日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PD

2015年8月27日(木) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PD035] 3囚人問題はなぜ難しいのか

準抽象化教示の効果

寺尾敦1, 伊藤朋子2 (1.青山学院大学, 2.明星大学)

キーワード:確率推論, ベイズの定理, 抽象化

3囚人問題(Shimojo & Ichikawa,1989)はベイズの定理を適用して解決できるが,非常に難しく,しかも正解を納得しがたい。
本研究では,比較的容易なベイズ推論課題が解決できる学習者への,準抽象化教示(鈴木・寺尾,2014教心総会)の効果を検証した。準抽象化とは人が構成する問題表象の基盤となる知識である。この観点からベイズの定理を考えると,求める事後確率は,データ(D)が得られる「世界」の中で「仮説」(H)が正しい確率と見なすことができる。鈴木・寺尾(2014)では,準抽象化教示を用いることで,3囚人問題でおよそ40%の正答率が得られた。
方 法
参加者:青山学院大学社会情報学部での1年生必修科目「統計入門」の受講者のうち,本実験を行った2回の授業にいずれも出席した65名のデータを分析した。
材料と手続き:確率についての学習が2回の授業(1回180分)にわたって行われた。ベイズの定理は2回目の授業で講義された。準抽象化の観点から,図1に示すベン図を用いて,データ(D)が得られる「世界」の中で「仮説」(H)が正しい確率を求めるということが説明された。ベイズの定理の使用を補助する図として,樹形図の構成方法が説明された。
1回目および2回目の授業終了後に「くじびき課題」(伊藤,2008発心研)の解決を求めた。2回目の「くじびき課題」の解決では,ベイズの定理での仮説とデータの記述,樹形図の作成,事後確率の計算が求められた。
この問題の正解を呈示した後で,「3囚人問題」の解決を求めた。最初に,事前分布のみが示された未完成の樹形図が呈示された。参加者は,仮説とデータを記述し,問題文に登場する看守の視点から図を完成させて,10分間で解答を行うよう指示された。次に,完全な図とその説明が呈示され,7分間で解答を行った。
結果と考察
くじびき課題
ベイズの定理を未習の時点では,くじびき課題での正答者は8名(12%)であった。
ベイズの定理の学習後は,正答者は56名(86%)に増加した。仮説とデータを正しく記述した52名では,正答者は47名(90%)であり,これを正しく記述できなかった13名では,正答者は9名(69%)であった。分割表の独立性の検定を行うと,χ2(1) = 3.90, p = .048となり,正答率の差は有意であった。樹形図を正しく描いたのは62名(95%)であり,ほとんどの学生は正しい問題表象を構築できたと考えられる。
3囚人問題
3囚人問題への1回目のチャレンジでは,正答者は12名(18%)であった。仮説とデータを正しく記述したのは6名(9%)であった。正しい仮説は「看守が“Bは処刑される”と答えた」であるが,単に「Bは処刑される」とした回答(準正解)が23名あった。正しい樹形図を描いたのは19名(29%)であった。12名の正答者のうち11名は,仮説とデータの記述か,あるいは図の,少なくとも一方が正しかった。
完成した図を用いた2回目のチャレンジでは,正答者は42名(65%)であった。1回目のチャレンジで仮説とデータを正しく記述した6名は,2回目で4名が正答した。準正解の23名では,正答者は17名(74%)であった。記述が正しくなかった36名では,正答者は21名(58%)であった。1回目のチャレンジで正しい図を描いた19名のうち,16名(84%)が2回目のチャレンジで正答を与えた。図が誤っていた46名では,正答者は26名(57%)であった。
くじびき課題と比べ,3囚人問題は問題表象の構築が難しい。準抽象化教示の効果は,明確には認められなかった。