[PD028] 描写のイメージ化と解釈の検証が物語文の読みへ及ぼす影響
『ごんぎつね』の読み取り場面に着目して
Keywords:物語文の読み, 『ごんぎつね』
1.問題と目的
佐藤・小倉(2005)は,心情解釈の変化に及ぼす効果に注目し,「アプリオリに設定された主題・テーマにもとづいたものではなく,文章中に証拠となる描写がより豊富であるような解釈がより適切な心情解釈であるという見地に立ち,そのような解釈を獲得させるのに有効な方略」として,描写の映像化方略と解釈の検証方略を用いて検討した。併せて,物語文の読解において何を重視するかという「読解観」の変容についても検討した。
佐藤・小倉(2005)で採用された方略は心情解釈と読解観で期待された方向への変容がもたらされた。しかし,描写の映像化方略については,授業経過における対象者の反応から観て,情景を具体的にイメージさせる上では発問が不十分であった。
本研究では,先行研究を踏まえ次の二つを目的とする。1つ目は,佐藤・小倉(2005)を参考に,後述の方略にもとづく調査紙とワークシートを構成し大学院生に対して,『ごんぎつね』におけるごんの心情を読み取る課題と,物語文を読む際に何を重視するかを問う課題に及ぼす影響を検討する。その方略とは,(1)描写のイメージ化方略:状況や行動の描写を具体的な情景としてイメージさせること,(2)解釈の検証方略:心情解釈の根拠となる文章をさがし(考え)解釈の妥当性を検討させることである。2つ目は,大学院生の結果を踏まえ,上記の2つの方略が小学生に対しても,『ごんぎつね』におけるごんの心情を読み取る課題と,物語文を読む際に何を重視するかを問う課題に及ぼす影響を検討する。大学院生と同様に読解観についても検討する。
2.実践1
ねらい:先行研究を踏まえ,実践1では,『ごんぎつね』を学習した経験のある大学院生に対して,「描写のイメージ化」方略と「解釈の検証」方略が有効であるかを検討し,物語文の読みにも影響を及ぼすかどうかを調べる。
方法:学習者は,H県内国立大学の大学院生8名。
調査時期は,事前調査が2014年4~5月,授業実践及び事後調査は2014年9~10月にかけて実施した。概要は,事前調査(心情課題,根拠課題,読解観課題),教授活動(ワークシート),事後調査(事前の内容にイメージの変化を問う課題を追加)の順で実施した。
結果と考察:大学院生では,ほとんどの学習者が事後にイメージの変容があったと答えているが,そのことが直接,ごんの行動を「いたずらが楽しい」という枠組みで解釈する事へは影響を及ぼせなかったことが示唆された。
3.実践2
ねらい:実践2では,実践1同様に,『ごんぎつね』を学習した経験のある小学6年生に対して,「描写のイメージ化」方略と「解釈の検証」方略が物語文の読みにも影響を及ぼすかを検討した。
方法:学習者は,H県内市立小学校の6年生35名。
調査時期は,事前調査は2014年9月中旬に学級担任によって実施された。教授活動は2014年の9月25日に筆者と学級担任の共同で実施した。事後調査は,2014年9月末にかけて学級担任によって実施された。概要は,事前調査(心情課題,根拠課題,読解観課題),教授活動(ワークシート),事後調査(事前の内容にイメージの変化を問う課題を追加)の順で実施した。
結果と考察:小学生では,「いたずらが楽しい」枠組みの解釈を事後に一貫して選択した複数の児童に,2つの方略の影響が見られたといえる。
一方で,場面ごとや全体を通して,「さみしい」枠組みの解釈に影響を受けていた児童も見られた。多くの児童が,実践授業では「いたずらが楽しい」という枠組みの解釈に近い回答を示したものの,根拠課題や感想で「ひとりぼっち」という言葉をあげており,「さみしい」枠組みの解釈が強固に残ってしまうことを明らかにした。
また,更なる分析の結果,児童A~Eの特徴的な5タイプの児童がみられた。児童Aと児童Bに関しては,事後に「いたずら型」を選択しており,「いたずらが楽しい」枠組みの解釈を事後に保持していたことが示唆されていた。児童Cと児童Dは,事後に「さみしい」を含む類型を選択しているが,「いたずらが楽しい」「さみしい」のどちらにも影響を受けており複合型ともいえる。児童Eは,「その他」に含まれているが,全体を通して「さみしい」枠組みの解釈が継続して見られる結果となった。これらのことは,当初の目標であった「いたずらが楽しい」枠組みの解釈への変容の難しさを示した。しかしながら,既学習であるにも関わらず,授業前には持つことが出来ていなかった「いたずらが楽しい」「さみしい」という複数の読みを持つことができるようになったことは一定の意義があるのではないかと考える。
佐藤・小倉(2005)は,心情解釈の変化に及ぼす効果に注目し,「アプリオリに設定された主題・テーマにもとづいたものではなく,文章中に証拠となる描写がより豊富であるような解釈がより適切な心情解釈であるという見地に立ち,そのような解釈を獲得させるのに有効な方略」として,描写の映像化方略と解釈の検証方略を用いて検討した。併せて,物語文の読解において何を重視するかという「読解観」の変容についても検討した。
佐藤・小倉(2005)で採用された方略は心情解釈と読解観で期待された方向への変容がもたらされた。しかし,描写の映像化方略については,授業経過における対象者の反応から観て,情景を具体的にイメージさせる上では発問が不十分であった。
本研究では,先行研究を踏まえ次の二つを目的とする。1つ目は,佐藤・小倉(2005)を参考に,後述の方略にもとづく調査紙とワークシートを構成し大学院生に対して,『ごんぎつね』におけるごんの心情を読み取る課題と,物語文を読む際に何を重視するかを問う課題に及ぼす影響を検討する。その方略とは,(1)描写のイメージ化方略:状況や行動の描写を具体的な情景としてイメージさせること,(2)解釈の検証方略:心情解釈の根拠となる文章をさがし(考え)解釈の妥当性を検討させることである。2つ目は,大学院生の結果を踏まえ,上記の2つの方略が小学生に対しても,『ごんぎつね』におけるごんの心情を読み取る課題と,物語文を読む際に何を重視するかを問う課題に及ぼす影響を検討する。大学院生と同様に読解観についても検討する。
2.実践1
ねらい:先行研究を踏まえ,実践1では,『ごんぎつね』を学習した経験のある大学院生に対して,「描写のイメージ化」方略と「解釈の検証」方略が有効であるかを検討し,物語文の読みにも影響を及ぼすかどうかを調べる。
方法:学習者は,H県内国立大学の大学院生8名。
調査時期は,事前調査が2014年4~5月,授業実践及び事後調査は2014年9~10月にかけて実施した。概要は,事前調査(心情課題,根拠課題,読解観課題),教授活動(ワークシート),事後調査(事前の内容にイメージの変化を問う課題を追加)の順で実施した。
結果と考察:大学院生では,ほとんどの学習者が事後にイメージの変容があったと答えているが,そのことが直接,ごんの行動を「いたずらが楽しい」という枠組みで解釈する事へは影響を及ぼせなかったことが示唆された。
3.実践2
ねらい:実践2では,実践1同様に,『ごんぎつね』を学習した経験のある小学6年生に対して,「描写のイメージ化」方略と「解釈の検証」方略が物語文の読みにも影響を及ぼすかを検討した。
方法:学習者は,H県内市立小学校の6年生35名。
調査時期は,事前調査は2014年9月中旬に学級担任によって実施された。教授活動は2014年の9月25日に筆者と学級担任の共同で実施した。事後調査は,2014年9月末にかけて学級担任によって実施された。概要は,事前調査(心情課題,根拠課題,読解観課題),教授活動(ワークシート),事後調査(事前の内容にイメージの変化を問う課題を追加)の順で実施した。
結果と考察:小学生では,「いたずらが楽しい」枠組みの解釈を事後に一貫して選択した複数の児童に,2つの方略の影響が見られたといえる。
一方で,場面ごとや全体を通して,「さみしい」枠組みの解釈に影響を受けていた児童も見られた。多くの児童が,実践授業では「いたずらが楽しい」という枠組みの解釈に近い回答を示したものの,根拠課題や感想で「ひとりぼっち」という言葉をあげており,「さみしい」枠組みの解釈が強固に残ってしまうことを明らかにした。
また,更なる分析の結果,児童A~Eの特徴的な5タイプの児童がみられた。児童Aと児童Bに関しては,事後に「いたずら型」を選択しており,「いたずらが楽しい」枠組みの解釈を事後に保持していたことが示唆されていた。児童Cと児童Dは,事後に「さみしい」を含む類型を選択しているが,「いたずらが楽しい」「さみしい」のどちらにも影響を受けており複合型ともいえる。児童Eは,「その他」に含まれているが,全体を通して「さみしい」枠組みの解釈が継続して見られる結果となった。これらのことは,当初の目標であった「いたずらが楽しい」枠組みの解釈への変容の難しさを示した。しかしながら,既学習であるにも関わらず,授業前には持つことが出来ていなかった「いたずらが楽しい」「さみしい」という複数の読みを持つことができるようになったことは一定の意義があるのではないかと考える。