日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PD

2015年8月27日(木) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PD005] いじめられる側にも問題があるって本当ですか? その3

いじめ被害者への有責性認知判断における理由の分析

福井義一1, 小山聡子2 (1.甲南大学, 2.こいでクリニック)

キーワード:いじめ, 有責性認知, 青年期

問題と目的
いじめは,学校現場において,依然として大きな問題の一つである。いじめの悪影響は広範囲に及び,特に他者への不信感が募る(小山・市井・福井,2013)ため,ソーシャル・サポートを受けられなくなり,社会的な適応が妨げられる。最近では,助けを求められずに,自殺に至るような過酷なものもあり,解決のための有効な手段が望まれている。いじめの解決を妨げている要因はいくつかあるが,その一つに「いじめの被害を受ける側にも問題がある」という被害者への有責性認知が挙げられる(竹川,2002,2010)。こうした有責性認知に関する研究は,まだ少数であるが,小山・福井(2014a)は,大学生を対象に,いじめにおける被害者と加害者の責任の比率を尋ねた結果,被害者にも平均して18.5%の有責性を認知していること,いじめ加害経験のある男性で特に高くなることを明らかにした。また,小山・福井(2014b,2015)は,いじめ被害者への有責性認知の背景に罪悪感の低下があり,その傾向が特にいじめ加害経験のある男性で顕著であることを発見した。しかしながら,適切ないじめ問題解決の手段を見出すためには,上述したいじめ被害・加害経験の有無や罪悪感の低下以外の要因についても検討する必要があると思われる。
そこで,本研究では,いじめ被害者への有責性認知が生じる要因をさらに詳細に検討するために,小山・福井(2014a,2014b,2015)の調査時に同時に得ていた「いじめ被害者への有責性を判断した理由」について,探索的に分析した。
方法
調査対象者:平均年齢19.77歳(SD =1.72)の大学生472名(女性257名,男性212名,未記入3名)の協力を得た。
尺度:いじめ被害者と加害者の責任の比率を答えた後に,その理由を自由記述で尋ねた。これらは,小山・福井(2014a,2014b,2015)で用いたデータと同時に収集されたものである。
結果
得られた自由記述の回答をKJ法により分類した結果,以下の7つのカテゴリーに分類された。順に,Ⅰ:「漠然とした理由」,Ⅱ:「性格・行動説」,Ⅲ:「解決努力の放棄」,Ⅳ:「絶対悪」,Ⅴ:「大人からの示唆」,Ⅵ:「報復」,Ⅶ:「外的要因」であった。カテゴリーと回答例をTable 1に示した。
最も多いのは,Ⅰの「漠然とした理由」で全体の40%以上,次にⅣの「絶対悪」が約25%,続いて,Ⅱの「性格・行動説」とⅢの「解決努力の放棄」が約10%程度あり,残りのⅤ,Ⅵ,Ⅶは10%未満と,非常に少なかった。
考察
本研究の目的は,いじめ被害者への有責性認知を判断した理由について,探索的に分析することであった。多くの対象者が,理由を尋ねられているにもかかわらず,「何となく」,漠然と被害者にも責任を帰していることが分かった。また,「絶対にダメ」と答えた場合も,「なぜダメなのか?」についての具体的な理由にまで踏み込んだ回答はほとんどなく,根拠が薄弱なまま,いずれかに責任を帰していると思われる。また,いじめを受けている側が,解決のために具体的に努力しなかったことを責める者が存外に多かったことは,非常に興味深い。いじめが犯罪行為であるとすれば,被害者が解決や対処を怠ったから,犯罪にあっても仕方がないという論理であり,いじめ問題に対する道徳的な発達水準の未熟さをうかがわせる。
今後は,質問紙に付属する自由記述回答だけではなく,構造化面接などを用いて,より具体的な理由を詳細に明らかにする必要があると思われる。
キーワード:いじめ,有責性認知,青年期