[PD046] 健康リテラシーに批判的思考態度が及ぼす影響
健康・医療・人生の満足度への効果
キーワード:批判的思考, リテラシー, 健康
本研究の目的は,第一に,健康に関わる情報を獲得し,理解する能力である健康リテラシー(楠見,印刷中;WHO, 2013)尺度を構成すること,第二に,健康リテラシーに及ぼす批判的思考態度の影響,さらに,健康・医療への満足度,人生満足度に及ぼす影響を検討することである。
批判的思考とは,証拠に基づく論理的で偏りのない思考である(楠見,2014)。批判的思考は,医療・健康情報を,テレビやインターネットなどで探し,情報を受け取り,決定する健康リテラシーを支えている。批判的思考の役割としては,第一に,情報の利用においては信頼度の高い情報源からの情報を入手し,情報内容が情報源間で一致しているかを確認すること,第二に,情報を判断する際には,対立する意見の根拠となるデータを偏りなく集め,その強さや数を比較して結論を導くことなどがある。さらに,こうした批判的思考を行うためには,情報を探究し,証拠を重視し,客観的で論理的であろうとする態度(平山・楠見,2004)が重要である。
そこで,本研究では,情報の利用と情報の判断という二つの側面から健康リテラシーの尺度を構成する。そして,20-60代の市民に対して調査をおこない,健康リテラシーに,批判的思考態度が及ぼす影響を検討する。
方 法
参加者 インターネット調査会社のモニター1500人(20-60代;各年代男女同数)。既婚者62%,子供をもつ人は54%,有職者66%,大卒以上49%であった。
質問項目 ⑴健康リテラシー(11項目,α=.85),健康情報利用(7項目,例:客観的な裏付けがある科学的な医療・健康情報を利用する)と健康情報判断(4項目,例:薬や健康法の効果を判断する場合に,効果があるという意見の根拠がどのくらい確かかを重視)に分かれる,⑵批判的思考態度尺度(平山・楠見,2004)を改訂した計12項目(α=.88,例:判断をくだす際は,できるだけ多くの事実や証拠を調べる)。⑶人生満足度(Diener et al., 1985の5項目,α=.82,例:自分の人生に満足している),⑷人生満足度項目を健康・医療分野に特化した健康・医療満足度(5項目,α=.82,例:自分の受けている医療に満足している),以上は5段階評定,⑸平日1日平均のニュース,インターネットニュースを読む時間:読まないから2時間以上の6段階,⑹年収(16段階)などであった。他の項目群を含むオムニバス調査として実施した。
結果と考察
健康リテラシーの評定 図1に示すように,5段階評定における「あてはまる」は6-13%と少ないが,「ややあてはまる」を加えると31-59%になった。両者をあわせて見ていくと,情報利用について50%を越えるのは「情報主体が明確なサイト利用」「客観的裏付けのある」「公的な機関の情報利用」であり,「営利目的のないサイト利用」は47%,「更新時期が新しいサイト利用」は37%とやや下がる。また,「複数の情報比較」は51%と高いが,「疑問があれば専門家のアドバイスを求める」は31%と低い。
薬や健康法の効果を判断する場合の情報判断の4項目については,図1下に示すように,「効果があるという意見の根拠がどのくらい確かかを重視」と「医師などの専門家の意見を重視」,「効果があるという意見とないという意見を比較」については「やや/あてはまる」と答える人は6割近い。
健康リテラシーと他要因との関連 健康リテラシーと批判的思考態度との相関(.43)は高い。一方,ニュースの視聴時間(.11),ネットニュースの閲読時間(.12)との相関は弱い。つぎに,男女と50歳を境界に参加者を4群に分けて,多母集団同時分析によるパス解析をおこなった。図2に示すとおり,批判的思考態度が健康リテラシーに影響を与え,健康リテラシーは健康医療への満足度を高め,その結果として人生満足度を高めていた。人生満足度への影響は,健康・医療満足度の方が年収よりも大きかった(とくに50歳以上)。
今後の課題は,健康教育や批判的思考教育によって,健康リテラシーを向上させることの検討である。
批判的思考とは,証拠に基づく論理的で偏りのない思考である(楠見,2014)。批判的思考は,医療・健康情報を,テレビやインターネットなどで探し,情報を受け取り,決定する健康リテラシーを支えている。批判的思考の役割としては,第一に,情報の利用においては信頼度の高い情報源からの情報を入手し,情報内容が情報源間で一致しているかを確認すること,第二に,情報を判断する際には,対立する意見の根拠となるデータを偏りなく集め,その強さや数を比較して結論を導くことなどがある。さらに,こうした批判的思考を行うためには,情報を探究し,証拠を重視し,客観的で論理的であろうとする態度(平山・楠見,2004)が重要である。
そこで,本研究では,情報の利用と情報の判断という二つの側面から健康リテラシーの尺度を構成する。そして,20-60代の市民に対して調査をおこない,健康リテラシーに,批判的思考態度が及ぼす影響を検討する。
方 法
参加者 インターネット調査会社のモニター1500人(20-60代;各年代男女同数)。既婚者62%,子供をもつ人は54%,有職者66%,大卒以上49%であった。
質問項目 ⑴健康リテラシー(11項目,α=.85),健康情報利用(7項目,例:客観的な裏付けがある科学的な医療・健康情報を利用する)と健康情報判断(4項目,例:薬や健康法の効果を判断する場合に,効果があるという意見の根拠がどのくらい確かかを重視)に分かれる,⑵批判的思考態度尺度(平山・楠見,2004)を改訂した計12項目(α=.88,例:判断をくだす際は,できるだけ多くの事実や証拠を調べる)。⑶人生満足度(Diener et al., 1985の5項目,α=.82,例:自分の人生に満足している),⑷人生満足度項目を健康・医療分野に特化した健康・医療満足度(5項目,α=.82,例:自分の受けている医療に満足している),以上は5段階評定,⑸平日1日平均のニュース,インターネットニュースを読む時間:読まないから2時間以上の6段階,⑹年収(16段階)などであった。他の項目群を含むオムニバス調査として実施した。
結果と考察
健康リテラシーの評定 図1に示すように,5段階評定における「あてはまる」は6-13%と少ないが,「ややあてはまる」を加えると31-59%になった。両者をあわせて見ていくと,情報利用について50%を越えるのは「情報主体が明確なサイト利用」「客観的裏付けのある」「公的な機関の情報利用」であり,「営利目的のないサイト利用」は47%,「更新時期が新しいサイト利用」は37%とやや下がる。また,「複数の情報比較」は51%と高いが,「疑問があれば専門家のアドバイスを求める」は31%と低い。
薬や健康法の効果を判断する場合の情報判断の4項目については,図1下に示すように,「効果があるという意見の根拠がどのくらい確かかを重視」と「医師などの専門家の意見を重視」,「効果があるという意見とないという意見を比較」については「やや/あてはまる」と答える人は6割近い。
健康リテラシーと他要因との関連 健康リテラシーと批判的思考態度との相関(.43)は高い。一方,ニュースの視聴時間(.11),ネットニュースの閲読時間(.12)との相関は弱い。つぎに,男女と50歳を境界に参加者を4群に分けて,多母集団同時分析によるパス解析をおこなった。図2に示すとおり,批判的思考態度が健康リテラシーに影響を与え,健康リテラシーは健康医療への満足度を高め,その結果として人生満足度を高めていた。人生満足度への影響は,健康・医療満足度の方が年収よりも大きかった(とくに50歳以上)。
今後の課題は,健康教育や批判的思考教育によって,健康リテラシーを向上させることの検討である。