The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PD

Thu. Aug 27, 2015 10:00 AM - 12:00 PM メインホールA (2階)

[PD033] 保護者対応考案と評価

保育士養成校における教育実践より

津江美和 (高知福祉専門学校)

Keywords:保護者対応, 評価

目的
初任保育者の悩みとして最も多く挙がるのは「親とのつき合い」という(石井2004)。教育現場での援助者の役割は,子どもへの教育のみならず,保護者との関わりも重要となる。筆者が勤務する保育士養成校の学生に志望動機や目標を尋ねると,「子どもが好き」「子どもや保護者から好かれ,信頼される保育士」という(津江2014)。筆者も援助者として保護者対応に悩み,後に母親として援助者に「理解されない」思いも抱いた。現場での保護者との意思疎通の困難さは,リアリティ・ショックの1つといえる。学生時代に体験する現場としては,実習があるが,保護者対応は観察以外に手立てはない。学生の段階で現実味をもって保護者対応を考える機会が必要である。
今回の教育実践では,架空事例を提示し,言葉かけなど具体的援助を考えさせた。教育活動ゆえ,得られた回答を筆者が評価した。では,保育士養成において指導者は何を基準として評価するのか。ここを検証していくことで,保護者との「望ましい関わり」への手がかりを明らかにしたい。
方法
対象者:保育士養成校1年(男14名,女36名)
課題:「発達心理学」期末試験を専門学校に了承いただき,分析する。保育誌「プリプリ」の「心理的虐待が疑われる事例」を参照し,筆者が架空の事例を作成し,学生に提示し回答を得た。
採点は,「保護者に受け入れられる可能性が高いか低いか」という筆者の主観的判断で行われた。得点の高低(H群L群)により,記述にどのような特徴があるのか,分析してゆく。
結果
1.H群に見られた特徴
母親へは,「お仕事,お疲れ様です」など,労いの言葉がある。あるいは,直接かける言葉はない。
A子に,母親が来ることを楽しみにしながら待てる前向きな言葉かけがある。また,支度を早く済ませておく具体的援助がある。
2.L群に見られた特徴
援助行動欄には「忙しい母親に共感する・理解する」とあるものの,実際の言葉かけでは「もう少し待ってあげて下さい」「怒らないで下さい」など,母親に変化を要請する。あるいは,「帰りをずっと待っていましたよ」と,A子の気持ちを代弁する。
考察
今回の架空事例は,マルトリートメントのイエローとレッドの境目ゾーンに位置するだろう。保育士としてどう援助していくかは諸説分かれる。しかし,初期段階としては,母親の状況を理解すること,辛い思いに共感すること,ともに子どもに関わる者として関係維持に努めること,が重要となる。母親に対しては労いの言葉こそが,必要となろう。あるいは,仕事と家庭に忙殺される母親を見守る姿勢である。もちろん,放任ではない。
H群の回答は,母親を思いやろうとする気持ちが第一に感じられた。また,「A子の帰り支度を早めに済ませておく」という具体的援助を示している。保育士が道具的ソーシャルサポートを行うことで,忙しい母親の負担は少しでも軽減されるだろう。また,母親の置かれた状況に焦点を当てている。円環的因果律により状況を理解し,悪循環を変化させるシステムズ・アプローチである。
L群の回答は,変化を求めるYouメッセージを用いることで,母親からすると指示,命令,…されたと受け止められかねない。母親は自己否定されたように思い,「先生はわかってくれない」と感じるかもしれない。子ども理解の使命感に燃える保育士がA子の気持ちを代弁することで,母親は主導権を奪われたように,この捉え方には「母親の不適切な関わりで被害を受けるA子」という直線的因果律が潜んではいまいか。援助者として母親を理解,共感したいという思いはあっても,それが相手に伝わらないことで,保護者対応に悩み苦しむ結果となるかもしれない。
最後に,本研究のきっかけとなった学生の回答を挙げる。Selmanら(1986)の対人交渉方略モデルでは最も高いレベル3に協力がある。現実を見つめつつ,さりげなくそれを行う回答である。