日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PD

2015年8月27日(木) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PD074] 特別な支援を要する児童を対象とした速さの学習指導

宮田佳緒里1, 蛯名正司2 (1.兵庫教育大学, 2.仙台白百合女子大学)

キーワード:特別支援, 算数

問題と目的
速さの単元は,小学生にとって難しいものであることが指摘されている。その困難さを生む要因の一つとされるのが,速さと距離・時間との混同である(布施川・麻柄,1989)。先行研究では,そのような次元間の弁別ができない児童に対しては,物体が一定速度で進んでいるならば,時間や距離の大小によらず速さは変わらないこと(速さの保存)を,文章(布施川・麻柄,1989)や具体物(麻柄・石松,1994)に即して教示することが有効とされる。
しかし,筆者らが学習支援教室で関わった児童に対しては,上述した教授方法が有効でなかった。この児童は,等速運動する物体の速さは「時間も距離も短い方が速い」との誤判断を一貫して行う傾向が見られた。筆者らは当初,この児童に一定速度で走る模型の電車の1周あたりの時間を計測させて,時間と距離の比例関係に注目させ,速さの保存について教示した。しかし,児童はその後も誤判断をし続けた。そのため,「単位距離あたりの時間」ではなく「単位時間あたりの距離」に注目させる活動が必要であると推察された。そこで本研究では,単位時間あたりの距離に注目させ,速さと距離の弁別を促す教授活動を開発し,その有効性を検討した。
方 法
⑴ 対象児 公立小学校に通う小学6年生の男児A児であった。ADHDの診断を受けているが,通常学級に通っていた。速さは学校で学習済みであり,公式を用いた速さの計算は得意であった。
⑵ 学習目標 速さを考える際に,「単位時間あたりの距離が長い方が速い」と判断できるようになることを目標とした。
⑶ 活動の概要 速さの異なる模型の電車2つを片方ずつ走らせて,メトロノーム一拍ごとに線路脇に目印の紙を置いた。その目印の間隔(青電車25㎝,赤電車10㎝)を手がかりに,どちらが速いか予想した後,2つ同時に走らせて予想を確かめた。
⑷ 事前事後課題 同一時間内に進む距離の異なる2台の自動車の速さを比較させる課題(1問)であった。
⑸ 手続き 第二著者が教授者となり,個別指導形式で実施した。
結 果
⑴ 事前課題 A児は「進んだ距離が短い方が速い」と回答し,その理由は「距離が短くて速い」であった。
⑵ 活動 メトロノームの音に合わせて目印の紙を置く作業や,目印と目印の間の長さの測定は教授者による援助が必要であったが,それ以外はA児自身で取り組むことができた。目印の間隔を見て,A児は「10㎝だから赤電車の方が速い」と予想した。次に,電車を同時に走らせて青電車の方が速いことを確認すると,A児は一瞬驚いた様子を見せたが,すぐに速さと距離の関係に気付き,自分なりの言葉で説明しようとした(Figure1)。
⑶ 事後課題 「距離が長い方が速い」と回答した。また,活動を通してわかったこととして,自主勉ノートに「25㎝で速いから」と記述していた。
考 察
活動を通して,A児は速さを比較する際に,「進んだ距離」に着目して正しく判断できるようになった。このことから,本実践の有効性が示されたといえる。これは,直接比較により速さを比べたことで,一拍あたりに進む距離と速さの関係が明確になったためと考えられる。今後は,速さを時間と距離の関係として捉えられるようにすることが課題である。
※対象児の保護者より,学習活動の様子を論文等で公表することの了承を得ている。