The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

ポスター発表

ポスター発表 PF

Thu. Aug 27, 2015 4:00 PM - 6:00 PM メインホールA (2階)

[PF007] 新任小学校教員の初期適応の促進要因に関する事例的検討

授業実践の側面に着目して

高野七良見1, 河村茂雄2 (1.早稲田大学大学院, 2.早稲田大学)

Keywords:新任小学校教員, 初期適応, 援助資源

【問題と目的】
近年,ベテラン教員の大量退職および若手教員の大量採用に伴い,若手教員に対する支援が課題となっている(文部科学省,2013)。
学校から社会への移行については,いわゆる初期適応の観点よりさまざまな研究が蓄積されつつある(中島,2011;若松,1995など)。一方で,教員を対象とした初期適応に関する研究はいまだ不足している状況にある。
國分(1995)は新任教員の悩みの特徴として「スキル不足による落ち込み」があると指摘している。また,中島(2003)は,20代の教員のストレス状況として「教職そのものへの適応不足」によるものが多いことを指摘している。このことから,新任教員の入職後の初期の適応においては,教師としての職務を一通り遂行できるようになることが重要であると推測される。
本研究では,新任教員の職務への適応に関して,直面した困難さをどのように克服するのかという観点から検討し,困難さの克服の際に活用する資源について事例を用いて探索的に調査することを目的とした。
【方 法】
調査対象 首都圏の学校に勤務する新任小学校教員のA教師(男性1名)を対象とした。被験者は大学を卒業後すぐに教員となり,社会人経験や学校での講師経験はなかった。
調査手続き 2013年11月に半構造化面接を実施した。被験者に承諾をもらい録音し,面接後に逐語録を作成した。面接の所要時間は90分程度であった。調査内容は,入職後にどのようなことに困難さを感じたか,またそれを克服した場合どのように克服したかであった。
【結果と考察】
A教師の感じる困難さとして,授業に関する内容が挙げられた。「しんどかったのでいうと,普段の授業ですね。明日は何,明日は何っていう教材研究や授業準備です」「例えば,社会科の,農業を9時間でやりますっていったら,自分の前のやり方でいくと,今日1時間目やったから,明日の2時間目何かな,また次の日になって明日の5時間目何かなってやっていました」と語っている。また,「授業が下手すぎて,特に算数が。自分はどうしたらいいのかという感じで,いつも算数の時間の前にはお腹が痛くなりました」「教材はどういうものを使おうとか,展開の仕方とかも,基本的なところが分からなかった」と語っている。このことから,A教師は授業準備や教材研究において,見通しや方法論を持っていなかったとともに,とくに算数の授業に関しては基本的な方法論が確立せず,困難さを感じていたことが推察された。これらの困難さに対して,A教師は「週1回,TTみたいな感じで入ってくれる,結構ベテランの先生がいるので,その先生に,算数がわからなくて,常にお腹が痛いんですと泣きついて,そうしたらじゃあ教えてあげるよって言ってくださって,放課後に,教材研究はこうやって,子どものつまずきはこう予測してみたいな感じでご指導いただいて,ほんとうに有難くて,それでまぁ,なんとかやれるようになりました」「TTの人に教えていただいたときに,単元で見なさいとか,計画を立てなさいという感じで言われたので,土日にそれをやるようにして,最近は落ち着きました」と語っている。このことから,A教師はTTの教員に相談し,助言を受け,授業準備および教材研究の見通しや方法論を学び,当初の困難さを克服していたことが推察された。
一方,A教師は算数以外の教科の授業の進め方については「他の教科だと,それなりに自分が大学時代に見せていただいた授業とかで,こうやっていきたいなとか,こういう風にしようかなみたいな,イメージがあった」「やりたいようなやり方があったので,それで進めて,いった感じですかね」と語っている。また,「インターンシップと,あと,ゼミで学校を色々回っていたので,授業を見に。それで,モデルをいっぱい持てたっていうのは,すごい大きいですかね」「大学の何とか教育法みたいなのは,単純に,教材とか指導法とか参考になるので,今学校に全部ノートを置いてあります。学科の先生のやつとか。そういう意味では,うん,授業も役立っています」と語っている。このことから,A教師は,算数以外の授業の実施に関しては,入職前にやりたい内容や方法に対するイメージを持っていたこと,インターンシップやゼミの活動で授業のモデルを持っていたこと,大学における教科指導の授業で学んだことによって,大きな困難さを感じなかったことが推察された。
以上のことから,A教師は授業場面の困難さを克服する際に同僚教員による援助資源,また,入職前に習得していた知識やイメージといった自助資源を活用していたことが推察された。本研究はA教師1名の事例に関する検討であったため,今後はより多くの新任教員に調査を行う必要があると考える。