[PD015] 教訓帰納方略教授が生徒の自己効力感に与える影響の検討
Keywords:教訓帰納, 自己効力感, 学習観
問題と目的
本研究で扱う学習方略は,教訓帰納(市川, 1991)と呼ばれる学習後のふり返りの際に行われる学習方略である。市川(1993)は,問題を解くごとに,「自分はこの問題から何を学んだのか」を言語化し,書き留め,「学習の成果」を目に見える形にすることは,学習動機づけを高めるという点において重要であると論じている。教訓帰納に関する先行研究は少ないながらも行われてきているが,その大半は教訓帰納の効果を事後課題の成績によって測定しようとしてきた(寺尾, 1998; 邑本, 1999; 岡野, 2001; 川上, 2002, 2003, 2004; 板垣, 2008; 和田, 2008; 瀬尾・赤坂・植阪・市川, 2013; 佐野, 2014)。一方で植阪(2010)では,教訓帰納の獲得を中心に指導を行った結果,学習観に変化が見られ,尚且つ学習意欲も著しく高まったことが報告されている。
教訓帰納という学習方略が市川(1991)によって導入されて以来,この植阪(2010)の実践のように学習意欲や動機づけの向上が見られたという研究はほとんど報告されていない。植阪(2010)の実践研究によって示された,生徒に教訓帰納方略を教授することによって,学習意欲が高まったという知見を,より実証的に明らかにすることは,教育実践においても一つの示唆を与えることができると考える。そこで本研究では,学習意欲の源泉とされる自己効力感を高めることを目的とする。
本研究では,教訓帰納方略という方略を教授することによって,学習者の自己効力感を高めうるかについて検討する。併せて,自己効力感に与える教訓帰納の効果が教訓の起源(自己生成または提示)および学習者の個人差(学習観,達成目標)によって,どのように調整されるのかを検討する。
方法
2014年3月25日から3月29日までの5日間に,東京大学で実施された学習ゼミナールに参加した中学2年生を対象に研究を行った。最終的に分析に用いた5日間無遅刻・無欠席であった参加者は72名であった(教訓提示群, 36名:教訓自己生成群, 36名)。
手続き
講座開始の約1ヶ月前に質問紙を郵送し,数学の学習に対する学習観,数学に対しての自己効力感,達成目標を測定した。2群を「教訓提示群」と「教訓自己生成群」に分け,講座中の問題解決後のふり返りの際,「提示群」には「良い教訓の例」として,問題解決のポイントの書かれた解答を配布したのち,必要に応じて問題の解答欄に記述させた。一方の「自己生成群」は,理解確認の後,自分自身で教訓を生成させた。講座終了後,事前質問紙と同様の自己効力感を測定した。
結果と考察
講座の前後で自己効力感に差が見られるかを検討した。群間差を検討したが,条件の有意差は見られなかった。つぎに,学習者の個人差(学習観,達成目標)によって,介入効果がどのように調整されるのかを検討した。分析の結果,事前の自己効力感が高い学習者ほど,条件の違いによって事後の自己効力感に与える正の影響が強くなることが示唆された。失敗活用志向の低い場合は,条件の効果が有意傾向となった。失敗活用志向という学習観の低い学習者ほど,条件の違いによって事後の自己効力感に与える正の影響が強くなることが示唆された。個人差を検討した結果については,自己効力感が高い学習者は,教訓を自己生成する場合,「この問題のポイントは,次の学習に役に立つだろう」,「このふり返りの方法で今後の学習がうまくいくだろう」というように考え,より自己効力感を促進したのではないかと考えられる。また,失敗活用志向の低い学習者は,教訓を自己生成するという体験を通じて,今まで避けてきた間違いや失敗を受け入れ,問題解決のポイントや自らの認知特性のつまずき,新たな学習方法への気付きといった教訓を引き出したことで,その後の学習に対する自己効力感が高まったと示唆される。
本研究で扱う学習方略は,教訓帰納(市川, 1991)と呼ばれる学習後のふり返りの際に行われる学習方略である。市川(1993)は,問題を解くごとに,「自分はこの問題から何を学んだのか」を言語化し,書き留め,「学習の成果」を目に見える形にすることは,学習動機づけを高めるという点において重要であると論じている。教訓帰納に関する先行研究は少ないながらも行われてきているが,その大半は教訓帰納の効果を事後課題の成績によって測定しようとしてきた(寺尾, 1998; 邑本, 1999; 岡野, 2001; 川上, 2002, 2003, 2004; 板垣, 2008; 和田, 2008; 瀬尾・赤坂・植阪・市川, 2013; 佐野, 2014)。一方で植阪(2010)では,教訓帰納の獲得を中心に指導を行った結果,学習観に変化が見られ,尚且つ学習意欲も著しく高まったことが報告されている。
教訓帰納という学習方略が市川(1991)によって導入されて以来,この植阪(2010)の実践のように学習意欲や動機づけの向上が見られたという研究はほとんど報告されていない。植阪(2010)の実践研究によって示された,生徒に教訓帰納方略を教授することによって,学習意欲が高まったという知見を,より実証的に明らかにすることは,教育実践においても一つの示唆を与えることができると考える。そこで本研究では,学習意欲の源泉とされる自己効力感を高めることを目的とする。
本研究では,教訓帰納方略という方略を教授することによって,学習者の自己効力感を高めうるかについて検討する。併せて,自己効力感に与える教訓帰納の効果が教訓の起源(自己生成または提示)および学習者の個人差(学習観,達成目標)によって,どのように調整されるのかを検討する。
方法
2014年3月25日から3月29日までの5日間に,東京大学で実施された学習ゼミナールに参加した中学2年生を対象に研究を行った。最終的に分析に用いた5日間無遅刻・無欠席であった参加者は72名であった(教訓提示群, 36名:教訓自己生成群, 36名)。
手続き
講座開始の約1ヶ月前に質問紙を郵送し,数学の学習に対する学習観,数学に対しての自己効力感,達成目標を測定した。2群を「教訓提示群」と「教訓自己生成群」に分け,講座中の問題解決後のふり返りの際,「提示群」には「良い教訓の例」として,問題解決のポイントの書かれた解答を配布したのち,必要に応じて問題の解答欄に記述させた。一方の「自己生成群」は,理解確認の後,自分自身で教訓を生成させた。講座終了後,事前質問紙と同様の自己効力感を測定した。
結果と考察
講座の前後で自己効力感に差が見られるかを検討した。群間差を検討したが,条件の有意差は見られなかった。つぎに,学習者の個人差(学習観,達成目標)によって,介入効果がどのように調整されるのかを検討した。分析の結果,事前の自己効力感が高い学習者ほど,条件の違いによって事後の自己効力感に与える正の影響が強くなることが示唆された。失敗活用志向の低い場合は,条件の効果が有意傾向となった。失敗活用志向という学習観の低い学習者ほど,条件の違いによって事後の自己効力感に与える正の影響が強くなることが示唆された。個人差を検討した結果については,自己効力感が高い学習者は,教訓を自己生成する場合,「この問題のポイントは,次の学習に役に立つだろう」,「このふり返りの方法で今後の学習がうまくいくだろう」というように考え,より自己効力感を促進したのではないかと考えられる。また,失敗活用志向の低い学習者は,教訓を自己生成するという体験を通じて,今まで避けてきた間違いや失敗を受け入れ,問題解決のポイントや自らの認知特性のつまずき,新たな学習方法への気付きといった教訓を引き出したことで,その後の学習に対する自己効力感が高まったと示唆される。