[PF029] 高校教師の対生徒関係の悩みから見た生徒認知の検討
教師の学校タイプによる経験の相違に着目して
キーワード:高校教師, 生徒認知, 学校タイプ
課題と目的
教師が生徒をどのような側面から捉えているかという生徒認知は,教師のメンタルヘルスだけでなく,教師の成長という観点から,主に小・中学校教師を対象に検討されてきた(e.g.,越,2002)。生徒認知は,生徒理解において重要な側面であると考えられており,教師は多様な認知次元を有することが望ましいとされている(e.g.,茅野,2012)。都丸・庄司(2005)によれば,教師の対生徒関係に関する悩みの経験は,認知次元の多様性と教師の成長を促すものである。教師は,悩みを経験することで自己の生徒認知の枠組みを捉え直し,生徒をこれまでとは異なる側面から見ることが可能になる。
生徒認知の規定要因については,小・中学校教師の生徒認知次元が教職経験年数によって規定されるとは限らないこと(蘭,1988)や,中学校教師の校務役割の属性が生徒認知の多様性に影響を与えていること(茅野,2005)などが指摘されてきたが,高校教師を対象にし,教師の学校タイプによる経験の相違と生徒認知の特徴の関連を検討する視点も必要である。学校タイプとは,「進学校」「進路多様校」「非進学校」という大学進学率による分類であり,学校タイプによって生徒の学校適応や生徒指導において異なった様相が見られることが明らかにされている(河村・藤原,2010)。異動によって様々な学校を経験することの多い公立の高校教師に着目し,教師の悩みから見た生徒認知を検討することにより,高校教師特有の生徒認知の特徴やその変化の過程を見出すことができると考える。
よって本研究では,教師の学校タイプによる経験の相違という観点から,高校教師の悩みから見た生徒認知の特徴について,インタビューによる質的な検討を行うことを目的とする。
方 法
2014年12月から2015年3月にかけて,担任教師の経験がある公立高校の教師16名(男性9名,女性7名)に,半構造化形式によるインタビュー調査(60分程度)を行った。質問は,担任教師としての生徒認知に焦点化し,これまでの経験を経て,現時点で「悩みを感じる生徒のタイプ」を,具体的なエピソードとともに振り返ってもらった。逐語録化したインタビューの中で,特に「悩みを感じる生徒のタイプ」について展開した語りを抽出し,越(2002)を援用した類型化を行い,教師の生徒認知の特徴を検討した。なお,現時点の悩みについて,過去の勤務校の事例をもとにした語りも分析の対象とし,どの学校タイプにおける語りであるかによって分類を行った。さらに,得られたカテゴリーと,言及した教師の学校タイプによる経験との関連から,高校教師の生徒認知の特徴や傾向について検討を試みた。
結果と考察
1.高校教師の生徒認知の特徴
高校教師が悩みを感じる生徒のタイプについて,越(2002)を援用して分類したところ,①【学校生活への意欲】②【基本的生活】③【教師への態度】④【人間関係の配慮】⑤【能力・学力】⑥【背景的要因】という6つの生徒認知次元と14のサブカテゴリーが導出された。越(2002)において導出された「性格・明るさ」と「行動統制のとりやすさ・とれやすさ(素直さ)」のカテゴリーは得られなかった。高校教師の生徒認知は,生徒の性格的な明るさや素直さよりも,⑤のような生徒の進路選択の支援に関わる認知と,②や④のような「人」としての理想の実現に関わる認知で構成されている。特に⑤を重視するのは,教師が高校を社会への入口と認識し,進路実現を高校教育における重要な課題だと考えていることに起因していると考えられる。新たに得られたカテゴリーである⑥は,生徒の表面的な行動ではなく,背後にある文化や家庭に関してのものである。教師にとって生徒の内面を認知することは困難である(茅野,2010)が,⑥の重要性を指摘した教師は,背景的な環境に影響を受ける生徒の内面を把握することが,生徒理解やよりよい学級経営を実現するために重要かつ直接的な要因だと認識している。
2.生徒認知と教師の学校タイプによる経験の関係
得られた6つのカテゴリーを,教師の学校タイプによる経験の相違から検討したところ,⑥は,「進路多様校」における経験として語られており,生徒の行動や感情という表面的な視点ではなく,①~⑤の生徒に見え隠れするものとして重視されていた。「進路多様校」には,援助を必要とする生徒が潜在的に多くいる傾向がある(河村・藤原,2010)。⑥には,家庭状況などを示す<家庭環境の複雑さ>と,異なる文化の生育歴を背景とした<言語や文化の相違>があり,教師が「外から見てわかるような不自由さ」ではない。「家庭を理解して言うのと全く知らずに言うのとでは生徒が聞き入れることが違う」「(異なる文化で生活してきた生徒に)これは悪いと言っても彼らの文化では違ったりする」という語りから,教師が潜在的に複雑な背景を持つ生徒に悩みながら関わる現状が認識された。しかし,「これが当たり前(の生徒像)だと思うことをやめた」という語りのように,対生徒関係の悩みと向き合うことが,生徒認知の多次元化や教師の成長を促す契機にもなることが示唆された。
本研究では,教師の学校タイプによる経験の相違に着目したが,同一の学校タイプを経験している場合でも,教師の生徒認知には差異がある。したがって,下位概念も含めて教師の語りを丁寧に捉え,悩みから見た生徒認知を精緻に検討することが今後の課題である。
教師が生徒をどのような側面から捉えているかという生徒認知は,教師のメンタルヘルスだけでなく,教師の成長という観点から,主に小・中学校教師を対象に検討されてきた(e.g.,越,2002)。生徒認知は,生徒理解において重要な側面であると考えられており,教師は多様な認知次元を有することが望ましいとされている(e.g.,茅野,2012)。都丸・庄司(2005)によれば,教師の対生徒関係に関する悩みの経験は,認知次元の多様性と教師の成長を促すものである。教師は,悩みを経験することで自己の生徒認知の枠組みを捉え直し,生徒をこれまでとは異なる側面から見ることが可能になる。
生徒認知の規定要因については,小・中学校教師の生徒認知次元が教職経験年数によって規定されるとは限らないこと(蘭,1988)や,中学校教師の校務役割の属性が生徒認知の多様性に影響を与えていること(茅野,2005)などが指摘されてきたが,高校教師を対象にし,教師の学校タイプによる経験の相違と生徒認知の特徴の関連を検討する視点も必要である。学校タイプとは,「進学校」「進路多様校」「非進学校」という大学進学率による分類であり,学校タイプによって生徒の学校適応や生徒指導において異なった様相が見られることが明らかにされている(河村・藤原,2010)。異動によって様々な学校を経験することの多い公立の高校教師に着目し,教師の悩みから見た生徒認知を検討することにより,高校教師特有の生徒認知の特徴やその変化の過程を見出すことができると考える。
よって本研究では,教師の学校タイプによる経験の相違という観点から,高校教師の悩みから見た生徒認知の特徴について,インタビューによる質的な検討を行うことを目的とする。
方 法
2014年12月から2015年3月にかけて,担任教師の経験がある公立高校の教師16名(男性9名,女性7名)に,半構造化形式によるインタビュー調査(60分程度)を行った。質問は,担任教師としての生徒認知に焦点化し,これまでの経験を経て,現時点で「悩みを感じる生徒のタイプ」を,具体的なエピソードとともに振り返ってもらった。逐語録化したインタビューの中で,特に「悩みを感じる生徒のタイプ」について展開した語りを抽出し,越(2002)を援用した類型化を行い,教師の生徒認知の特徴を検討した。なお,現時点の悩みについて,過去の勤務校の事例をもとにした語りも分析の対象とし,どの学校タイプにおける語りであるかによって分類を行った。さらに,得られたカテゴリーと,言及した教師の学校タイプによる経験との関連から,高校教師の生徒認知の特徴や傾向について検討を試みた。
結果と考察
1.高校教師の生徒認知の特徴
高校教師が悩みを感じる生徒のタイプについて,越(2002)を援用して分類したところ,①【学校生活への意欲】②【基本的生活】③【教師への態度】④【人間関係の配慮】⑤【能力・学力】⑥【背景的要因】という6つの生徒認知次元と14のサブカテゴリーが導出された。越(2002)において導出された「性格・明るさ」と「行動統制のとりやすさ・とれやすさ(素直さ)」のカテゴリーは得られなかった。高校教師の生徒認知は,生徒の性格的な明るさや素直さよりも,⑤のような生徒の進路選択の支援に関わる認知と,②や④のような「人」としての理想の実現に関わる認知で構成されている。特に⑤を重視するのは,教師が高校を社会への入口と認識し,進路実現を高校教育における重要な課題だと考えていることに起因していると考えられる。新たに得られたカテゴリーである⑥は,生徒の表面的な行動ではなく,背後にある文化や家庭に関してのものである。教師にとって生徒の内面を認知することは困難である(茅野,2010)が,⑥の重要性を指摘した教師は,背景的な環境に影響を受ける生徒の内面を把握することが,生徒理解やよりよい学級経営を実現するために重要かつ直接的な要因だと認識している。
2.生徒認知と教師の学校タイプによる経験の関係
得られた6つのカテゴリーを,教師の学校タイプによる経験の相違から検討したところ,⑥は,「進路多様校」における経験として語られており,生徒の行動や感情という表面的な視点ではなく,①~⑤の生徒に見え隠れするものとして重視されていた。「進路多様校」には,援助を必要とする生徒が潜在的に多くいる傾向がある(河村・藤原,2010)。⑥には,家庭状況などを示す<家庭環境の複雑さ>と,異なる文化の生育歴を背景とした<言語や文化の相違>があり,教師が「外から見てわかるような不自由さ」ではない。「家庭を理解して言うのと全く知らずに言うのとでは生徒が聞き入れることが違う」「(異なる文化で生活してきた生徒に)これは悪いと言っても彼らの文化では違ったりする」という語りから,教師が潜在的に複雑な背景を持つ生徒に悩みながら関わる現状が認識された。しかし,「これが当たり前(の生徒像)だと思うことをやめた」という語りのように,対生徒関係の悩みと向き合うことが,生徒認知の多次元化や教師の成長を促す契機にもなることが示唆された。
本研究では,教師の学校タイプによる経験の相違に着目したが,同一の学校タイプを経験している場合でも,教師の生徒認知には差異がある。したがって,下位概念も含めて教師の語りを丁寧に捉え,悩みから見た生徒認知を精緻に検討することが今後の課題である。