The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PD

Thu. Aug 27, 2015 10:00 AM - 12:00 PM メインホールA (2階)

[PD041] 教育現場での脳力トレーニング

長崎大学教育学部附属中学校における取り組みの効果の検証

前原由喜夫1, 鶴田浩一#2, 森浩司#3, 齊藤智4 (1.長崎大学, 2.長崎大学, 3.長崎大学, 4.京都大学)

Keywords:認知トレーニング, 学業成績, 知能

脳力トレーニング(脳トレ;brain training)とは仕事や勉強など日常生活の諸々の活動の質と効率を向上させるために,情報処理速度,注意力,記憶力,メタ認知能力などの汎用的認知能力を鍛える試みのことを言う。注意機能(Rueda et al., 2005)やワーキングメモリのトレーニング(Klingberg et al., 2005)が諸種の認知能力の向上に目覚ましい効果を示すという研究が発表され,脳トレをテーマにした市販のゲームソフトが好評を博し,脳トレは世界的な一大ブームを巻き起こした。日本の教育現場でも脳トレの考え方を取り入れた学習教材の開発が試みられる例があり,長崎大学教育学部附属中学校では“BEST”(Basic Effective Speedy Training)という教材が開発され,実際に学校カリキュラムの一環として使用されてきた。
BESTは冊子型の教材で,ほぼ毎日生徒たちが取り組んでいる。(本研究時点での実施方法では)生徒は朝の始業前と昼休み終了後の各5分間ずつ,文章の音読や簡単な計算問題などをできるだけ速くかつ正確に行う。それらの活動によって脳を活性化させ,休み時間から授業への移行をスムーズにし,授業への集中力を高めることを目的としている。本研究では,附属中学校の生徒がBESTに日々取り組むことによって,(1)学業成績にポジティブな影響が見られるかどうか,(2)推論課題などのより高次の認知課題の成績が向上するかどうかを実証的に検討した。
方法
参加者 長崎大学教育学部附属中学校1年生4クラス(143名)を2クラスずつに分け,一方をトレーニング群(72名),他方をコントロール群(71名)とした。
評価課題 (1)学業成績:国語・社会・数学・理科・英語に関して,前期実力テストと後期実力テストの成績を指標とした。(2)推論課題:キャッテル知能検査Scale 3を使用した。プレテストにはForm Aの検査1,2,3を,ポストテストにはForm Bの検査5,6,7を実施した。言語課題:京大NX15検査の第5検査と第10検査を使用した。プレテストには奇数番号の問題,ポストテストには偶数番号の問題を実施した。空間課題:京大NX15検査の第2検査と第7検査を使用した。プレテストには奇数番号の問題,ポストテストには偶数番号の問題を実施した。
トレーニング課題 トレーニング群はBESTを通常の方法で朝昼5分ずつ行った。コントロール群はその間,自分の読みたい小説を黙読した。
調査実施日程概要 夏休み明けからトレーニング群とコントロール群が分けられた。夏休み明け初日に前期実力テストが実施され,その2日後に知能検査課題のプレテストが実施された。前期実力テストから70日後に後期実力テストが実施され,知能検査課題のプレテストから97日後にポストテストが実施された。
結果と考察
全ての評価課題に参加した138名(各群69名)を分析対象とした。知能検査はそれぞれの下位検査得点をz得点化して加算した得点を,実力テストは各教科のz得点を分析に用いた。
各評価課題の得点に関して,条件2(トレーニング/コントロール)×テスト回次2(1回目/2回目)のANOVAを行った。社会の得点に関して,交互作用が有意だったため下位検定を行ったところ,前期実力テストで条件間の差が有意傾向であり,コントロール群で得点が低下傾向にあった(図a)。また,言語課題の得点に関して,条件の主効果が有意傾向だった(図b)。それ以外の評価課題での主効果と交互作用はすべて非有意だった。
今回の調査では,約2か月間のBESTが学業成績に良い影響を与えているという結果は得られなかったが,BESTをやめたコントロール群で社会の成績が低下した可能性も否定できない。また,約3か月間のBESTが高次の認知能力に何らかの影響を及ぼしているという結果も得られなかった。しかし,個々の生徒の能力観や学習目標がトレーニング効果の差異を生み出している可能性もあるため,個人差の観点から調べる必要もあるだろう。