[PE060] 女子大学生における教育実習前後の心理的変化
心理的介入に向けた予備的研究
キーワード:教育実習, 女子大学生, 心理的介入
【問題と目的】
不安を抱いて教育実習に赴く学生たちにとって,どのような学びを事前に得てもらうことが効果的だろうか。あるいは,実習後に自信を無くしてしまった学生たちに対して,どのような支援を行えばよいのだろうか。教育実習中の不安やストレスについて扱った研究は一定数存在し(大野木・宮川,1996など),不安解消プログラムの必要性が言及されている(西松,2008)ものの,実際のプログラムや心理的介入について扱った研究は殆ど存在しない。教育実習にまつわる不安は女性の方が高いといわれていることから,本研究では女子大学生を対象とし,より効果的に教育実習生たちを支援することができるような授業を開発していくため,教育実習に関わる学生たちの心理状態の把握と,心理的介入に向けた予備的検討を目的としたい。吉村ら(2014)は現状分析を通し,現場における教師や生徒との関係性が教育実習生の心理変化に大きな影響を与える可能性を見出した。本研究においても,引き続き現場での関係性の影響についてもみていきたい。
【方 法】
対象者 教育実践演習という教職科目を履修している,教育実習を終えた大学4年生(女子20名)を対象とした。なお対象者は,中学校もしくは高等学校において英語科の教育実習を経験している。
質問紙 教育実習の前後において,心理の変化を捉えるために調査を実施した。回答方法は,全42項目について,「とてもそう思う[1]」から「全くそう思わない[7]」までの7段階で回答を求めるものであった。回答に対して[]内の得点が順に与えられた。さらに,各項目について,その選択理由の自由記述を求めた。
心理的介入 心理的介入の同意を得た1名(Aさん)を対象に,インフォームドコンセントを書面で取り,60分の半構造的面接を行った。面接内容は,前掲の質問紙結果のうち不安が減少していない項目等について確認し,最も不安の高い事項を特定し,それについて認知行動的介入を行う,というものである。なお,実施者は臨床心理士の有資格者である
【結果と考察】
教育実習前後の心理の変化
教育実習前後における評価得点を対応のあるt検定により比較したところ,以下の24項目において教育実習前よりも教育実習後の得点が有意に高くなっていることが示された。「優しい」(t (18)= 3.708, p<.05),「面白い」(t (18)= 4.444, p<.001),「楽しい」(t (18)= 4.535, p<.001),「あたたかい」(t (18)= 4.342, p<.001),「信頼できる」(t (18)=2.387, p<.05),「積極的」(t (18)=2.281, p<.05),「真剣」(t (18)=2.191, p<.05),「明るい」(t (18)= 3.911, p<.05),「熱心な」(t (18)=2.916, p<.05),「情熱的」(t (18)=2.333, p<.05)「やりがいがある」(t (18)=3.495, p<.05),「さわやか」(t (18)=2.283, p<.05),「おおらか」 (t (18)= 3.904, p<.05),「柔軟な」(t (18)=3.016, p<.05),「興味深い」(t (18)=2.477, p<.05),「寛大な」(t (18)=3.432, p<.05),「誠実な」(t (18)=2.911, p<.05),「純粋な」(t (18)=4.011, p<.05),「親しみがある」(t (18)= 4.220, p<.05),「教養がある」(t (18)=2.650, p<.05),「頼りになる」(t (18)= 3.209, p<.05),「進歩的」(t (18)=2.691, p<.05),「生き生きとした」(t (18)= 3.391, p<.05),「公平な」(t (18)=2.613, p<.05)。
また,以下の4項目において教育実習後の得点が有意に低くなっていることが示された。「厳しい」(t (18)=-2.251, p<.05),「威厳的」(t (18)=-2.897, p<.05),「堅い」(t (18)=-2.993, p<.05),「支配的」(t (18)=-2.517, p<.05)。以上をみてみると,肯定的な項目が得点増加し,否定的な項目が得点減少しており,その傾向は吉村ら(2014)と同様であることが認められた。
心理的介入
上記の結果を受け,Aさんの自由記述欄を参照しつつ,①肯定的項目のうち得点上昇がみられなかったもの,②否定的項目のうち得点減少が見られなかったもの,についてより丁寧に確認と質問を行った。また,③質問紙で拾えていない不安事項,④より全般的な教職に関する現時点での不安事項,について話し合い,①~④の中から,最終的に最も不安な事項を協同で特定したところ,「現場の教員との関係性」が選ばれた。
そこで,実習中,現場の教員との関係性のなかで生じた具体的不安状況を一つ選択してもらい,該当場面に対する認知再構成法を実施した。それはAさんの授業に関する指示をめぐってのコミュニケーションであり,Aさんの頼ることに対する逡巡も影響し,不安と不信感が喚起された状況であった。認知再構成法の実施後は,「(同様の場面で)教えて下さいと言えるかもしれない」という認知の変化と,不安感の低減が感想として報告された。
吉村ら(2014)は質問紙の結果から,現場における他者とのコミュニケーションが心理の変化に大きな影響を与えていると考えたが,Aさんとの詳細な面接内容からも,同様の傾向は支持されたといえる。また,今回の結果から,教育実習生に対しての認知行動的介入の有効性も示唆された。しかしながら対象者数が限られていたことから,今後は対象者を増やし,例えばより多くの人数に対し一斉に実施できるような介入法等,教育実習生に対しより効果的な教育プログラムを検討していきたい。
不安を抱いて教育実習に赴く学生たちにとって,どのような学びを事前に得てもらうことが効果的だろうか。あるいは,実習後に自信を無くしてしまった学生たちに対して,どのような支援を行えばよいのだろうか。教育実習中の不安やストレスについて扱った研究は一定数存在し(大野木・宮川,1996など),不安解消プログラムの必要性が言及されている(西松,2008)ものの,実際のプログラムや心理的介入について扱った研究は殆ど存在しない。教育実習にまつわる不安は女性の方が高いといわれていることから,本研究では女子大学生を対象とし,より効果的に教育実習生たちを支援することができるような授業を開発していくため,教育実習に関わる学生たちの心理状態の把握と,心理的介入に向けた予備的検討を目的としたい。吉村ら(2014)は現状分析を通し,現場における教師や生徒との関係性が教育実習生の心理変化に大きな影響を与える可能性を見出した。本研究においても,引き続き現場での関係性の影響についてもみていきたい。
【方 法】
対象者 教育実践演習という教職科目を履修している,教育実習を終えた大学4年生(女子20名)を対象とした。なお対象者は,中学校もしくは高等学校において英語科の教育実習を経験している。
質問紙 教育実習の前後において,心理の変化を捉えるために調査を実施した。回答方法は,全42項目について,「とてもそう思う[1]」から「全くそう思わない[7]」までの7段階で回答を求めるものであった。回答に対して[]内の得点が順に与えられた。さらに,各項目について,その選択理由の自由記述を求めた。
心理的介入 心理的介入の同意を得た1名(Aさん)を対象に,インフォームドコンセントを書面で取り,60分の半構造的面接を行った。面接内容は,前掲の質問紙結果のうち不安が減少していない項目等について確認し,最も不安の高い事項を特定し,それについて認知行動的介入を行う,というものである。なお,実施者は臨床心理士の有資格者である
【結果と考察】
教育実習前後の心理の変化
教育実習前後における評価得点を対応のあるt検定により比較したところ,以下の24項目において教育実習前よりも教育実習後の得点が有意に高くなっていることが示された。「優しい」(t (18)= 3.708, p<.05),「面白い」(t (18)= 4.444, p<.001),「楽しい」(t (18)= 4.535, p<.001),「あたたかい」(t (18)= 4.342, p<.001),「信頼できる」(t (18)=2.387, p<.05),「積極的」(t (18)=2.281, p<.05),「真剣」(t (18)=2.191, p<.05),「明るい」(t (18)= 3.911, p<.05),「熱心な」(t (18)=2.916, p<.05),「情熱的」(t (18)=2.333, p<.05)「やりがいがある」(t (18)=3.495, p<.05),「さわやか」(t (18)=2.283, p<.05),「おおらか」 (t (18)= 3.904, p<.05),「柔軟な」(t (18)=3.016, p<.05),「興味深い」(t (18)=2.477, p<.05),「寛大な」(t (18)=3.432, p<.05),「誠実な」(t (18)=2.911, p<.05),「純粋な」(t (18)=4.011, p<.05),「親しみがある」(t (18)= 4.220, p<.05),「教養がある」(t (18)=2.650, p<.05),「頼りになる」(t (18)= 3.209, p<.05),「進歩的」(t (18)=2.691, p<.05),「生き生きとした」(t (18)= 3.391, p<.05),「公平な」(t (18)=2.613, p<.05)。
また,以下の4項目において教育実習後の得点が有意に低くなっていることが示された。「厳しい」(t (18)=-2.251, p<.05),「威厳的」(t (18)=-2.897, p<.05),「堅い」(t (18)=-2.993, p<.05),「支配的」(t (18)=-2.517, p<.05)。以上をみてみると,肯定的な項目が得点増加し,否定的な項目が得点減少しており,その傾向は吉村ら(2014)と同様であることが認められた。
心理的介入
上記の結果を受け,Aさんの自由記述欄を参照しつつ,①肯定的項目のうち得点上昇がみられなかったもの,②否定的項目のうち得点減少が見られなかったもの,についてより丁寧に確認と質問を行った。また,③質問紙で拾えていない不安事項,④より全般的な教職に関する現時点での不安事項,について話し合い,①~④の中から,最終的に最も不安な事項を協同で特定したところ,「現場の教員との関係性」が選ばれた。
そこで,実習中,現場の教員との関係性のなかで生じた具体的不安状況を一つ選択してもらい,該当場面に対する認知再構成法を実施した。それはAさんの授業に関する指示をめぐってのコミュニケーションであり,Aさんの頼ることに対する逡巡も影響し,不安と不信感が喚起された状況であった。認知再構成法の実施後は,「(同様の場面で)教えて下さいと言えるかもしれない」という認知の変化と,不安感の低減が感想として報告された。
吉村ら(2014)は質問紙の結果から,現場における他者とのコミュニケーションが心理の変化に大きな影響を与えていると考えたが,Aさんとの詳細な面接内容からも,同様の傾向は支持されたといえる。また,今回の結果から,教育実習生に対しての認知行動的介入の有効性も示唆された。しかしながら対象者数が限られていたことから,今後は対象者を増やし,例えばより多くの人数に対し一斉に実施できるような介入法等,教育実習生に対しより効果的な教育プログラムを検討していきたい。