[PF022] 保育実習生の熟達化過程測定の予備的検討(2)
実習前後の保育環境知識の比較
Keywords:保育実習生, 語い流ちょう性課題
【問 題】
保育者養成課程において,学生は座学だけではなく複数回の実習を経て,保育者としての知識・技能を発達させていく。本研究の目的は,各学習段階において保育環境知識をはかる簡便な指標を作成するための基礎資料を得ることである。前回の報告(大神, 印刷中)では,複数回の実習を経た養成課程の3年生と実習経験のない非養成課程の3年生を語彙流ちょう性課題で比較し,指標としての一定の有効性を示した。しかし,専攻によるもともとの関心の違いが影響した可能性がある。そのため,本研究では,養成課程学生の最初の実習前後を縦断的に比較する。
【方 法】
対象及び時期:4年制女子大学の保育者養成課程2年生41人。最初の実習として,幼稚園での見学実習(2週間)を11月に行った。実習前課題は実習初日の約6週間前,実習後課題は実習最終日から約1週間後に実施した。
課題及び手続き:実験者の教示に従い各自が回答用紙に記入する形式で,集団で実施した。練習課題の後,「~をできるだけたくさんあげてください」との教示で,以下の4種類の語彙流ちょう性課題を連続で実施した(各1分間):a動物,bかで始まるもの,c幼稚園・保育所の保育室内にあるもの,d同園庭にあるもの。cdの保育環境課題の教示では,乳児クラス・幼児クラスを問わないこと,小さいものから大きいものまで何でもよいことを追加した。abは実習前後で差がないと考えられる意味カテゴリ・語頭音の統制課題として,cdは保育者としての熟達過程をみるための課題として設定した。4課題終了後,自由記述でcdの保育環境(室内・室外)についての回答方略及び全体の感想を尋ねた。
【結果及び考察】
4課題全5047回答中,不適切な回答(例:「か」課題で「がっこう」)や対象が特定できない回答(例:「線を引くやつ」)をエラーとして除外し(全体の0.1%),5041語を分析対象とした。
生成語数について,実習経験(実習前/実習後)×4課題(か/動物/保育室/園庭)の2要因の分散分析を行ったところ,実習経験の主効果及び課題の主効果が有意であった(それぞれF=11.5, p<.01, F=63.6, p<.01)。実習経験×課題の交互作用はみられなかった(F=1.4,n.s.)。図に示したように,各課題で実習前よりも実習後の方が生成語数が多かった。また,課題ごとの比較では,「動物」>「保育室」>「か」及び「園庭」の順で生成語数が多く,大神(印刷中)の養成課程3年生(責任実習経験済)の結果と同様の結果であった。
補足分析として,各生成語の親密度得点を算出し,実習経験×4課題の分散分析を行ったところ,実習経験及び課題の主効果,実習経験×課題の交互作用はいずれも有意ではなかった。したがって,実習後の生成語の増加は,マイナーなアイテムによるものではないと考えられる。
回答方略(自由記述)からは,実習前は母園での記憶やイメージで,実習後は「子どもの遊びを思い出し」「自分が使ったもの・子どもと遊んだもの」などの実習での体験に基づいて回答していたことが示唆された。ただし,3年生が保育者としての準備状況等にも言及していたのに対し,2年生では「子ども」「遊び」が中心であり,責任実習と見学実習の差を反映している可能性が示された。
本研究の結果,実習後では,保育環境課題だけではなく,統制課題についても語数の増加がみられた。比較的短期間で実施したため,練習効果の可能性がある。しかし一方で,前報と比較すると実習の性質(見学/責任)の違いがある部分もあり,語数以外の要素(生活用品等のカテゴリ等)を含め,より詳細に検討していく必要があるだろう。
大神優子(印刷中). 保育環境知識に関する語想起課題の検討― 実習経験の有無による比較 ―.和洋女子大学紀要,55.
謝辞.本研究の一部は,科研費(基盤研究C)(課題番号26380901)の助成を受けた。
保育者養成課程において,学生は座学だけではなく複数回の実習を経て,保育者としての知識・技能を発達させていく。本研究の目的は,各学習段階において保育環境知識をはかる簡便な指標を作成するための基礎資料を得ることである。前回の報告(大神, 印刷中)では,複数回の実習を経た養成課程の3年生と実習経験のない非養成課程の3年生を語彙流ちょう性課題で比較し,指標としての一定の有効性を示した。しかし,専攻によるもともとの関心の違いが影響した可能性がある。そのため,本研究では,養成課程学生の最初の実習前後を縦断的に比較する。
【方 法】
対象及び時期:4年制女子大学の保育者養成課程2年生41人。最初の実習として,幼稚園での見学実習(2週間)を11月に行った。実習前課題は実習初日の約6週間前,実習後課題は実習最終日から約1週間後に実施した。
課題及び手続き:実験者の教示に従い各自が回答用紙に記入する形式で,集団で実施した。練習課題の後,「~をできるだけたくさんあげてください」との教示で,以下の4種類の語彙流ちょう性課題を連続で実施した(各1分間):a動物,bかで始まるもの,c幼稚園・保育所の保育室内にあるもの,d同園庭にあるもの。cdの保育環境課題の教示では,乳児クラス・幼児クラスを問わないこと,小さいものから大きいものまで何でもよいことを追加した。abは実習前後で差がないと考えられる意味カテゴリ・語頭音の統制課題として,cdは保育者としての熟達過程をみるための課題として設定した。4課題終了後,自由記述でcdの保育環境(室内・室外)についての回答方略及び全体の感想を尋ねた。
【結果及び考察】
4課題全5047回答中,不適切な回答(例:「か」課題で「がっこう」)や対象が特定できない回答(例:「線を引くやつ」)をエラーとして除外し(全体の0.1%),5041語を分析対象とした。
生成語数について,実習経験(実習前/実習後)×4課題(か/動物/保育室/園庭)の2要因の分散分析を行ったところ,実習経験の主効果及び課題の主効果が有意であった(それぞれF=11.5, p<.01, F=63.6, p<.01)。実習経験×課題の交互作用はみられなかった(F=1.4,n.s.)。図に示したように,各課題で実習前よりも実習後の方が生成語数が多かった。また,課題ごとの比較では,「動物」>「保育室」>「か」及び「園庭」の順で生成語数が多く,大神(印刷中)の養成課程3年生(責任実習経験済)の結果と同様の結果であった。
補足分析として,各生成語の親密度得点を算出し,実習経験×4課題の分散分析を行ったところ,実習経験及び課題の主効果,実習経験×課題の交互作用はいずれも有意ではなかった。したがって,実習後の生成語の増加は,マイナーなアイテムによるものではないと考えられる。
回答方略(自由記述)からは,実習前は母園での記憶やイメージで,実習後は「子どもの遊びを思い出し」「自分が使ったもの・子どもと遊んだもの」などの実習での体験に基づいて回答していたことが示唆された。ただし,3年生が保育者としての準備状況等にも言及していたのに対し,2年生では「子ども」「遊び」が中心であり,責任実習と見学実習の差を反映している可能性が示された。
本研究の結果,実習後では,保育環境課題だけではなく,統制課題についても語数の増加がみられた。比較的短期間で実施したため,練習効果の可能性がある。しかし一方で,前報と比較すると実習の性質(見学/責任)の違いがある部分もあり,語数以外の要素(生活用品等のカテゴリ等)を含め,より詳細に検討していく必要があるだろう。
大神優子(印刷中). 保育環境知識に関する語想起課題の検討― 実習経験の有無による比較 ―.和洋女子大学紀要,55.
謝辞.本研究の一部は,科研費(基盤研究C)(課題番号26380901)の助成を受けた。