日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PF

2015年8月27日(木) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PF014] 家庭と学校で共に育む子どもの学校適応

SEL-8Sプログラムによる人間関係づくりと「共育」の試行的取組

大和和雄1, 小泉令三2 (1.福岡教育大学大学院, 2.福岡教育大学)

キーワード:SEL-8S, 共育, 学校適応

問題と目的
近年,子ども達の不登校や,学校での問題行動の増加傾向が指摘され,その対策の必要性が唱えられている。中でも校内での暴力行為については,中学生や高校生がほぼ横ばい傾向であるのに対して,小学校ではここ数年で増加傾向にある。そのような問題への対策の一つとして,予防・開発的に心理教育的プログラムが学校に導入され,その効果についてこれまでにも様々な研究によって報告されている。また,福岡市教育委員会が作成した「新しいふくおかの教育計画」(2009)においては,子どもの教育は学校だけでなく,家庭,地域・企業等も関わっていることや,それぞれが役割を担い,責任をもって子どもを育むという「共育」の考え方が示されている。本研究では,学校において試行的にSEL-8Sによる学習(小泉,2011)に取り組むとともに,家庭においては,学校で学習した内容と関連した取組を「共育」として実施することが子どもの社会的能力の向上や学校適応に有効であるのか検証することを目的とする。
方法
調査対象者 A県内の公立小学校1校の5年生2学級の児童48名と保護者 学習と「共育」に取り組む学級を実験学級,学習のみ取り組む学級を統制学級とした。
調査内容 児童を対象とした調査は「小学生版『社会性と情動』の尺度」(田中・真井・津田・田中,2011)の児童自己評定で,8つの社会的能力(5つの基礎的社会的能力;「自己への気付き」,「他者への気付き」,「自己コントロール」,「対人関係」,「責任ある意思決定」と3つの応用的社会的能力;「生活上の問題防止スキル」「人生の重要事態に対処する能力」「積極的・貢献的な奉仕活動」)を測定した。また,「学校環境適応感尺度(ASSESS:Adaptation Scale for School Environments Six Spheres)」(栗原・井上,2010)を実施し,6つの因子から学校適応感を測定した。保護者を対象とした調査は,人間関係づくり学習に対する理解度や意識を把握するために保護者用アンケート(無記名)を作成した。また,毎学期末に対象校で実施している保護者による学校評価(記名式)のうち,保護者自身に関する項目を取り出して実施した。
調査手続き 児童を対象とした調査は,事前事後の2回,実験学級・統制学級ともに実施した。いずれの調査についても,児童が自分の行動を自己評価した。また,実験学級の保護者を対象としたアンケートについては,人間関係づくり学習を始めた段階の10月と,実際に保護者にワークショップ体験をしてもらった後の12月に実施した。
学習実施手続き 学習では,実験・統制学級ともに3ヶ月間にわたって5回のSEL-8Sプログラムの学習を実施した。また,「共育」として実験学級においては,学習に関するチャレンジ週間の設定(挨拶に関する内容を,月に1回ずつ1週間設定),学習と関連したポスター(挨拶のポイント「おかめ」を意識するためのもの)配付,保護者向けSEL8Sワークショップの実施を行った(学級懇談会の場でトラブル解決のポイントを使う内容を1回実施)。
結果と考察
子どもの自己評定尺度の結果から,実験学級の応用的社会的能力について,時期による有意な上昇が見られた。一方で,基礎的社会的能力については,実験学級統制学級との間や時期による差は見られなかった。アセスの結果についても,実験学級において効果を示す結果は得られなかった。
また,保護者評価からは,学校の教育方針や活動に対する理解が高まったり,「共育」の取組に対する関心が高まったりしていた。
以上のことから,学習の導入によって一定の効果は見られたものの,家庭との連携をより深めていくことで,8つの社会的能力や,学校適応感の高まりに繋がるのではないかと考えられる。