[PD066] 自閉症スペクトラム児における確信度を表す言語表現の理解
Keywords:自閉症スペクトラム, 言語認知, 信頼性判断
【背景および目的】
自閉症スペクトラム児(以下ASD児)は,婉曲表現や皮肉,冗談などに含まれる話者の意図や感情の理解に困難を示すことが知られている(Baron-Cohen, 1989)。しかしながら,こうした非字義的な言語表現ではなく,話者の確信度の高さを表す「絶対○○だよ」のように,心的状態が字義どおりに表現されているが,認知や感情を表す言葉で明示的に表現されていない言い回しをASD児がどのように受け止めているかは明確でない。確信度を表す言語表現の理解の発達に関する先行研究にMatsuiら(2006)がある。Matsuiら(2006)は,3~6歳の定型発達児(以下TD児)を対象に,「○○だよ」のように確信度が高い表現を用いる断言話者と,「○○かな」のように確信度が低い表現を用いる曖昧話者のどちらをより信頼するか判断させる信頼性判断課題を実施した。その結果,対象児の年齢が高いほど断言話者の選択率が高くなり,発言に含まれる話者の確信度の読み取りが可能になることが明らかとなった。
これを受けて本研究では,Matsuiら(2006)を参考にASD児に対し信頼性判断課題を行い,ASD児が,TD児と同様に非明示的な表現からの確信度の理解が可能かを検討した。またその際,断言話者,曖昧話者それぞれの発言に,確信度の高低を明示的に伝える表現(「私知っているよ」「わからないけれど」)を加えることでASD児の反応がどのように変化するかも検討した。
【方 法】
対象 小学3-5年生のASD児・TD児,各18名。
要因計画 対象児(ASD児/TD児,参加者間要因)×確信度の明示的表現(確信あり条件/確信なし条件,参加者内要因)
課題 答えが明確でない質問(例:裏返しの2枚のカードのうちどちらがジョーカーか)に対し,断言口調(「絶対○○だよ」)で答えを伝える断言話者のキャラクターと,曖昧口調(「多分○○だよ」)で答えを伝える曖昧話者のキャラクターのいずれか現れて答えを述べる様子をそれぞれ3回見た後で,続く質問に対し断言話者・曖昧話者のどちらに答えを聞きたいかを参加者に回答させる課題(信頼性判断課題,PowerPointで実施)。これを1試行とし3試行行った。それぞれの話者のセリフの前には,確信あり条件では「私知っているよ」,確信なし条件では「わからないけど」をという確信度の明示的表現をそれぞれ挿入した。
【結 果】
対象児×確信度の明示的表現の各条件について,断言話者(「絶対○○だよ」)を選択した回数の平均値を算出した(最大3回,Fig. 1参照)。確信なし条件では,ASD児群,TD児群ともにほぼ全て断言話者を選択していた。一方,確信あり条件ではTD児群で断言話者の選択回数が低下したのに対し, ASD児群では選択回数の顕著な変化は見られなかった。二要因分散分析の結果,交互作用が有意であり(F(1, 34)=8.54, p=.006),単純主効果検定を行ったところ,確信あり条件と確信なし条件の差はTD児群でのみ有意であった(F(1, 17)=31.09, p<.001)。また,確信あり条件ではTD児群の断言話者選択回数に比べ,ASD児群のそれの方が多かった(F(1, 34)=10.83, p=.002)。
【考 察】
確信なし条件では,ASD児はTD児と同様に,断言話者をより信頼していた。この結果は,ASD児も「絶対」「多分」という表現に表れる話者の確信度の違いを区別できることを意味している。
一方,TD児では,確信あり条件において断言話者の選択回数が減少した。この結果は,TD児が「知っているよ」という確信度の明示的表現と「絶対」「多分」という非明示的表現を統合し,断言話者と曖昧話者の確信度がそれほど変わらないと判断したことを意味している。そしてASD児で断言話者の選択回数が減らなかったことは,ASD児が話者の確信度を複数の言語表現を統合して理解することが出来ず,「絶対」という言葉の字義的な意味のみに反応したことを示唆している。
自閉症スペクトラム児(以下ASD児)は,婉曲表現や皮肉,冗談などに含まれる話者の意図や感情の理解に困難を示すことが知られている(Baron-Cohen, 1989)。しかしながら,こうした非字義的な言語表現ではなく,話者の確信度の高さを表す「絶対○○だよ」のように,心的状態が字義どおりに表現されているが,認知や感情を表す言葉で明示的に表現されていない言い回しをASD児がどのように受け止めているかは明確でない。確信度を表す言語表現の理解の発達に関する先行研究にMatsuiら(2006)がある。Matsuiら(2006)は,3~6歳の定型発達児(以下TD児)を対象に,「○○だよ」のように確信度が高い表現を用いる断言話者と,「○○かな」のように確信度が低い表現を用いる曖昧話者のどちらをより信頼するか判断させる信頼性判断課題を実施した。その結果,対象児の年齢が高いほど断言話者の選択率が高くなり,発言に含まれる話者の確信度の読み取りが可能になることが明らかとなった。
これを受けて本研究では,Matsuiら(2006)を参考にASD児に対し信頼性判断課題を行い,ASD児が,TD児と同様に非明示的な表現からの確信度の理解が可能かを検討した。またその際,断言話者,曖昧話者それぞれの発言に,確信度の高低を明示的に伝える表現(「私知っているよ」「わからないけれど」)を加えることでASD児の反応がどのように変化するかも検討した。
【方 法】
対象 小学3-5年生のASD児・TD児,各18名。
要因計画 対象児(ASD児/TD児,参加者間要因)×確信度の明示的表現(確信あり条件/確信なし条件,参加者内要因)
課題 答えが明確でない質問(例:裏返しの2枚のカードのうちどちらがジョーカーか)に対し,断言口調(「絶対○○だよ」)で答えを伝える断言話者のキャラクターと,曖昧口調(「多分○○だよ」)で答えを伝える曖昧話者のキャラクターのいずれか現れて答えを述べる様子をそれぞれ3回見た後で,続く質問に対し断言話者・曖昧話者のどちらに答えを聞きたいかを参加者に回答させる課題(信頼性判断課題,PowerPointで実施)。これを1試行とし3試行行った。それぞれの話者のセリフの前には,確信あり条件では「私知っているよ」,確信なし条件では「わからないけど」をという確信度の明示的表現をそれぞれ挿入した。
【結 果】
対象児×確信度の明示的表現の各条件について,断言話者(「絶対○○だよ」)を選択した回数の平均値を算出した(最大3回,Fig. 1参照)。確信なし条件では,ASD児群,TD児群ともにほぼ全て断言話者を選択していた。一方,確信あり条件ではTD児群で断言話者の選択回数が低下したのに対し, ASD児群では選択回数の顕著な変化は見られなかった。二要因分散分析の結果,交互作用が有意であり(F(1, 34)=8.54, p=.006),単純主効果検定を行ったところ,確信あり条件と確信なし条件の差はTD児群でのみ有意であった(F(1, 17)=31.09, p<.001)。また,確信あり条件ではTD児群の断言話者選択回数に比べ,ASD児群のそれの方が多かった(F(1, 34)=10.83, p=.002)。
【考 察】
確信なし条件では,ASD児はTD児と同様に,断言話者をより信頼していた。この結果は,ASD児も「絶対」「多分」という表現に表れる話者の確信度の違いを区別できることを意味している。
一方,TD児では,確信あり条件において断言話者の選択回数が減少した。この結果は,TD児が「知っているよ」という確信度の明示的表現と「絶対」「多分」という非明示的表現を統合し,断言話者と曖昧話者の確信度がそれほど変わらないと判断したことを意味している。そしてASD児で断言話者の選択回数が減らなかったことは,ASD児が話者の確信度を複数の言語表現を統合して理解することが出来ず,「絶対」という言葉の字義的な意味のみに反応したことを示唆している。