[PD017] 成人英語学習者への絵本を使った実践報告
Keywords:英語教育, 成人, 絵本
はじめに
一般的に絵本は子どもを対象としていると捉えられがちだが,大人にとっても,あるいは経験を積んだ大人だからこそ楽しめる絵本が多く存在している(岡田,2011;落合,2006)。英語教育の分野では大学生を対象に絵本を教材とした実践報告を散見するが(e.g.,林,2012;藤岡,2007),第二の人生を謳歌するシニア層の学習者を対象とした実践例の報告は限られている(e.g.,糸井,2007)。筆者が担当している大学や自治体の成人向け英語クラスでは,特に明確な英語達成目標を持たず,趣味,教養,健康などのために英語を学び続けるシニア層が大半を占めている。本稿ではそのような学習者を対象に絵本を教材とした英語指導の実践を報告する。
選書と活用方法
おそらく最も重要なことの一つは学習者に適した絵本を探し入手することである。最近ではインターネットのお陰で簡単に絵本の情報を知り,購入することができるようになった。例えば,www. goodreads.comの“Picture Books for Adults”のページには家族や人生などがテーマの,癒されたり心を揺さぶられたりする絵本が100冊以上書評とともに紹介されており,購入することも可能である。古本を安く入手するにはwww.betterworldbooks.comがお勧めである。
新しい絵本を手にしたときの学習者は,まず絵を見ながらまだ訪れていない絵本の世界へ引き込まれて行く。どんな物語が展開されていくのかをタイトルと絵だけを見ながら話し合うことによってより深い内容理解につながっていく。次のレッスンから読み進めていくために,数ページ分の重要な語彙を提示し,発音記号と意味を調べる課題を出す。次のレッスンではまず語彙の確認,発音練習をした後に筆者に続いての音読を繰り返す。特にチャンク(意味の固まりの単位)を意識し,強形の内容語(動詞,名詞,形容詞,副詞など)と弱形になる機能語(前置詞や代名詞など)で生まれる英語らしいイントネーションに注意を促す。次に内容が理解されているのかを口答で確認し,解釈が分かれるものはできるだけ多くの人からの意見を聞くように心がける。全てのページの内容理解ができ音読もスムーズになった後は物語のリテリングを行ったり,ペープサートのような簡単な人形劇で発表を行ったりする。
絵本を使ったレッスンに対して受講者は絵も物語も楽しめ癒される学びであるという感想を報告している。
おわりに
本稿では指導者のいる教室環境での絵本活用方法を紹介したが,さらに学習効果を高めるために学習者個人が自律的に取り組める多読を取り入れる方法を検討することも必要だと思える。また独学で英語を学んでいる人たちにも絵本を利用した英語学習が可能になるようなガイドブックや学習書の開発,出版が望まれる。
引用文献
糸井江美 (2007). 生涯学習として英語を学ぶ人たちのニーズ分析 文教大学文学部紀要,21-1,171-189.
岡田達信 (2011). 大人のための絵本セラピー:絵本はこころの処方箋 端雲舎
落合恵子 (2006). 絵本屋の日曜日 岩波書店
林千代 (2012). 大人の第2言語学習者のための児童文学 国立音楽大学研究紀要 47, 107-115.
藤岡千伊奈 (2007). 大学生を対象とした絵本の読み聴かせを導入したリーディング授業 JACET全国大会要綱 46, 128-129.
一般的に絵本は子どもを対象としていると捉えられがちだが,大人にとっても,あるいは経験を積んだ大人だからこそ楽しめる絵本が多く存在している(岡田,2011;落合,2006)。英語教育の分野では大学生を対象に絵本を教材とした実践報告を散見するが(e.g.,林,2012;藤岡,2007),第二の人生を謳歌するシニア層の学習者を対象とした実践例の報告は限られている(e.g.,糸井,2007)。筆者が担当している大学や自治体の成人向け英語クラスでは,特に明確な英語達成目標を持たず,趣味,教養,健康などのために英語を学び続けるシニア層が大半を占めている。本稿ではそのような学習者を対象に絵本を教材とした英語指導の実践を報告する。
選書と活用方法
おそらく最も重要なことの一つは学習者に適した絵本を探し入手することである。最近ではインターネットのお陰で簡単に絵本の情報を知り,購入することができるようになった。例えば,www. goodreads.comの“Picture Books for Adults”のページには家族や人生などがテーマの,癒されたり心を揺さぶられたりする絵本が100冊以上書評とともに紹介されており,購入することも可能である。古本を安く入手するにはwww.betterworldbooks.comがお勧めである。
新しい絵本を手にしたときの学習者は,まず絵を見ながらまだ訪れていない絵本の世界へ引き込まれて行く。どんな物語が展開されていくのかをタイトルと絵だけを見ながら話し合うことによってより深い内容理解につながっていく。次のレッスンから読み進めていくために,数ページ分の重要な語彙を提示し,発音記号と意味を調べる課題を出す。次のレッスンではまず語彙の確認,発音練習をした後に筆者に続いての音読を繰り返す。特にチャンク(意味の固まりの単位)を意識し,強形の内容語(動詞,名詞,形容詞,副詞など)と弱形になる機能語(前置詞や代名詞など)で生まれる英語らしいイントネーションに注意を促す。次に内容が理解されているのかを口答で確認し,解釈が分かれるものはできるだけ多くの人からの意見を聞くように心がける。全てのページの内容理解ができ音読もスムーズになった後は物語のリテリングを行ったり,ペープサートのような簡単な人形劇で発表を行ったりする。
絵本を使ったレッスンに対して受講者は絵も物語も楽しめ癒される学びであるという感想を報告している。
おわりに
本稿では指導者のいる教室環境での絵本活用方法を紹介したが,さらに学習効果を高めるために学習者個人が自律的に取り組める多読を取り入れる方法を検討することも必要だと思える。また独学で英語を学んでいる人たちにも絵本を利用した英語学習が可能になるようなガイドブックや学習書の開発,出版が望まれる。
引用文献
糸井江美 (2007). 生涯学習として英語を学ぶ人たちのニーズ分析 文教大学文学部紀要,21-1,171-189.
岡田達信 (2011). 大人のための絵本セラピー:絵本はこころの処方箋 端雲舎
落合恵子 (2006). 絵本屋の日曜日 岩波書店
林千代 (2012). 大人の第2言語学習者のための児童文学 国立音楽大学研究紀要 47, 107-115.
藤岡千伊奈 (2007). 大学生を対象とした絵本の読み聴かせを導入したリーディング授業 JACET全国大会要綱 46, 128-129.