[PF001] 青少年のネットいじめ経験と友人関係の認識
日本・中国・インドとの3ヶ国間比較
Keywords:ネットいじめ, 友人関係, 国際比較研究
問題と目的
ネットいじめの研究は欧米中心に約10年蓄積されてきているが,アジア発の研究論文はまだまだ少ないのが現状である。そこで本研究はアジアの中でもインターネット使用がさかんな日本・中国・インド3ヶ国におけるネットいじめの比較を行うことを第一の目的とした。
先行研究の多くはネットいじめに関する子どもたちの行動特徴や心理的影響に着目している。従来の対面式いじめの研究では友人関係の質といじめ体験についての報告が多数なされているが,ネットいじめ行動においては十分検討がなされていない。そこで,ネットいじめ経験をもとに生徒たちを4群(加害者・被害者・加害/被害者・非関与)に分け,友人関係の認識について違いがあるか検討を行うことを第二の目的とした。
方法
調査参加者
本研究の調査対象者は11-15歳の青少年1,637人である(日本n=474人; 女性52.6%,中国n=683; 女性46.7%, インド n=480; 女性46.5%)。日本では関東地方の2つの中学校,中国では北京と安徽省から2つの学校,インドではカルナータカ州の6校からデータ収集を行った。新年度開始時期が各国で異なるため,中国とインドでは2013年秋に,日本では2014 年夏に調査を行った。
手続き
質問紙調査で以下について測定した:①ネットいじめ加害・被害経験(各9問,計18項目; Cronbachα加害=79;被害α=.81),②友人関係の認識(Inventory of Parent and Peer attachmentの下位尺度25項目;Cronbach α=.89)
結果
インドの生徒たちは日本・中国と比較してネットいじめをより多く経験しており,中国の生徒たちは日本よりもネットいじめ被害・加害ともにより多く経験していた(Table.1)。ネットいじめ被害・加害経験をそれぞれ従属変数,国を独立変数とした多変量分散分析を行った結果,有意な差が見られた:F (4,3130)=65.83, p<.001)。交互作用も有意であった:F (4,3130)=4.75,p<.001)。フォローアップの分散分析でも同様の有意差が見られた。
次に,ネットいじめ経験の平均値をもとに4群に分類した(加害/被害者群n=433, 加害者群n=127, 被害者群n=150,非関与群n=866)。このグループと国を独立変数に,友人関係の認識を従属変数とし分散分析を行った結果,国間での差異は見られなかった。一方,グループ間の主効果は有意であった;F (3,7) =14.78, p<.001。加害/被害者群は友人関係の認識の値が一番低く,ネガティブな認識を抱いていたことが明らかになった(M=3.30, SD=.05) 。有意な交互作用は見られなかった。
考察
日本の生徒たちはネットいじめの加害・被害経験ともにインド・中国の生徒たちよりも少なかった。しかし, オリジナルの質問項目が欧米での先行研究をもとに作成されたため日本でトラブルが多いLINEなどでの加害・被害経験については質問がなされなかった。また本研究は,セルフリポート式の質問紙調査である。今後は教師側からの評価や,欧米の研究で多く見られるPeer nominationの手法を加えるなどして多角的な情報を収集することが更なる問題理解につながるであろう。
最後に3ヶ国とも加害/被害の両方を経験している子どもたちは友人関係にネガティブな認識を抱いていることが明らかになり,このリスク群への介入が今後の課題であろう。
謝 辞
本研究はJSPS科研費 26870535の助成を受けたものです。
ネットいじめの研究は欧米中心に約10年蓄積されてきているが,アジア発の研究論文はまだまだ少ないのが現状である。そこで本研究はアジアの中でもインターネット使用がさかんな日本・中国・インド3ヶ国におけるネットいじめの比較を行うことを第一の目的とした。
先行研究の多くはネットいじめに関する子どもたちの行動特徴や心理的影響に着目している。従来の対面式いじめの研究では友人関係の質といじめ体験についての報告が多数なされているが,ネットいじめ行動においては十分検討がなされていない。そこで,ネットいじめ経験をもとに生徒たちを4群(加害者・被害者・加害/被害者・非関与)に分け,友人関係の認識について違いがあるか検討を行うことを第二の目的とした。
方法
調査参加者
本研究の調査対象者は11-15歳の青少年1,637人である(日本n=474人; 女性52.6%,中国n=683; 女性46.7%, インド n=480; 女性46.5%)。日本では関東地方の2つの中学校,中国では北京と安徽省から2つの学校,インドではカルナータカ州の6校からデータ収集を行った。新年度開始時期が各国で異なるため,中国とインドでは2013年秋に,日本では2014 年夏に調査を行った。
手続き
質問紙調査で以下について測定した:①ネットいじめ加害・被害経験(各9問,計18項目; Cronbachα加害=79;被害α=.81),②友人関係の認識(Inventory of Parent and Peer attachmentの下位尺度25項目;Cronbach α=.89)
結果
インドの生徒たちは日本・中国と比較してネットいじめをより多く経験しており,中国の生徒たちは日本よりもネットいじめ被害・加害ともにより多く経験していた(Table.1)。ネットいじめ被害・加害経験をそれぞれ従属変数,国を独立変数とした多変量分散分析を行った結果,有意な差が見られた:F (4,3130)=65.83, p<.001)。交互作用も有意であった:F (4,3130)=4.75,p<.001)。フォローアップの分散分析でも同様の有意差が見られた。
次に,ネットいじめ経験の平均値をもとに4群に分類した(加害/被害者群n=433, 加害者群n=127, 被害者群n=150,非関与群n=866)。このグループと国を独立変数に,友人関係の認識を従属変数とし分散分析を行った結果,国間での差異は見られなかった。一方,グループ間の主効果は有意であった;F (3,7) =14.78, p<.001。加害/被害者群は友人関係の認識の値が一番低く,ネガティブな認識を抱いていたことが明らかになった(M=3.30, SD=.05) 。有意な交互作用は見られなかった。
考察
日本の生徒たちはネットいじめの加害・被害経験ともにインド・中国の生徒たちよりも少なかった。しかし, オリジナルの質問項目が欧米での先行研究をもとに作成されたため日本でトラブルが多いLINEなどでの加害・被害経験については質問がなされなかった。また本研究は,セルフリポート式の質問紙調査である。今後は教師側からの評価や,欧米の研究で多く見られるPeer nominationの手法を加えるなどして多角的な情報を収集することが更なる問題理解につながるであろう。
最後に3ヶ国とも加害/被害の両方を経験している子どもたちは友人関係にネガティブな認識を抱いていることが明らかになり,このリスク群への介入が今後の課題であろう。
謝 辞
本研究はJSPS科研費 26870535の助成を受けたものです。