[PE072] レジリエンスを高める臨床心理学的webサービスの開発と検討
キーワード:レジリエンス, セルフワーク, web
問題と目的
レジリエンス,すなわち逆境を乗り切る力や,傷つきから立ち直る力を高めるための方法は,主に教育の文脈で研究が進められており,グループワークや授業の中でレジリエンスにつながるスキルを学ぶような教育プログラムが発展してきている。一方で,レジリエンスを高めるための臨床心理学的介入は,個別のかかわりの中で丁寧に扱われてきており,ほとんど体系化されていない。これは,臨床心理学的視点からレジリエンスを考える場合,必要な介入は個人の特性およびその時の状態によって異なることに注目する必要があるためである。平野(2012)は,レジリエンスの生得的個人差の検討を通して,個人がもともと持っているレジリエンス要因のあり方によって,異なるアプローチが有効である可能性を提示した。具体的には,レジリエンスの資質的要因(もって生まれた気質と関連の強い要因)のアセスメントを通して,資質的要因の豊かな人にはセルフヘルプ能力を高める介入を行い,資質的要因が乏しい場合は,それ以前に自尊心や動機づけを高める介入を目指すものである。そこで本研究では,個人差をふまえたアプローチによって,レジリエンスを高める予防的なwebサービスを開発し,実証試験を通してその適用を検討することを目的とした。
方 法
1.「レジリエンス・トレーニング」の内容
webサービスの内容は,国内外の心理プログラムやワークを参考にして作成された(Boniwell & Ryan,2009; 辻井, 2008; 中野, 2005ほか)。
利用者は,webブラウザでアクセスし,ユーザー登録をしてログインする。(1)~(3)はいつでも利用できる。(4)の結果により,得点が高い場合は(5)のみ,得点が低い場合は(6)のみ利用できるようになるが,1か月後には両方アクセスが可能になる。
2.実証試験の手続き
(1)協力者 2014年12月に,web告知,チラシ,ポスターによってモニターを募集した。応募者90名のうち,本登録に進んだのは60名(男性9名,女性49名,その他2名;平均年齢26.76才,SD=10.40)であった。
(2)手続き 2014年12月~2015年2月の間に,2か月間なるべく継続的に利用してもらうように依頼した。Webに記入した内容は管理者が閲覧するが,個人情報がわかる形で公表することはない旨を伝えた。継続のモチベーションを高めるために,一週間に一度のペースで管理者が個別の利用状況に合わせたメッセージを送った。
(3)尺度 申し込み時にK10尺度,モニター前後にBRS,WHO-5(Awata, 2002)に回答を求めた。
結果と考察
1.利用状況
サービスの平均利用日数は16.17日(SD=21.85),平均利用回数は9.60回(SD=10.58)であった。登録日のみの利用者が60名中25名おり,それを除くと平均利用日数27.00日(SD=23.20),平均利用回数14.34回(SD=11.37)であった。
2.サービス利用前後の尺度得点の変化
pre/post両方のデータが揃った完了者は17名であり,2か月継続できた人は28%であった。完了群(n=17)と途中脱落群(n=43)を比較したところ,属性,レジリエンス,精神的健康(WHO-5,K10得点)のいずれにも差は見られなかった。
3.サービス利用前後の尺度得点の変化
完了群のサービス利用前後の尺度得点を比較したところ,レジリエンスの資質的要因については有意に得点増加がみられ(t (16) =-2.235, p < .05),獲得的要因についても有意傾向の得点増加がみられた(t (16)=-1.775, p < .10)。一方で,WHO-5については変化がみられなかった(t (16) =.382, n.s.)。
継続利用によって自らのレジリエンス要因をより認識できるようになることが示唆されたが,今回は早期脱落者が多く詳細な分析ができなかった。今後,継続のための工夫を検討する必要がある。
レジリエンス,すなわち逆境を乗り切る力や,傷つきから立ち直る力を高めるための方法は,主に教育の文脈で研究が進められており,グループワークや授業の中でレジリエンスにつながるスキルを学ぶような教育プログラムが発展してきている。一方で,レジリエンスを高めるための臨床心理学的介入は,個別のかかわりの中で丁寧に扱われてきており,ほとんど体系化されていない。これは,臨床心理学的視点からレジリエンスを考える場合,必要な介入は個人の特性およびその時の状態によって異なることに注目する必要があるためである。平野(2012)は,レジリエンスの生得的個人差の検討を通して,個人がもともと持っているレジリエンス要因のあり方によって,異なるアプローチが有効である可能性を提示した。具体的には,レジリエンスの資質的要因(もって生まれた気質と関連の強い要因)のアセスメントを通して,資質的要因の豊かな人にはセルフヘルプ能力を高める介入を行い,資質的要因が乏しい場合は,それ以前に自尊心や動機づけを高める介入を目指すものである。そこで本研究では,個人差をふまえたアプローチによって,レジリエンスを高める予防的なwebサービスを開発し,実証試験を通してその適用を検討することを目的とした。
方 法
1.「レジリエンス・トレーニング」の内容
webサービスの内容は,国内外の心理プログラムやワークを参考にして作成された(Boniwell & Ryan,2009; 辻井, 2008; 中野, 2005ほか)。
利用者は,webブラウザでアクセスし,ユーザー登録をしてログインする。(1)~(3)はいつでも利用できる。(4)の結果により,得点が高い場合は(5)のみ,得点が低い場合は(6)のみ利用できるようになるが,1か月後には両方アクセスが可能になる。
2.実証試験の手続き
(1)協力者 2014年12月に,web告知,チラシ,ポスターによってモニターを募集した。応募者90名のうち,本登録に進んだのは60名(男性9名,女性49名,その他2名;平均年齢26.76才,SD=10.40)であった。
(2)手続き 2014年12月~2015年2月の間に,2か月間なるべく継続的に利用してもらうように依頼した。Webに記入した内容は管理者が閲覧するが,個人情報がわかる形で公表することはない旨を伝えた。継続のモチベーションを高めるために,一週間に一度のペースで管理者が個別の利用状況に合わせたメッセージを送った。
(3)尺度 申し込み時にK10尺度,モニター前後にBRS,WHO-5(Awata, 2002)に回答を求めた。
結果と考察
1.利用状況
サービスの平均利用日数は16.17日(SD=21.85),平均利用回数は9.60回(SD=10.58)であった。登録日のみの利用者が60名中25名おり,それを除くと平均利用日数27.00日(SD=23.20),平均利用回数14.34回(SD=11.37)であった。
2.サービス利用前後の尺度得点の変化
pre/post両方のデータが揃った完了者は17名であり,2か月継続できた人は28%であった。完了群(n=17)と途中脱落群(n=43)を比較したところ,属性,レジリエンス,精神的健康(WHO-5,K10得点)のいずれにも差は見られなかった。
3.サービス利用前後の尺度得点の変化
完了群のサービス利用前後の尺度得点を比較したところ,レジリエンスの資質的要因については有意に得点増加がみられ(t (16) =-2.235, p < .05),獲得的要因についても有意傾向の得点増加がみられた(t (16)=-1.775, p < .10)。一方で,WHO-5については変化がみられなかった(t (16) =.382, n.s.)。
継続利用によって自らのレジリエンス要因をより認識できるようになることが示唆されたが,今回は早期脱落者が多く詳細な分析ができなかった。今後,継続のための工夫を検討する必要がある。