The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PE

Thu. Aug 27, 2015 1:30 PM - 3:30 PM メインホールA (2階)

[PE034] ストーリーマンガ読解時の没入状態と読み速度の関連

玉田圭作 (帝京大学)

Keywords:読み速度, 没入, マンガ

目 的
読者が物語を読む行為とその内容に集中し物語世界に入り込む体験は物語世界への没入と定義され(小山内・楠見,2014),没入体験は内容理解や動機づけなどを促進する機能があることが指摘されてきた。現在日本のみならず世界中で広くマンガが親しまれているのは,マンガの物語世界へ入り込む没入体験の要因が大きいであろう。しかし物語世界に入り込むことで過度に読解時間が長くかかるのであれば,それは没入体験の短所となりうる。そこで本研究ではストーリーマンガ読解時の没入状態と読み速度の関連を検討することを目的とする。
方 法
実験計画:本実験は読み速度(通常・2倍速)を独立変数,移入得点を従属変数とする一要因参加者内計画であった。
実験参加者:本実験の参加者は29名の大学生・大学院生・専門学校生で,男性8名女性20名中性1名,平均年齢22.86歳(SD=4.29)であった。
実験材料:実験で用いたマンガは1話完結式の森(2001)の『あじさいの唄』の「雪やこんこん」と「去る者は追わず」の回で,両方8ページであった。没入状態は小山内(2014)の日本語版移入尺度を使用して計測した。またキャラクター・全体内容・詳細内容それぞれに関する理解度テストを実施した。
実験条件:通常条件では2分,2倍速条件では1分でマンガを読むことを求め,時間はモニターに提示した。
実験手続き:最初に実験の説明を参加者に行い,同意書への記入を求め,練習を行った。続いて,参加者は紙に印刷されたマンガをどちらかの条件で読み,読み終わると移入尺度と理解度テストに回答し,もう一方の条件に進んだ。条件の順序はカウンターバランスを行った。実験所要時間は約30分であった。
結 果
条件間で移入得点に差があるか調べるため対応のあるt検定を行った結果有意差は確認されず(t(27)=0.66, n.s.),両条件の移入得点間の相関は非常に高かった(r=.92, p<.001)。
続いて2倍速条件における移入得点と各理解度テスト間の相関を表1に示す。

2倍速条件では移入得点と詳細内容理解度テスト得点の間に有意な負の相関が見られた一方,通常条件では両者の間に有意な相関は見られなかった。
考 察
読み速度を2倍に速めても移入得点は変化せず,物語に入り込むことが必ずしも時間を要すわけではないことが明らかになった。相関係数の高さを踏まえると,特性としての没入傾向が両条件において一貫して影響を与えたことが示唆される。また移入得点と理解度テストの関連では,2倍速の時のみ移入得点と詳細内容の間に有意な負の相関が見られた。物語に移入するほど内容理解度が下がるのは一見逆説的に見えるが,限られた時間内で物語に入り込む場合,詳細部分を切り捨てキャラクターの内面など他の部分により焦点を当てている可能性が考えられる。