The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PE

Thu. Aug 27, 2015 1:30 PM - 3:30 PM メインホールA (2階)

[PE046] 「努力は必ず報われる」か?

努力観と他者志向的達成動機

伊藤忠弘 (学習院大学)

Keywords:努力, 達成動機, 随伴性認知

問 題
「努力は必ず報われる」という発言をめぐってネット上で様々な意見が交わされる事態があった。努力が報われると考えるかは,努力と結果の随伴性認知の問題と捉えられるが,上記の議論はさらに一種の努力観を反映している。本研究では「努力は必ず報われる」に対する考え方の構造を明らかにする。さらにその努力観と他者志向的達成動機への態度との関連を探索的に検討する。
方 法
参加者 心理学の授業を受講する大学生96名(達成動機尺度との相関はこのうち56名と検討)
手続き 2014年10月の授業時に「努力は必ず報われる」に対する考えを自由に記述させた。内容の重複や類似性を考慮して39個の記述を抽出し,質問項目を作成した。翌週の授業時に,各記述に共感する程度を「とても共感する」から「全く共感できない」の6件法で回答させた。その際,5月に実施した自己・他者志向的達成動機への態度尺度(伊藤,2012)の回答と匿名状況でマッチングするための参加者固有の番号を記入させた。
結果と考察
最小二乗法,プロマックス回転による因子分析を実施した。固有値の減衰状況に基づき4因子解を採用した。1つの因子への負荷量が.35を超え,他の因子への負荷量が.35を超えないように因子分析を繰り返し,最終的に31項目を採用した。
第1因子は,結果に対する才能や環境の優位性を主張し,「努力が必ず報われる」ことへの懐疑を表す項目の負荷量が高く,「努力の限界」と命名した。第2因子は,努力が報われるかを問題とするよりも努力すること自体の重要性,必要性を主張する項目の負荷量が高く,「努力の価値化」と命名した。第3因子は,努力の継続によって結果が得られることを期待する項目の負荷量が高く,「持続的努力への信念」と命名した。第4因子は,「好きだから努力している」と考えることを奨める項目の負荷量が高く,報われなかった場合の失望や不満の回避を目的とすると捉え「努力の合理化」と命名した。各因子に負荷量が高い項目を中心に5項目を選択し下位尺度を構成した(アルファ係数は.83,.80,.73;第4因子は2項目,r=.65)(Table 1)。努力の価値化と持続的努力への信念は正の相関(r=.35)が認められた。努力の限界は努力の合理化と正の相関(r=.24),持続的努力への信念と負の相関(r=-.22)が認められた。
自己・他者志向的達成動機への態度の5つの下位尺度との相関を検討した(Table 2)。自己志向的動機と他者志向的動機を統合している人ほど,継続的努力が結果を生じさせると信じる傾向と,努力自体に高い価値を置く傾向を保持していた。一方,他者志向的動機に負担感を感じること,および他者志向的動機に利己性を認知すること,と努力の限界の認知の間に正の相関が認められた。また持続的努力が結果をもたらすという信念は,自己志向的動機の重視と負の相関,他者志向的達成動機の重視と正の相関が認められた。他者志向的動機の内在化により,随伴性の見通しが不確かな状況でも努力を動機づけることが示唆された。他者志向的に動機づけられる際には,随伴性認知が低くても努力を諦めることが難しく,持続的な努力を動機づける努力観が形成されるかもしれない。