日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PE

2015年8月27日(木) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PE076] 児童用・感情交流尺度作成の試み

信頼性・妥当性の検討

牧郁子 (大阪教育大学)

キーワード:小学生, 感情, 尺度

【問題と目的】
近年実施された小中学生を対象とした調査結果で,日本の子どもは欧米の子どもよりも抑うつ得点が高いことが報告されている(傳田,2004)。こうしたことからも,子どもの抑うつは,現代の心理学において看過できない重要課題となっているといえよう。近年抑うつ,および抑うつ症状を含むストレス予防プログラム(安藤,2008;倉掛・山崎,2006;岡崎・安藤,2010)が開発され効果検討が行われているが,いずれも中学生対象に行われてきた手法を援用し実施されている。このことは,小学生の抑うつや無気力感に関するメカニズムの検証に基づかず,思児童期の抑うつ・無気力感への介入が行われている研究が多いことを示唆する。
随伴性判断が現実的になる思春期(鎌原・樋口,1987; Weisz & Stipek,1982)に比べて,その認知発達が具体的操作期から形式的操作期の移行期にある小学生は,中学生の無気力感モデル(牧,2011)とはまた違ったメカニズムで働いている可能性がある。
こうしたことから本研究では,無気力感との関連性が示唆され(GreenBerg,2010),近年児童期における不適応行動の要因とされる感情の社会化不全(宮下・森崎,2006;大河原,2004)を変数化し無気力感への影響を検討するために,児童用・感情交流尺度を作成し,信頼性・妥当性を検証することとした。
【方 法】
大阪府内の大学附属小学校に通う児童333名(男子=164名,女子=169名;4年生=118名,5年生=110名,6年生=105名)を対象に,感情交流尺度原項目,および小学生用の無気力感尺度(笠井・松村・保坂・三浦,1995)から成るアンケート調査を実施した。
【結 果】
因子分析の結果,「ポジティブ感情の送受信」「子どものネガティブ感情の送信」「保護者のネガティブ感情の受信」といった解釈可能な3因子が抽出された(Table1)。
また各下位尺度の内的整合性を検討するため,Cronbachのα係数を求めたところ,第1因子α=.93,第2因子α=.88,第3因子α=.90となり信頼性が認められた。さらに尺度の構成概念妥当性を検討するため,先行研究(GreenBerg,2010)で感情の社会化と関連性が示唆されている無気力感との相関係数を算出したところ,いずれの下位尺度も無気力感合計得点と中程度の有意な負の相関が認められた。
【考 察】
近年児童期の問題とされる感情の社会化を定量化するための測定尺度を作成した結果,その信頼性・妥当性が検証された。ただし本研究は大学附属小学校の児童を対象とした調査に基づいており,さらに公立小学校の児童を対象とした調査を足すことでサンプリングの偏りを調整し,再度,尺度の信頼性・妥当性を検討する必要があると考える。
※本研究は日本学術振興会の科学研究費・基盤研究(C)「小学生における無気力感メカニズムと教師介入プログラムの検討」(課題番号25380927)の助成を受けた。