The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PD

Thu. Aug 27, 2015 10:00 AM - 12:00 PM メインホールA (2階)

[PD020] ピア・プレッシャーによってル・バーへの確信度を意図的に高めることが概念変容に及ぼす効果

「融合法」の有効性についての検討

植松公威 (東北生活文化大学)

Keywords:ル・バー, 概念変容, 融合法

問題と目的
概念変容を促す教授ストラテジーである「対決型」は事例がある概念に属するということを最初に学び,その理由としてルールや内包を認識するという過程を経る(eg→ru変換)と考えられる。一方,「懐柔型」はルールや内包を既知の事例に基づいて最初に学び,次にルール適用によって事例を学ぶという過程を経る(ru→eg変換)と考えられる。この違いは,外延課題では一部の事例で対決型の方が懐柔型よりも優れていて,内包課題では懐柔型の方が対決型よりも優れているという結果(植松 2014)によって裏付けられる。したがって外延と内包の両課題の解決を促進するためには対決型と懐柔型を統合した「融合法」(進藤・麻柄・伏見2006)が有効であると考えられる。
しかし「融合法」の効果はル・バーへの確信度の程度によって異なると予想される。植松(2014)では対決型においてル・バーへの確信度をピア・プレッシャーによって低から高へ意図的に高めた「低→高」群の成績が「高→高」群や「低→低」群よりも優れている傾向にあった。「高→高」群はル・バーへの確信度がとても高く,反証事例に対する驚きが大きすぎて受け入れることが難しくル・バーが修正されにくかったと推測できる。「低→低」群はル・バーへの確信度が低のまま変化しなかった群で,反証事例に対する驚きが小さくインパクトに欠けたため修正が難しかったと推測できる。それに対して「低→高」群は適度な驚きを伴い修正されやすかったと言える。「融合法」でも同様の結果が生じると予想される。
方法
概要 宮城県内の私立の短大生を対象に「ペットは家畜ではない」というル・バーの修正を図る。教えたいルールは「人間が長い間,飼い養い,人間の都合の良いように品種改良され,自然界では生きていけなくなった動物が家畜である」というものである。①事前課題→②ピア・プレッシャーによってル・バーへの確信度を意図的に高める操作→③読み物→④事後課題を行った。学習者は全員,冊子を通して同じものを読んだ。
ピア・プレッシャーによってル・バーへの確信度を意図的に高める操作 全ての学習者に「イヌ,ネコ,キンギョに対しては8~9割の学生が『家畜ではない』と答えている」と予備調査結果を示し,ル・バーを支持し同調するようにピア・プレッシャーを与えた。その上で再度,上述の3事例が家畜であるか否かの判断とその判断に対する確信度(0~100%の5段階評定)の記入を求めた。
読み物 「イヌ→ネコ→ブタ→モルモット→キンギョ」を「融合型」の事例とした。最初のイヌ,ネコが「対決型」の事例であり,ブタからキンギョまでが「懐柔型」の事例配列となる。
課題(外延課題と内包課題) ウマ,ウサギ,カイコ,セイヨウミツバチ,アヒル,シチメンチョウ(ターゲット6事例)などに関して「家畜である」と思ったら○,「家畜ではない」と思ったら×,どちらかわからない場合には△の記入を求めた。イヌ,ネコ,キンギョの全てに75%以上の確信度(5段階評定)で×をつけた者をル・バーへの確信度が高いと判断し,それ以外を確信度が低いとした(①,②で実施し群分けに用いた)。
ペットの家畜であるフェレットとその先祖のケナガイタチの性質の違い(体の色の変化など3項目)を判断してもらった(事後のみ)。
結果と考察
事前でイヌ,ネコ,キンギョのいずれかに○をつけた者,ブタに○をつけなかった者,ターゲット6事例全てに正答した者を分析から除外した。「高→高」群12名,「低→高」群17名,「低→低」群14名が分析対象。ペット色の強いウマとウサギ両方の正答者率の伸び(事後-事前)は「低→高」群が65%で「高→高」群42%,「低→低」群50%であった。予想通り「低→高」群が一番優れていた。「融合法」はル・バーへの確信度が適度に高い場合に最も有効である可能性がある。
内包課題で「体の色」が「違う」と変化に気づいた者は「高→高」群33%,「低→高」群24%,「低→低」群50%,「外の寒さへの強さ」の変化に気づいた者は「高→高」群75%,「低→高」群59%,「低→低」群57 %であり,どの群も内包の理解は不十分であった。
「融合法」には「懐柔型」から始まり「対決型」へとつながる事例配列も考えられる(ブタ→モルモット→イヌ→ネコ→キンギョ)。またegとruを一つずつ細かく確かめていく「験証法」(麻柄 1994)の事例配列(イヌ→ブタ→キンギョ→ニワトリ)も考えられる。これも「対決型」と「懐柔型」を組み合わせた事例配列と位置づけられる。外延と内包両課題の解決に有効な「融合型」のあり方について人数を増やして検討する必要がある。