日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PE

2015年8月27日(木) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PE014] 「精神的充足・社会的適応力」評価尺度(KJQ)と放課後の過ごし方との関連

男子校に通う高校生の事例を比較して

山田達人1, 菅野純2, 藤井靖3, 桂川泰典4 (1.早稲田大学大学院, 2.早稲田大学, 3.早稲田大学, 4.岡山大学)

キーワード:KJQ, 放課後の活動, 高校生

問題と目的
生徒の学校や家庭場面での環境条件や行動を測定する変数として「精神的充足・社会的適応力」評価尺度(以下,KJQ)が作成されている。子どもは成長するにつれて,大人(教師や保護者)の目の届かない範囲で活動することが多くなる。そのため,大人が目の届く学校や家庭場面の相互作用が,目の届かない活動にどのような影響を与えるのかを検討する必要があると考えられる。
本研究では,大人の目の届かない活動を「放課後での活動」として,大人が指導可能な変数(KJQ)との関連を検討するために,KJQの実施と活動記録表を用いたインタビュー調査を行った。
方法
調査対象者 質問紙調査 首都圏私立男子高校1年生135名。インタビュー KJQの結果から,精神的充足(以下,精神)と社会的適応力(以下,社会)を各値の中央値で2群に分けた。「精神高×社会高」,および,「精神低×社会低」の中から各2名ずつ無作為に抽出してインタビューを行った。調査時期 質問紙調査 2014年11月下旬に実施した。インタビュー調査 2014年12月上旬に実施した。手続き 質問紙調査 ロングホームルームの時間にKJQを配布し,付属の教示文を担任教諭が読み上げた。インタビュー 場所は調査協力校の一室(面接室)で実施され,回答時間は約40分であった。インタビュー内容 1週間の活動記録表を作成させた。それをもとに,1週間の放課後の活動振り返ってもらった。
結果
精神高×社会高で語られた活動 「テニス部を終えた後,テニススクールへ練習に行った。良きライバルと戦いに満足度があった。」「塾は友達の存在がモチベーションとなっている。女の子の存在も大きく楽しく通っている。」「好きな英語の勉強に時間を費やした。」「特にモチベーションは高くないが,集中して勉強をこなした。」「楽しく部活動を終え,帰宅後は大好きなゲームを2時間ほど行った。」「昨日ゲームしたのでこの日は勉強をした。」「帰宅したのち,夜にゲームをやるということをモチベーションに意欲的に勉強をした。」
精神低×社会低で語られた活動 「先輩後輩共に仲良く部活動をした。家ではやりたくない宿題をしぶしぶこなした。」「部活のない日はだらだらしてしまった。直帰の後,アニメや漫画を鑑賞した。」「塾は退屈だった。」「帰宅後,家でだらだらし,勉強もするがあまり身に入らない。」「塾がないので部活動に楽しく意欲的に打ち込めた。」「部活もなく塾もないので家でだらだら勉強をする。あまり集中できなかった。」
考察
精神的充足と社会的適応力が高い生徒は,精神的充足と社会的適応力が低い生徒と比べて,「塾にいる友達,女の子の存在(男子校のため)」「夜にゲームをやるということをモチベーションに意欲的に勉強」など活動に対する「自分なりの楽しみ方」が特徴的に語られたことから,放課後の過ごし方とKJQとの関連は示されたといえよう。つまり,日常生活で大人(教師や保護者)が生徒を認めたり,安心できる環境を調整したりすること,あるいは社会的能力のモデルとなることや,社会的能力を身につけさせるよう適切な場面で褒めることで,子どもは大人の目が届かない場所でも意欲的に生活を送れることが示唆された。
加えて,放課後の活動を意欲的に送るためには,「自分なりの楽しみ方」が必要であることが明らかとなったことから,教師は,授業や休み時間などの生徒にとって身近なテーマから活動の楽しみ方を検討させる指導を行うことや,保護者は,放課後に子どもが「しても良い」活動のレパートリーを広げることが必要であると考えられた。