[PF025] 他者に伝える意識が文章の理解度と読解後の作文に及ぼす影響
読解・作文の融合実験による検討
キーワード:文章理解, 作文, 他者意識
【目 的】
私たちが文章を読む時は,その内容を他者に伝える意識(以下,他者意識)をもつことで理解が深まる(柏崎・吉村・費・松見, 2013)。また,読解後の作文の語句の選択や関連情報の加除,文章構成の仕方などが,他者意識をもつことにより特徴的な様相を示す(柏崎・費・松見, 2014)。本研究では,読解時における他者意識の役割をさらに探究するため,読解後の作文について,より詳細な評価項目に基づく分析を行い,併せて内容理解度を逐語的情報の観点から検討し,他者意識をもつ読み手が読解中にどのような表象を形成しているかを明らかにする。
【方 法】
<実験計画> 柏崎他(2013)及び柏崎他(2014)と同様に,3条件を設定した。読んだ文章を大学2年生に分かるように紹介文を書く条件(大2),読んだ文章を中学1年生に分かるように紹介文を書く条件(中1),文章を後でもう一度読まなくても自分で分かるように要約文を書く(以下,自己意識)条件,の3つであった。<実験参加者> 日本語を母語とする女子大学生(2年生)104名であり,無作為に3条件(大2=36名,中1=34名,自分=34名)に配置した。<材料> 『「しきり」の文化論』(柏木,2004)の一部(1456字,35文)を用いた。<手続き> 実験は授業の一環として集団形式で行われた。参加者は,材料一式が入った封筒を配付され,次の手順で課題に取り組んだ。①教示文の黙読・聴解(5分),②文章の読解(10分),③紹介文または要約文の筆記産出(20分),④理解度テスト(20分),⑤文の重要度評定(10分),⑥筆記による内省報告,であった。<分析対象> 本稿では,前記の③を,実験者以外の日本語母語話者2名が42個の評定項目(山田・近藤・畠岡・篠崎・中條, 2010)に基づき5段階(1:全くそう思わない~5:非常にそう思う)評定した値と,④の「名詞補充問題」の成績について分析した。
【結果と考察】
作文評定値 作文の平均評定値について,3(3教示条件)×42(42個の評定項目)の2要因分散分析を行ったところ,教示条件の主効果がみられ,大2条件と中1条件が自分条件よりも作文評定値が高いことがわかった。交互作用も有意であり,下位検定を行った結果,42個の評定項目のうち34個で有意差が認められた。そして,主に次の4点がわかった。1説明の順番や流れ,全体の構成など,文章の構造化(文章スキーマ)に関する評定項目で,大2条件と中1条件が自分条件よりも評定値が高いこと,2読み手の知識や読解力,興味・関心への配慮に関する評定項目で,大2条件と中1条件が自分条件よりも評定値が高いこと,3単語や文,説明内容の簡略化に関する評定項目で,中1条件と自分条件が大2条件よりも評定値が高いこと,4表記や表現のわかりやすさに関する評定項目で,中1条件が最も評定値が高いこと,である。他者意識をもって文章を読む場合,読解後の作文は,読み手の意識や説明内容を考慮して産出されると言える。さらに,伝える相手が読み手よりも年齢が低い場合,文の表記や表現など,文章をわかりやすく構成するための産出方略を重視することが示唆される。
理解度テストの成績 柏崎他(2013)の採点基準とは異なり,本稿の分析では類義語も正解とした。名詞補充問題の平均得点について1要因(3水準)の分散分析を行った結果,主効果は有意ではなかった。この結果は,大2条件が中1条件よりも成績が高かった柏崎他(2013)とは異なる。
文章を読むときに他者意識をもつか自己意識をもつかは,読解中の表象形成を支える逐語的な意味情報に関しては,その記憶保持を同程度に促すが,他方,他者意識をもつことは,他者の言語発達レベルの想定をも含み,読解後の作文に関して,読解内容の再構築と産出の両面で,自己意識をもつ場合とは異なる様相を呈すると言えよう。
私たちが文章を読む時は,その内容を他者に伝える意識(以下,他者意識)をもつことで理解が深まる(柏崎・吉村・費・松見, 2013)。また,読解後の作文の語句の選択や関連情報の加除,文章構成の仕方などが,他者意識をもつことにより特徴的な様相を示す(柏崎・費・松見, 2014)。本研究では,読解時における他者意識の役割をさらに探究するため,読解後の作文について,より詳細な評価項目に基づく分析を行い,併せて内容理解度を逐語的情報の観点から検討し,他者意識をもつ読み手が読解中にどのような表象を形成しているかを明らかにする。
【方 法】
<実験計画> 柏崎他(2013)及び柏崎他(2014)と同様に,3条件を設定した。読んだ文章を大学2年生に分かるように紹介文を書く条件(大2),読んだ文章を中学1年生に分かるように紹介文を書く条件(中1),文章を後でもう一度読まなくても自分で分かるように要約文を書く(以下,自己意識)条件,の3つであった。<実験参加者> 日本語を母語とする女子大学生(2年生)104名であり,無作為に3条件(大2=36名,中1=34名,自分=34名)に配置した。<材料> 『「しきり」の文化論』(柏木,2004)の一部(1456字,35文)を用いた。<手続き> 実験は授業の一環として集団形式で行われた。参加者は,材料一式が入った封筒を配付され,次の手順で課題に取り組んだ。①教示文の黙読・聴解(5分),②文章の読解(10分),③紹介文または要約文の筆記産出(20分),④理解度テスト(20分),⑤文の重要度評定(10分),⑥筆記による内省報告,であった。<分析対象> 本稿では,前記の③を,実験者以外の日本語母語話者2名が42個の評定項目(山田・近藤・畠岡・篠崎・中條, 2010)に基づき5段階(1:全くそう思わない~5:非常にそう思う)評定した値と,④の「名詞補充問題」の成績について分析した。
【結果と考察】
作文評定値 作文の平均評定値について,3(3教示条件)×42(42個の評定項目)の2要因分散分析を行ったところ,教示条件の主効果がみられ,大2条件と中1条件が自分条件よりも作文評定値が高いことがわかった。交互作用も有意であり,下位検定を行った結果,42個の評定項目のうち34個で有意差が認められた。そして,主に次の4点がわかった。1説明の順番や流れ,全体の構成など,文章の構造化(文章スキーマ)に関する評定項目で,大2条件と中1条件が自分条件よりも評定値が高いこと,2読み手の知識や読解力,興味・関心への配慮に関する評定項目で,大2条件と中1条件が自分条件よりも評定値が高いこと,3単語や文,説明内容の簡略化に関する評定項目で,中1条件と自分条件が大2条件よりも評定値が高いこと,4表記や表現のわかりやすさに関する評定項目で,中1条件が最も評定値が高いこと,である。他者意識をもって文章を読む場合,読解後の作文は,読み手の意識や説明内容を考慮して産出されると言える。さらに,伝える相手が読み手よりも年齢が低い場合,文の表記や表現など,文章をわかりやすく構成するための産出方略を重視することが示唆される。
理解度テストの成績 柏崎他(2013)の採点基準とは異なり,本稿の分析では類義語も正解とした。名詞補充問題の平均得点について1要因(3水準)の分散分析を行った結果,主効果は有意ではなかった。この結果は,大2条件が中1条件よりも成績が高かった柏崎他(2013)とは異なる。
文章を読むときに他者意識をもつか自己意識をもつかは,読解中の表象形成を支える逐語的な意味情報に関しては,その記憶保持を同程度に促すが,他方,他者意識をもつことは,他者の言語発達レベルの想定をも含み,読解後の作文に関して,読解内容の再構築と産出の両面で,自己意識をもつ場合とは異なる様相を呈すると言えよう。