[PF035] 大学講義における課題無関連思考の経時変化
思考サンプリング法による検討
Keywords:マインドワンダリング, 集中力, 授業中の思考
【背景および目的】
日常生活の中で我々は,意図していないにも関わらず,遂行中の課題と無関係な思考に注意が奪われ,見ているようで見ていない,聞いているようで聞いていない状態になることがある(関口,2014)。こうした課題無関連思考(task unrelated thought,以下TUT)は,学校の授業中にも頻繁に生起し,授業内容の理解の妨げとなる(Szpunar et al., 2013)。そのため効果的な学習のためには,授業者・学習者ともに授業中のTUTを少なくする働きかけが重要である。しかしながら,TUTが授業の時間経過の中でどのように生起するのか,またどのような人で,どのような時にそれが起こりやすいかなど,実際の授業におけるTUTの性質を実証的に調べた研究は少ない(Risko et al., 2012,森田・河崎,2012)。そこで本研究では,大学講義中に受講者の思考内容を思考サンプリング法で調べ,授業中のTUTの性質,特にその生起率の経時変化を明らかにすることを目的とした。
【方 法】
対象講義 国・私立大学の心理学の講義7つ。講義1,2,4,7(n=50,49,77,51名)は授業者Aが,講義3(203名)は授業者Bが,講義5(157名),6(89名)は授業者Cがそれぞれ担当した。調査は匿名で行い,参加は任意であった。
思考サンプリング 実際の講義中に3~7分間隔でチャイムを鳴らし(13~14回),参加者にその時の思考内容を以下の選択肢から選ぶ形で報告させた。なお,これにより授業時間が10~15分さかれること,授業に集中できない可能性があることを予め説明し,謝罪した。①授業,②プリントへの書き込みなど,③授業に関係した思考(意図的),④授業に関係した思考(無意図的),⑤過去の出来事,⑥近い未来の予定や計画,⑦悩み,問題・課題,⑧空想,⑨ドラマ,漫画,小説,歌,⑩自分や他者,教室の状態,⑪その他,⑫眠っていた・ウトウト,⑬授業に関係のない行動。
講義への興味関心 参加者の講義に対する興味関心を調べるために,授業前に,本日の内容について「面白そう」「重要そう」「積極的に取り組もう」と思う程度を各5段階で評定させた。また,これまでの講義内容についても同様の評定を行わせた。
理解度テスト 講義7において,講義内容についての正誤判断問題10問を授業後に解答させた。
【結果および考察】
経時変化 ⑤~⑪の回答をTUTとして,各講義におけるTUTを行っていた参加者の割合をサンプリングポイントごとに算出した。Fig. 1はこうして求めたTUT生起率を講義間で平均したものである。TUT生起率は,授業開始30分後まで上昇するが,30~45分後にかけ低下し,その後,授業終了にむけ再び上昇するというパタンを示した。この結果から,講義中のTUTが時間とともに単純に増大するわけではないことが分かる。
思考内容 思考内容⑤~⑪のそれぞれの平均生起率を算出した(Table 1)。先行研究(Baird et al., 2011)と同様,過去に比べ未来の出来事の方が生起率が高かった(p = .023)
個人内相関 講義1と2は同じ参加者が参加した。参加者ごとに講義中のTUT生起率を求め,個人内相関を調べたところr=.32, 95%CI [.04, .56]で弱い相関が見られた。この結果は,TUT生起に個人のTUT傾向が影響することを示唆している。
興味関心との関係 講義ごとに興味関心得点とTUT生起率の相関係数を求め,統合相関係数を算出したところ,当日の授業に対する興味関心得点,r=-.21,95%CI [-.29,-.13],これまでの授業に対する興味関心得点,r=-.23,95%CI [-.31, -.15],ともにTUT生起率と弱い負の相関を示した。
講義理解度との関係 講義7における各参加者のTUT生起率とテスト得点の関係を調べたところ,r=-.34, 95%CI [-.57, -.05]で負の相関が見られた。
日常生活の中で我々は,意図していないにも関わらず,遂行中の課題と無関係な思考に注意が奪われ,見ているようで見ていない,聞いているようで聞いていない状態になることがある(関口,2014)。こうした課題無関連思考(task unrelated thought,以下TUT)は,学校の授業中にも頻繁に生起し,授業内容の理解の妨げとなる(Szpunar et al., 2013)。そのため効果的な学習のためには,授業者・学習者ともに授業中のTUTを少なくする働きかけが重要である。しかしながら,TUTが授業の時間経過の中でどのように生起するのか,またどのような人で,どのような時にそれが起こりやすいかなど,実際の授業におけるTUTの性質を実証的に調べた研究は少ない(Risko et al., 2012,森田・河崎,2012)。そこで本研究では,大学講義中に受講者の思考内容を思考サンプリング法で調べ,授業中のTUTの性質,特にその生起率の経時変化を明らかにすることを目的とした。
【方 法】
対象講義 国・私立大学の心理学の講義7つ。講義1,2,4,7(n=50,49,77,51名)は授業者Aが,講義3(203名)は授業者Bが,講義5(157名),6(89名)は授業者Cがそれぞれ担当した。調査は匿名で行い,参加は任意であった。
思考サンプリング 実際の講義中に3~7分間隔でチャイムを鳴らし(13~14回),参加者にその時の思考内容を以下の選択肢から選ぶ形で報告させた。なお,これにより授業時間が10~15分さかれること,授業に集中できない可能性があることを予め説明し,謝罪した。①授業,②プリントへの書き込みなど,③授業に関係した思考(意図的),④授業に関係した思考(無意図的),⑤過去の出来事,⑥近い未来の予定や計画,⑦悩み,問題・課題,⑧空想,⑨ドラマ,漫画,小説,歌,⑩自分や他者,教室の状態,⑪その他,⑫眠っていた・ウトウト,⑬授業に関係のない行動。
講義への興味関心 参加者の講義に対する興味関心を調べるために,授業前に,本日の内容について「面白そう」「重要そう」「積極的に取り組もう」と思う程度を各5段階で評定させた。また,これまでの講義内容についても同様の評定を行わせた。
理解度テスト 講義7において,講義内容についての正誤判断問題10問を授業後に解答させた。
【結果および考察】
経時変化 ⑤~⑪の回答をTUTとして,各講義におけるTUTを行っていた参加者の割合をサンプリングポイントごとに算出した。Fig. 1はこうして求めたTUT生起率を講義間で平均したものである。TUT生起率は,授業開始30分後まで上昇するが,30~45分後にかけ低下し,その後,授業終了にむけ再び上昇するというパタンを示した。この結果から,講義中のTUTが時間とともに単純に増大するわけではないことが分かる。
思考内容 思考内容⑤~⑪のそれぞれの平均生起率を算出した(Table 1)。先行研究(Baird et al., 2011)と同様,過去に比べ未来の出来事の方が生起率が高かった(p = .023)
個人内相関 講義1と2は同じ参加者が参加した。参加者ごとに講義中のTUT生起率を求め,個人内相関を調べたところr=.32, 95%CI [.04, .56]で弱い相関が見られた。この結果は,TUT生起に個人のTUT傾向が影響することを示唆している。
興味関心との関係 講義ごとに興味関心得点とTUT生起率の相関係数を求め,統合相関係数を算出したところ,当日の授業に対する興味関心得点,r=-.21,95%CI [-.29,-.13],これまでの授業に対する興味関心得点,r=-.23,95%CI [-.31, -.15],ともにTUT生起率と弱い負の相関を示した。
講義理解度との関係 講義7における各参加者のTUT生起率とテスト得点の関係を調べたところ,r=-.34, 95%CI [-.57, -.05]で負の相関が見られた。