The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PE

Thu. Aug 27, 2015 1:30 PM - 3:30 PM メインホールA (2階)

[PE025] ル・バーはいかにしてルールの学習を妨害するか

直観に反する仮説的判断の困難さについて

工藤与志文1, 佐藤誠子2 (1.東北大学, 2.石巻専修大学)

Keywords:ルール学習, ル・バー, 仮説的判断

【目 的】
これまで,法則的知識(ルール)の学習が予想以上に困難であるという事実が繰り返し指摘されてきた。先行研究では,この困難さを生む要因として,ルールと抵触する誤った知識(誤概念,ル・バーなど)に着目する研究が多かった。しかしながら,ル・バーの存在が何故ルールの学習を阻害するのか,十分に検討されているとはいいがたい。佐藤・工藤(2014)は大学生7名に対し,3頂点が一直線上にならんだ特異な四角形(Figure参照。以下,三角型四角形)を,四角形の定義(4本の直線でかこまれた図形を四角形という。四角形には 4頂点と4辺がある。)とともに提示し,①四角形の定義に合うか②四角形に分類するかについて議論させ,その過程を分析した。その結果,「定義」に基づく判断を求めていたにもかかわらず,定義のみで思考することが困難であり,定義外の理由を持ち出して四角形に分類することを拒否する傾向が強いことがわかった。このことは,直観に反する定義あるいはルールを暫定的に受け入れて判断する(仮説的判断)ことの困難さを示唆するものである。そこで,本研究では,大学生を対象に,三角型四角形と同様に特異な四角形である「くさび形四角形」を題材に,仮説的推論の重要性を教授する授業を行い,それが三角型四角形に対する判断の転換をもたらすかどうか,検証する。
【方 法】
事前調査:四角形の定義を与え,くさび形四角形について①定義に一致しているか②四角形に分類するか③その理由を尋ねた。
授業:「くさび形四角形は四角形か?」という問いを取り上げ,四角形かどうか考える際には,四角形らしくないという自分の直観的判断を保留して,四角形だと仮説的判断を行い「もし四角形ならば・・・」と推論することが重要であることを説明した。さらに,仮説的判断による推論の例としてくさび形四角形でも内角の和が360°であることを確認した。
事後調査:くさび形四角形および三角型四角形の図形判断課題
調査対象者:私立大学理工学部と経営学部の学生103名。このうち分析対象者は95名。
【結 果】
事前調査の結果
くさび形四角形の分類とその理由を中心に分析する。四角形に分類した学生は46名(48.4%)であった。このうち,判断理由として四角形の定義のみに言及している者が31名,定義以外の根拠に言及している者が15名であった。定義以外の根拠としては「内角の和が360°」が多かった。一方,四角形以外の図形に分類するか判断できないと回答した者は49名(51.6%)であった。このうち,定義に合致しないことを理由とした者は22名,形状を理由にした者が8名,誤った知識や解釈不能な理由による者が19名であった。
事後調査の結果
くさび形四角形について,四角形に分類した者は84名(88%)であった。このうち,定義のみを判断理由としている者が21名,定義以外の根拠に言及している者が63名であった。授業で取り上げたくさび形四角形については多くの学生が四角形と認めるようになったといえる。一方,三角型四角形については,四角形に分類した者は20名(21%)にとどまった。四角形以外に分類した理由としては,定義と合致しないことを理由にあげた者が51名と最も多かったが,「内角の和が180°しかない」ことを理由にあげた者が15名存在することが注目される。この理由づけは,授業で解説した推論方法を採用しながらも,∠Cを「180°の角」と認識することに失敗したものと思われる。∠Cを角と認めないケースは定義と合致しないという理由の中にも多く見られた。そこで,追加調査として,ΔABCの辺BC上に点Dをとり,ΔABDとΔADCに分けた時(Figure参照),∠ADBと∠ADCを足した角(三角型四角形の∠Cに相当)の角度をたずねたところ,92名(3名欠席のため)中83名(90.2%)が正しく180度と判断できた。この結果は,三角型四角形における∠Cの認識の失敗が,調査対象者の知識の問題に由来するのではなく,「四角形であるはずがない」という直観的判断にその推論が拘束されることに起因していること,その拘束は角に関する知識と矛盾する結論を導くほどに強いものであることを示している。
【考 察】
授業の効果は三角型四角形には転移しなかった。ルールによる判断が直観に反するものであっても,仮に受け入れ,そのルールが正しいと判断して推論してみることがなければ,ルールの学習は進まない。ル・バーの影響は,直観に反するルールの仮説的判断を妨害することにあるのではないだろうか。