日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PE

2015年8月27日(木) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PE007] 医療系大学生の注意指導に対する反応

注意指導の表現ならびに個人特性との関連の検討

佐藤純1, 福井龍太#2, 中村勇#3 (1.茨城県立医療大学, 2.茨城県立医療大学, 3.茨城県立医療大学)

キーワード:注意指導, 大学生, 個人特性

【問 題】
佐藤他(2014)は医療系大学3・4年生を対象に大学入学後に教員から注意指導を受けた経験について調査を行い,88%の学生が注意指導を受けたことを明らかにした。さらに,その結果をもとに仮想場面を作成し,提示されたような注意指導を受けたとしたらどのような感情的,認知的,行動的反応を示すのかについて検討した。その結果,強い口調による指導はネガティブな感情的反応を喚起し,権威的脅しや問いただしという言葉は,要求や説明よりもネガティブな反応を導くことが示された。しかし,そこでは提示された言葉の表現の妥当性について十分に検討されておらず,さらに,注意指導への反応は回答者の個人差が反映されている可能性も残された。
そこで本研究では,より妥当性の高い注意指導の言葉の表現を明らかにすること,ならびに注意指導を受けた際の感情的,認知的,行動的反応と個人特性との関連を検討することを目的とする。
研究1
【方法】
調査協力者 医療系大学3,4年生74名。
調査内容 指導者が学生に対して注意指導する場面(注意指導の言葉:望ましい行為の要求(以下,要求),問いただし,望ましくない行為の理由説明(以下,説明),権威的脅し(以下,脅し)の4種類×3種類の表現×態度・口調:高脅威,低脅威の2水準)を提示し,①そのような注意指導場面が現実的にある可能性と,②注意指導の言葉の定義の整合性について回答を求めた。
【結果】
⑴ 提示された注意指導の言葉の定義の整合性
4種類の注意指導の言葉(要求,問いただし,説明,脅し)について,それぞれ3種類の表現を作成して提示し,それぞれの表現がその定義と合っているかを評価してもらった。その結果,説明の適合度が40.2%と低かった。そのため,以下の分析から外すこととした。
⑵ 提示された注意指導場面の現実的可能性
提示された24種類の場面に対して,その場面が現実に生じる可能性について評価させた結果,「やる気をだしてもっとしっかりやりなさい(要求)」「君は本当にやる気があるの(問いただし)」「そんなにやる気がないなら,もう来なくていいよ(脅し)」の組み合わせが最も現実的可能性の評価が高く,総合的に87.9%の回答者が,現実的にありうる場面であると評価した。その他は,84.6%,79.9%であった。この結果に基づき,研究2では上記の3つの表現を用いることとした。
研究2
【方法】
調査対象 医療系大学1・2・4年生69名。
調査内容 研究1の結果に基づいて新たに構成された場面(言葉:要求,問いただし,脅し×態度・口調)を提示し,以下の質問項目に回答を求めた。
①感情的反応(緊張,抑鬱,怒り,混乱),②認知的反応(自分の非,納得,動機,自信,後悔,感謝),③行動的反応(謝罪,反抗,無視,理由説明),④事後変化(接近行動,接近認知,回避行動,回避認知),⑤一般性セルフエフィカシー尺度(坂野・東條,1986),⑥賞賛獲得欲求・拒否回避欲求尺度(菅原,1986)。
【結果】
⑴ 全体的な結果の概要
佐藤他(2014)と同様に,脅すような注意指導は他の言葉による指導よりも,学生の緊張,抑うつ,怒り,混乱を高め,自分の非を認めて納得しにくく,動機や後悔,感謝の念も生じず,謝罪も少なく,反抗や無視を高め,積極的な変化が少なく回避的な変化を増加させることが示された。
⑵ 個人特性との関連
⑴で行った分析に,調査対象者の個人特性(一般性セルフエフィカシー,賞賛獲得欲求,拒否回避欲求)の高低を組み合わせて,分散分析を行った。個人特性によって,注意指導に対する反応に差が生じるのであれば,個人差による主効果または交互作用が認められるはずである。その結果,個人差を示す変数において主効果が認められたのは賞賛獲得欲求のみで,賞賛獲得欲求が高い方が注意指導を受けた際に緊張,後悔が高くなり,その後に接近認知的変化(失敗や注意された経験が将来自分のためになると思うようにする)を示すことが示された。しかし,他の従属変数ならびに個人差変数では有意な効果は認められなかった。この結果から,注意指導においてより重要となるのは,指導を受ける個人特性よりも注意指導の際の言葉や態度であると考えられる。しかし,他に重要な個人特性がある可能性も否めないため,今後の検討が必要である。