[PE042] 状況説明文の記述における影響要因の検討
テキストマイニングと一般化可能性理論を用いた分析
Keywords:状況説明文, 文章産出, テキストマイニング
【問題と目的】
日常生活において,状況や出来事を記述する場面は,数多く見られる。本研究では,こうした文章を「状況説明文」とし,これについて検討する。
古屋・岸(2014)では,状況説明文の記述において読み手意識(audience awareness)のひとつである「読み手の目的」を配慮することが産出文章に与える影響を検証した。その結果,「読み手がどのような目的でその文章を読むか(読み手の目的)」が明瞭である方がわかりやすい文章を書くことが可能であり,目的に応じて文章に記述する情報の取捨選択を行うため,文章内容が変化することを示した。
ただし,この研究では,文章内容の検証について特定のカテゴリーに分類される単語の抽出という方法のみに留まっており,具体的な内容の分析には至っていない。また,目的の明瞭度によるわかりやすさの評価得点の変動については,t検定を行ったのみであるため,記述者間や評価項目間の値の変動による影響を受けている可能性を否定できない。
そこで本研究では,前回の研究結果について「読み手の目的」の明瞭度による文章内容の変化について,テキストマイニング手法を用いた再分析を行い,より詳細に検証する。さらに,産出文章のわかりやすさの変化(評価得点の値の変動)が記述者や項目によるものでなく,目的の明瞭度による変化であることを明らかにするために,一般化可能性理論を用いた分析を行う。
【実 験】
実験手続き,および産出文章の評価方法については,「古屋由貴子・岸 学(2014)状況説明文の記述における影響要因の検討-読み手意識の観点から-. 教心第56回総会. 684」を参照。
【結果と考察】
目的明瞭群と不明瞭群における産出文章の内容の変化について具体的に検証するために,テキストマイニング手法(フリーソフト:KHcoder)を用いて特徴語を抽出し,コレスポンデンス分析を行った(図1)。その結果,目的不明瞭群は「自分」「勢い」「左折」などの特徴語から「自分の行動に関する事象」,および「歩行」「歩く」「通り過ぎる」などの歩行者の状況に関する単語の塊に位置することから,「他者(歩行者)に関する事象」についての記述が多いことが示された。一方,目的明瞭群は「骨折」「ムチウチ」「打撲」などの特徴語から「人体への被害に関する事象」,および「窓」「部品」「車体」などの単語の塊に位置することから「車の被害に関する事象」についての記述が多いことが示された。この2つは主に事故状況を客観的視点から捉えた事象であり,目的を明瞭にすることでより客観的な文章を記述するようになる可能性が示唆された。
次に,一般化可能性理論を用いて,目的の明瞭度×記述者×評価項目の三要因配置のもと,変動要因間の分散成分の推定値を算出し,池田(1994)を参考に分散推定値割合(=(当該要因の分散推定値)/(全要因の分散推定値合計)×100)を用いて分散成分の比較を行った(表1)。その結果,目的の明瞭度の分散推定量が61.55%と最も高く,評価得点の変動は目的の明瞭度による影響であることが示された。すなわち,目的不明瞭群・明瞭群間における産出文章のわかりやすさの変化(評価得点の値の変動)は,記述者間や評価項目間の値の変動による影響をほとんど受けておらず,目的の明瞭度の変化によるものであるということが示された。
日常生活において,状況や出来事を記述する場面は,数多く見られる。本研究では,こうした文章を「状況説明文」とし,これについて検討する。
古屋・岸(2014)では,状況説明文の記述において読み手意識(audience awareness)のひとつである「読み手の目的」を配慮することが産出文章に与える影響を検証した。その結果,「読み手がどのような目的でその文章を読むか(読み手の目的)」が明瞭である方がわかりやすい文章を書くことが可能であり,目的に応じて文章に記述する情報の取捨選択を行うため,文章内容が変化することを示した。
ただし,この研究では,文章内容の検証について特定のカテゴリーに分類される単語の抽出という方法のみに留まっており,具体的な内容の分析には至っていない。また,目的の明瞭度によるわかりやすさの評価得点の変動については,t検定を行ったのみであるため,記述者間や評価項目間の値の変動による影響を受けている可能性を否定できない。
そこで本研究では,前回の研究結果について「読み手の目的」の明瞭度による文章内容の変化について,テキストマイニング手法を用いた再分析を行い,より詳細に検証する。さらに,産出文章のわかりやすさの変化(評価得点の値の変動)が記述者や項目によるものでなく,目的の明瞭度による変化であることを明らかにするために,一般化可能性理論を用いた分析を行う。
【実 験】
実験手続き,および産出文章の評価方法については,「古屋由貴子・岸 学(2014)状況説明文の記述における影響要因の検討-読み手意識の観点から-. 教心第56回総会. 684」を参照。
【結果と考察】
目的明瞭群と不明瞭群における産出文章の内容の変化について具体的に検証するために,テキストマイニング手法(フリーソフト:KHcoder)を用いて特徴語を抽出し,コレスポンデンス分析を行った(図1)。その結果,目的不明瞭群は「自分」「勢い」「左折」などの特徴語から「自分の行動に関する事象」,および「歩行」「歩く」「通り過ぎる」などの歩行者の状況に関する単語の塊に位置することから,「他者(歩行者)に関する事象」についての記述が多いことが示された。一方,目的明瞭群は「骨折」「ムチウチ」「打撲」などの特徴語から「人体への被害に関する事象」,および「窓」「部品」「車体」などの単語の塊に位置することから「車の被害に関する事象」についての記述が多いことが示された。この2つは主に事故状況を客観的視点から捉えた事象であり,目的を明瞭にすることでより客観的な文章を記述するようになる可能性が示唆された。
次に,一般化可能性理論を用いて,目的の明瞭度×記述者×評価項目の三要因配置のもと,変動要因間の分散成分の推定値を算出し,池田(1994)を参考に分散推定値割合(=(当該要因の分散推定値)/(全要因の分散推定値合計)×100)を用いて分散成分の比較を行った(表1)。その結果,目的の明瞭度の分散推定量が61.55%と最も高く,評価得点の変動は目的の明瞭度による影響であることが示された。すなわち,目的不明瞭群・明瞭群間における産出文章のわかりやすさの変化(評価得点の値の変動)は,記述者間や評価項目間の値の変動による影響をほとんど受けておらず,目的の明瞭度の変化によるものであるということが示された。