日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PD

2015年8月27日(木) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PD062] 学び合う学習環境の調査(2)

算数授業改善による小学校中学年児童の適応度の変化

岸本琴恵1, 村瀬公胤2 (1.名護市教育委員会, 2.名護市教育委員会)

キーワード:協同学習, インクルーシブ, 授業改善

問 題
本市は,平成26年度より文部科学省委託「発達障害の可能性のある児童生徒に対する早期支援研究事業」を受け,市内A小学校において「個性が輝く授業づくり」の名の下に,インクルージョンの理念を生かす授業改善プロジェクトを実行した。このプロジェクトの目的は,支援を要する児童に適切な支援を提供することにより,二次障害を予防する事である。特に中学年で児童の困り感が増える算数の授業において,児童の特性を把握し,そのニーズに沿い,共感的な学習環境の中で協同的な学習指導の実現を企図した。
すでに,岸本・村瀬(2014)は児童の共同体感覚を構成する要素の探索を行っており,教師の児童への関わりが,児童の共同体感覚の中核をなす「貢献感」の育成につながり,さらに「学習意欲」とも関係していることが示されている。この成果をふまえて,A小学校のプロジェクトが実施された。
目 的
本研究では,小学校中学年の算数授業において協同的学びを意識した教師の関わりや指導法改善及び教材開発を行うことにより,発達障害やその可能性のある児童の適応にどのような改善が見られるかを検証する。さらに,対象児童の心理,特に共同体感覚にどのような変化が生じるかについても検証する。
方 法
調査時期・参加者 本研究の調査時期は2014年7月~12月である。本研究の参加者はA小学校児童3-4年生44名(3年生女子2名,男子13名,4年生女子14名,男子15名)である。
検査および尺度 児童の満足度や学習意欲を測定するため,Q-Uテストおよび4つの尺度;a)西田・橋本・徳永(2003),b)桜井(1986),c)小泉(1995),d)高坂(2014)を用いた。たたし,4つの尺度の全項目の回答は,児童に困難と考えられるため,因子構造を損なわない程度に抜粋し,質問紙としてまとめられた。なお,この質問紙の妥当性については,岸本・村瀬(2014)において検証されている。
手続き 第1回調査(2014年7月実施):A小学校3年生125名および4年生130名の全児童を対象に,Q-Uテストと質問紙調査について,校長の許諾を得て,各担任に質問紙を配布し,各学級にて担任の判断によって適切な時間に実施した。また,担任教諭の聞き取りを基に,発達の偏りによる困り感があると見立てられた児童を56名選定した。そのうち,Q-Uテストで学級満足群に入らなかった44名を本研究の参加者とした。
第2回調査(2014年12月):児童の変化を評価する事後の調査として,Q-Uテストと質問紙調査を第1回と同様に実施した。
結果と考察
図1に示すように,7月のQ-U調査では困り感を持つ対象児童は「侵害行為認知群」に13名,「非承認群」に12名,「学級生活不満足群(要支援群を含む)」に19名が入っていた。しかし,12月の調査では,12名(6名,3名,3名)か「学級生活満足群」に移行した(12/44=27.3%)。
また,質問紙調査の結果(図2),対象児童の平均は,7月時点で全ての項目で全体平均を下回っていたが,12月時点では大幅に改善された。とくに共感度得点で全体平均と等しくなったほか,教師への適応度,級友への適応度,共同体感覚の貢献感や所属感に関する得点で大幅に向上した。この結果は,対象児童の居場所感や安心感の増加を示唆している。先のQ-U調査の結果と合わせて,本事業の目的である,二次障害の予防に効果をあげていることを推測させる結果である。
これらの結果から,発達障害の児童の支援が,個別指導やSST及び学級活動(SGE等)のみならず,教科指導の改善によっても実現できる可能性が検証された。