日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PD

2015年8月27日(木) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PD012] 小学校におけるソーシャルスキル教育を中心とした心理教育の縦断実践研究(2)

時間差を考慮した三水準モデルの検証

増南太志1, 藤枝静暁2, 相川充3 (1.川口短期大学, 2.埼玉学園大学, 3.筑波大学)

キーワード:ソーシャルスキル教育, 学校適応の三水準モデル, 共分散構造分析

問題と目的
筆者らは平成26年度,27年度と,公立小学校1校において,ソーシャルスキル教育を中心技法とする“こころの教育”を継続的に実践している。その目的は,児童の自己肯定感および学校適応感の育成である。具体的内容は,1学期にあいさつ,聴き方&話し方,感謝の3つのソーシャルスキルを取り上げ,2学期からは感情スキルを取り上げた。本研究の理論的背景として,学校適応アセスメントのための三水準モデル(大対・大竹・松見,2007)を採用している。このモデルは水準1から水準3までの3段階の階層構造を成している。山田・神山・栗原(2009)は,共分散構造分析を用いて三水準モデルの検証をおこない,モデルの過程は概ね認められるものの,水準1の行動的機能から水準2の学業的機能への影響が見られない等,一部モデルと異なる結果を示した。しかし,個人の行動が,より高水準の機能に影響を及ぼすには,時間がかかる可能性がある。本研究では,水準1と水準2,3の間に時間差を考慮してモデルの検証をおこなった。また,比較のため,時間差のないデータについても検証した。
方法
対象校と児童:関東の公立小学校1校,全学年2クラス編成で合計12クラス。調査対象者は質問の内容を理解し回答することができる3年生以上の子ども245名であった。
調査時期:調査は平成26年5月及び12月に,クラス毎に行われた。個人情報保護および記入漏れなどの回答不備の確認のために,担任が子どもひとり一人から回収した。
尺度:児童用コンピテンス尺度(学習,運動,社会,自己価値),ソーシャルスキル教育尺度(感謝,聞く話す,あいさつ),ソーシャルサポート尺度,学校適応感尺度,ソーシャルスキル尺度(攻撃性,向社会性,引っ込み思案),自己肯定感を調べるための項目を実施した。回答は「よくあてはまる」から「まったくあてはまらない」の4件法であった。各尺度の下位項目と三水準モデルの対応関係はFigure1のとおりである。
結果と考察
分析対象:分析対象は3年生男子23名,女子34名,4年生男子28名,女子28名,5年生男子24名,女子40名,6年生男子40名,女子28名,計245名であった。
共分散構造分析:モデルの検証のあたっては,⑴水準1~3いずれも5月期のデータの場合,⑵水準1~3のいずれも12月期のデータの場合,⑶水準1が5月期,水準2,3が12月期の場合の3つのパターンについて,共分散構造分析を実施した。このうち,⑶が時間差を考慮した検証である。Table1にそれぞれのパターンに対する適合度指標を示した。Table1より,⑴⑵に比べ,⑶はχ2値とRMSEAが低く,GFIとCFIが大きいため,数値的には良いといえる。しかしながら,いずれのパターンも三水準モデルに十分に適合しているとはいえない結果であった。そのため,山田ら(2009)のように,三水準モデルの見直しを検討する必要があるかもしれない。しかし,各尺度の下位項目とモデルの対応関係の見直しも検討する必要がある。例えば,大対ら(2007)によると,モデルの行動的機能は,感情過程や認知過程などの影響を受けるとされる。本研究で用いた尺度が,これらの過程に対応づけられる可能性がないかなどを検討する余地があると考えられる。