研究では,集団アイデンティティを意識させるようなSNS特徴教示を行った場合の同調行動について検討する。
方法
手続き 質問紙実験。実験協力者を情報モラルと集団アイデンティティ強化の教示を行う教示有集団群,情報モラルと個人アイデンティティ強化の教示を行う教示有個人群,統制群の3群に分けた。
対象者 A県内の大学生と大学院生114名(男性14名,女性100名,平均年齢19.6歳)。
質問紙 LINEのグループトーク画面上で友人たちに攻撃的な言動の同調を求められる場面を提示し,「皆の発言に同意すること」,「非難されている人物をかばうような発言をすること」,「別の話題に転換すること」,「無視すること」の各行動をとることに対してどの程度ためらいを感じるかについて4件法で尋ねた。なお,言動の対象が友人である場面と,先生である場面の2つを提示した。
結果と考察
「皆の発言に同意すること」へのためらい得点を従属変数,群を独立変数として1要因分散分析を行ったところ,友人場面・先生場面ともに有意差がみられた(友人場面:F (2,111)=7.67, p < .01,先生場面: F (2,111)=4.12, p < .05)。そこでTukeyのHSD法による多重比較を行った結果,友人場面では,教示有集団群が統制群および教示有個人群に比べて有意に平均値が低かった。また,先生場面では,教示有集団群が教示有個人群に比べて有意に平均値が低かった(Table 1)。
本研究の結果は,集団アイデンティティが活性化されると,個人アイデンティティが活性化された状況よりも同調へのためらいが小さくなることを示している。ためらいの大きさは同調行動の抑制につながるため,SNSのような非対面状況において集団アイデンティティが強化された場合には,SNSに関する知識の有無とは関係なく周囲に流されて行動してしまう危険性が高くなるといえる。今後は集団アイデンティティの活性化を抑制する教育方法について検討していくことが課題である。
近年,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を利用したいじめが増加している。SNSでの人間関係は現実の延長であることが多く,従来インターネットの特徴とされていた匿名性は保たれていない。一方,時間や場所による制約のなさや,拡散性や履歴性といったインターネット特有の性質は備えている。
閉ざされた空間であるSNSでのいじめは第三者による発見や介入が難しいため,予防的な対策が重要と思われる。インターネット利用によって生じる問題を予防するため,その危険性や特徴を教える情報モラル教育が行われてきた(加納, 2014;高橋,2014)。しかし,いじめには傍観者の加害者に対する同調行動が関係していると指摘されており(齋藤,2000),インターネットの特徴に関する知識の有無のみでなく,同調行動の抑制に関しても考慮する必要がある。
Reicher(1984)は,個人アイデンティティよりも集団アイデンティティが活性化された場合,脱個人化を起こしてその集団規範に従うと述べている。また,Lea & Spears(1991)は非対面状況において集団アイデンティティが活性化された場合に同調行動が起こりやすいとしている。SNSにおけるコミュニケーションは非対面状況で行われるため,集団アイデンティティが活性化された状況では,いじめ予防教育が効果を発揮しない可能性がある。そこで本研究では,集団アイデンティティを意識させるようなSNS特徴教示を行った場合の同調行動について検討する。
方法
手続き 質問紙実験。実験協力者を情報モラルと集団アイデンティティ強化の教示を行う教示有集団群,情報モラルと個人アイデンティティ強化の教示を行う教示有個人群,統制群の3群に分けた。
対象者 A県内の大学生と大学院生114名(男性14名,女性100名,平均年齢19.6歳)。
質問紙 LINEのグループトーク画面上で友人たちに攻撃的な言動の同調を求められる場面を提示し,「皆の発言に同意すること」,「非難されている人物をかばうような発言をすること」,「別の話題に転換すること」,「無視すること」の各行動をとることに対してどの程度ためらいを感じるかについて4件法で尋ねた。なお,言動の対象が友人である場面と,先生である場面の2つを提示した。
結果と考察
「皆の発言に同意すること」へのためらい得点を従属変数,群を独立変数として1要因分散分析を行ったところ,友人場面・先生場面ともに有意差がみられた(友人場面:F (2,111)=7.67, p < .01,先生場面: F (2,111)=4.12, p < .05)。そこでTukeyのHSD法による多重比較を行った結果,友人場面では,教示有集団群が統制群および教示有個人群に比べて有意に平均値が低かった。また,先生場面では,教示有集団群が教示有個人群に比べて有意に平均値が低かった(Table 1)。
本研究の結果は,集団アイデンティティが活性化されると,個人アイデンティティが活性化された状況よりも同調へのためらいが小さくなることを示している。ためらいの大きさは同調行動の抑制につながるため,SNSのような非対面状況において集団アイデンティティが強化された場合には,SNSに関する知識の有無とは関係なく周囲に流されて行動してしまう危険性が高くなるといえる。今後は集団アイデンティティの活性化を抑制する教育方法について検討していくことが課題である。