[PF027] ポジティブな課題価値とコストが学習行動に及ぼす影響
交互作用効果に着目して
キーワード:動機づけ, 課題価値
【目 的】
学習者が,学習内容に対して意義や価値を認識しているかという問題は,学習動機づけを考える上で非常に重要な問題である(Eccles & Wigfield, 2002)。Eccles & Wigfield(1985)は,個人にある課題に取り組みたいと思わせる価値的な側面を指す概念として課題価値という概念を提唱した。
Ecclesらによれば,課題価値は多面的な概念である(Eccles & Wigfield, 1985)。多くの先行研究では,課題価値の下位要素のうち,興味価値,獲得価値,利用価値の3つが学習行動に促進的に影響することが明らかにされてきた(e.g., Wigfield & Cambria, 2010)。一方で,Ecclesらのモデルにおいて学習行動を抑制するネガティブな課題価値の側面として位置づけられているコストについての研究は数少ない(e.g., Perez, Cromley, & Kaplan, 2014)。また,コストを扱った先行研究においても,ポジティブな価値とコストを切り離してそれぞれ独立の影響のみを検討するに留まり,組み合わせの効果を検討していない点が問題点として挙げられる。現実の学習場面を考えると,学習者は学習に対してポジティブな価値とコストを共に認知しうると推測される。したがって,これらを組み合わせたときにどのような影響がみられるかについて考慮する必要があると考えられる。
以上の問題意識より,本研究ではポジティブな価値とコストそれぞれの主効果のみでなく,交互作用効果を含めて学習行動との関連を検討する。
【方 法】
対象者
愛知県内の大学2校と短期大学1校,および大阪府の大学1校の計4つの大学に在籍する学生434名を対象に質問紙調査を実施した。有効回答者は,400名(男性83名・女性317名:年齢M=18.54,SD=0.74)であった。
質問紙
コスト:解良・中谷(2014)で作成された項目のうち,改めて因子分析を行った結果負荷量の小さかった項目1項目を除外して用いた。努力コスト,機会コスト,心理コストの3因子からなる。11項目7件法。 ポジティブな価値:伊田(2003)で作成された興味価値,実践的利用価値の項目から各4項目を用いた。7件法。 持続性の欠如:下山(1985)を参考に一部表現を改変して用いた。5項目5件法。
【結 果】
ポジティブな価値と各コスト,およびそれらの交互作用項を予測変数,持続性の欠如を目的変数として,予測変数の中心化を行った上で重回帰分析を行った。興味価値の結果をTable 1,実践的利用価値の結果をTable 2に示す。
興味価値と努力コストの交互作用効果を検討するために単純傾斜の検定を行った。その結果,努力コストの高い場合(平均+1SD)も低い場合(平均-1SD)も有意性が認められた(t(396)=-9.43, p< .001; t(396)=-6.21, p< .001)。以上より,興味価値が高いほど学習は持続し,その効果は努力コストの高い群でより顕著であることが示された。
次に,実践的利用価値と努力コストの交互作用効果を調べるために単純傾斜の検定を行った。その結果,努力コストの高い場合(平均+1SD)は有意性が認められたものの,低い場合(平均- 1SD)では有意性が認められなかった(t(396)= -3.29, p<.001; t(396)=-1.28, p=.20)。以上より,実践的利用価値の学習の持続性への効果は,努力コストの高い群でのみみられることが示された。
【考 察】
本研究の結果より,努力コストのみポジティブな価値との交互作用がみられ,努力コストを高く認知する者にとって,ポジティブな価値の効果はより強く影響することが示された。価値を高く認知する課題を遂行するにあたって,努力面で負荷があるということが学習者にとって必ずしも負担感だけでなく,一種の「やりがい」として認知されることで粘り強い学習へと人を導く可能性が考えられる。
学習者が,学習内容に対して意義や価値を認識しているかという問題は,学習動機づけを考える上で非常に重要な問題である(Eccles & Wigfield, 2002)。Eccles & Wigfield(1985)は,個人にある課題に取り組みたいと思わせる価値的な側面を指す概念として課題価値という概念を提唱した。
Ecclesらによれば,課題価値は多面的な概念である(Eccles & Wigfield, 1985)。多くの先行研究では,課題価値の下位要素のうち,興味価値,獲得価値,利用価値の3つが学習行動に促進的に影響することが明らかにされてきた(e.g., Wigfield & Cambria, 2010)。一方で,Ecclesらのモデルにおいて学習行動を抑制するネガティブな課題価値の側面として位置づけられているコストについての研究は数少ない(e.g., Perez, Cromley, & Kaplan, 2014)。また,コストを扱った先行研究においても,ポジティブな価値とコストを切り離してそれぞれ独立の影響のみを検討するに留まり,組み合わせの効果を検討していない点が問題点として挙げられる。現実の学習場面を考えると,学習者は学習に対してポジティブな価値とコストを共に認知しうると推測される。したがって,これらを組み合わせたときにどのような影響がみられるかについて考慮する必要があると考えられる。
以上の問題意識より,本研究ではポジティブな価値とコストそれぞれの主効果のみでなく,交互作用効果を含めて学習行動との関連を検討する。
【方 法】
対象者
愛知県内の大学2校と短期大学1校,および大阪府の大学1校の計4つの大学に在籍する学生434名を対象に質問紙調査を実施した。有効回答者は,400名(男性83名・女性317名:年齢M=18.54,SD=0.74)であった。
質問紙
コスト:解良・中谷(2014)で作成された項目のうち,改めて因子分析を行った結果負荷量の小さかった項目1項目を除外して用いた。努力コスト,機会コスト,心理コストの3因子からなる。11項目7件法。 ポジティブな価値:伊田(2003)で作成された興味価値,実践的利用価値の項目から各4項目を用いた。7件法。 持続性の欠如:下山(1985)を参考に一部表現を改変して用いた。5項目5件法。
【結 果】
ポジティブな価値と各コスト,およびそれらの交互作用項を予測変数,持続性の欠如を目的変数として,予測変数の中心化を行った上で重回帰分析を行った。興味価値の結果をTable 1,実践的利用価値の結果をTable 2に示す。
興味価値と努力コストの交互作用効果を検討するために単純傾斜の検定を行った。その結果,努力コストの高い場合(平均+1SD)も低い場合(平均-1SD)も有意性が認められた(t(396)=-9.43, p< .001; t(396)=-6.21, p< .001)。以上より,興味価値が高いほど学習は持続し,その効果は努力コストの高い群でより顕著であることが示された。
次に,実践的利用価値と努力コストの交互作用効果を調べるために単純傾斜の検定を行った。その結果,努力コストの高い場合(平均+1SD)は有意性が認められたものの,低い場合(平均- 1SD)では有意性が認められなかった(t(396)= -3.29, p<.001; t(396)=-1.28, p=.20)。以上より,実践的利用価値の学習の持続性への効果は,努力コストの高い群でのみみられることが示された。
【考 察】
本研究の結果より,努力コストのみポジティブな価値との交互作用がみられ,努力コストを高く認知する者にとって,ポジティブな価値の効果はより強く影響することが示された。価値を高く認知する課題を遂行するにあたって,努力面で負荷があるということが学習者にとって必ずしも負担感だけでなく,一種の「やりがい」として認知されることで粘り強い学習へと人を導く可能性が考えられる。