日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PE

2015年8月27日(木) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PE036] ICTを用いた協調学習による「前向き授業」

遠山紗矢香1, 高垣マユミ2, 岡村知英#3, 白水始4 (1.静岡大学, 2.津田塾大学, 3.実践女子学園中学校, 4.国立教育政策研究所)

キーワード:前向き授業, 多様な解, 協調学習

ICTを用いた協調学習が一般的な学校現場にも導入され始めている。本研究では,同じ単元に同じようにICTと学習形態を導入する場合でも,学習理論に基づいて授業デザインを作りかえることができ,それが生徒から概念的理解と疑問を引き出せることを示す。具体的には正解に到達すれば終わりになる従来型の「後向き(正解到達型)授業」から,知識基盤社会に向けた授業形態として注目される「前向き(目標創出型)授業」(Scardamalia et al., 2012)へと授業を作りかえた(表1)。その授業の違いと成果を報告する。
【方 法】
対象者 私立中学校第2学年の生徒2クラス,それぞれ女子40名と40名を対象にした。
対象授業 理科2分野「地球と宇宙」単元の延べ9時間の授業を実施した。本研究は6時間目の黄道12星座の授業を分析対象とする。黄道とは地球の公転によって太陽が星座の中を西から東へ移動するように見える通り道,黄道12星座とは黄道上に並ぶ12の星座のことである。後者は誕生月の星座でもあるため,生徒にもなじみ深い。授業は「誕生月の星座がその月に見えるか」という課題を4人一組の計10の小グループで議論し,地球と天体の動きについて理解を深めることを目的とした。
学習環境と活動 天球図の模型及びタブレットをグループに1台ずつ準備した。模型を使いながら,タブレットによって作図や文字で回答を入力させ,結果をクラウドサービスを介して電子黒板で視覚的に共有した。これにより各グループとクラスにおけるコミュニケーションを文字・図形問わず相互に連携させることが可能となった。学習活動は小グループで①探究,②調査,③説明,④報告という一連のプロセス(Palincsar et al., 2000)を行った。
授業デザイン 以上の同じ内容,学習環境・形態の上で,同じ教員が二回授業を行い,授業の課題だけを変更した。対象生徒がグループ学習に不慣れということもあり,1回目の授業(以下「授業1」)では課題を下位分割して四季ごとに「真夜中の南の空」「太陽と同方向」にある星座を答えるものとした。しかし,その授業結果を受けて報告者らと協議し,2回目の授業(授業2)を単純に「自分たちの星座は誕生月に見えるか」に変更した。
【結果と考察】
両授業とも「皆さんの生まれの星座は?」という導入で盛り上がり,教員手作りの模型に興味を示した点は同じだったが,4人グループでの解決過程及びその結果の共有時に違いが生まれた。授業1では課題が8個に分割されて取り組みやすく,生徒は模型を使いながら答えを導出・送信した。しかし,電子黒板で共有されるうちに「正解」が提示されていることに気付いて写すグループも出た。結果,ほとんどのグループが正答に一致し,電子黒板に一様な回答が提示されることになった。授業2では,グループやメンバー間の星座が一致することが少なく,答え方も自由であったため,生徒は苦労しながらも「昼に南」「夕方に西」など答えを創り,10グループ中一つとして同じ回答の仕方が無いほど多様な回答を共有した。その結果,教室での共有時も授業1では教師の正解をただ静かに聞くだけだったが,授業2では多様解を基に自主的に話し合い,教師の「基本的に昼間なので見えない」というまとめにうなずく生徒や「じゃあ何で古代人は太陽の近くにあると分かったのか」という疑問すら出す生徒が現れた。
授業2では上位課題を共有した上で生徒が自分事として取り組む課題は違っていたため,自主的に課題にアプローチし外化共有された多様解を統合しようとして,概念的な理解と疑問生成に至るという前向き授業が可能になったと考えられる。