日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PE

2015年8月27日(木) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PE019] 配布資料の有無とノートテイキングとの関係

大学生の講義場面における検討

魚崎祐子 (玉川大学)

キーワード:配布資料, ノートテイキング

はじめに
ノートテイキングは授業中にとられる学習方略の中でも最も一般的なものの一つであろう。たとえば長塚・山西(2012)は99%を超える大学生が講義中にノートをとった経験について報告している。ノートを取る理由として大学生の約3分の1が「昔からの習慣」であると答えたことも合わせて報告しており,ノートテイキングが必ずしも明確な意図のもとに行われていない可能性も考えられる。その1つの原因として高等教育機関での学習に求められることがそれまでとは大きく異なるということがあるだろう。高等学校までの授業では,板書したことをきっちりノートに取ることを期待あるいは要求されていた(藤田,2006)のに対し,大学に入ってからのノートテイキングではそれでは不十分である。
板書を写すノートテイキングに慣れた学生たちは,視覚提示された情報が配布されるのであれば,ノートをとる必要はないと考えるのだろうか。本研究では,パワーポイントとして提示された情報の配布の有無により,授業中のノートテイキング量や内容にどのような影響を及ぼすのかについて検討することを目的とした。
方法
対象
関東地方の大学において「教育心理学」を受講する学生154名(Aクラス73名,Bクラス81名)を対象とした。
手続き
動機づけに関する説明を行う授業の一部を用いて実験を行った。Aクラスの学生(A群)にはパワーポイントで提示された内容を印刷したものを配布し,Bクラスの学生(B群)には資料を配布せずに授業を行った。そして授業終了後に配布資料あるいはノートを回収した。なお,B群も普段の授業では資料を配布しており,今回の内容についても授業終了後に資料をダウンロードできるようにしてあるが,授業中は自分でノートをとるように指示をした。
授業内で扱った情報を12項目に分け,回収した配布資料およびノートは,A群については何らかの書き込みの有無について確認し,B群については書き込みの内容について提示内容(資料情報)そのものの書き込み,自分の言葉での書き込み,双方の書き込みという区分を項目ごとに行った。
結果と考察
分類結果は図1に示す通りであった。配布資料のあるA群に比べ,資料のないB群の方が何もノートテイキングをしないという割合は低かった。ただ,授業を受けながら忙しく手を動かしていたものの,提示資料を写すというノートテイキングが中心になっている学生も多く見られた。一方,A群は手元に情報があることによって自分ではノートをとらない項目の多い学生も見られたが,資料情報を核としながらそれに補足する形でノートテイキングされる姿も見られた。
かつて魚崎・浅田(2006)が自分の判断より教師の板書を優先させる中学生の様子について報告したが,大学生にとっても視覚提示された情報の影響は大きいようである。しかし,手元にその情報を配布されることにより,作業量にも余裕が生まれ,自分なりの情報を加えて提示情報の意味をつなげることができるようになると考えられた。