[PF041] 大学生におけるレポート課題に対する問題解決手段の構成
具体的な問題内容の影響
キーワード:初年次教育, レポートライティング, 問題解決
問題と目的
大学初年次生等の学習者が適切なレポートを執筆できない問題状況について,「起承転結による展開が望ましい」などの概念バグが背景に働いていると指摘されることがある。一方,現実のレポート課題には,学術論文に近い構成を求めるものだけでなく,フィールドワークの記録や授業の感想や文学作品の紹介など,学術論文とは全く異なる構成を求めるものが含まれている。そのため,学習者は,さまざまなレポート課題に対して単一の問題解決手段を採るのではなく,それぞれの課題内容に応じた適切な問題解決手段を動的に構成することが求められる。このように考えると,学習者におけるレポート課題の概念や問題解決手段を確認する際には,抽象的状況ではなく具体的な問題内容を示しながらそれを行う必要があることがわかる。そこで,本稿では,学習者がレポート課題の具体的な問題内容に応じて問題解決手段をどのように構成するかについて確認した結果を報告する。
被験者・課題・手続き
大学初年次生に対して, (A)資料内容をまとめることを要求するレポート課題,もしくは,(D)履修者個人の経験を記述・演習するレポート課題のいずれかを示し,それに対する適切な執筆字数を質問した(ダミー課題)。さらに,各被験者に,(s)そのレポート課題について,もしくは,(g)レポート課題一般について,執筆方法1~5が適切であるかを「適切で義務」「適切で自由」「不適切」の3択で判断させた(2群間×2群間)。執筆方法の3と5は,3~5か月前に,全被験者に対して,それが適切であると教授されていた。
結 果
問題内容を扱うことが困難と申告した被験者を除外した,As群10名,Ag群20名,Ds群11名,Dg群25名における適切性判断の結果を表に示す。Ag群とDg群との比較でも,また,As群とDs群との比較でも,執筆方法の1,4,5それぞれについて有意差がみられた(直接確率計算法,p<.01)。
考察
回答直前に提示された特定のレポート課題についてではなく,レポート課題一般についての質問であるにも拘わらず,Ag群とDg群との間で,適切と判断される執筆方法の分布が異なっている。さらに,As群とDs群との比較で有意差が見られた執筆方法については,Ag群とDg群との比較でも同じ方向の有意差が確認されている。これらのことから,学習者に対して一般的なレポート課題についての概念を確認する場合でも,その学習者がどのような具体的なレポート課題を想定するかによって回答が変化すること,および,その想定に際しては,過去にその学習者に与えられた具体的なレポート課題の問題内容が影響することが示唆される。
また,執筆方法の5については,それが適切であると事前に教授されていたにも関わらず,Ds群でもDg群でも適切と判断される率がチャンスレベルよりも有意に低い。ここから,一般的なレポート課題に対する形式的教授は,個々のレポート課題に対する問題解決手段の構成に際して限定的な効果しか持たないことがうかがえる。
これらのことから,学習者に対して具体的なレポート課題を示さずに抽象的なレポート課題についての概念や問題解決手段の制約を問う実験方法には限界があること,および,学習者は過去に与えられた具体的なレポート課題に適応することよって,より一般的なレポート課題についての概念や問題解決手段の制約を学習している可能性があることなどが示唆された。
大学初年次生等の学習者が適切なレポートを執筆できない問題状況について,「起承転結による展開が望ましい」などの概念バグが背景に働いていると指摘されることがある。一方,現実のレポート課題には,学術論文に近い構成を求めるものだけでなく,フィールドワークの記録や授業の感想や文学作品の紹介など,学術論文とは全く異なる構成を求めるものが含まれている。そのため,学習者は,さまざまなレポート課題に対して単一の問題解決手段を採るのではなく,それぞれの課題内容に応じた適切な問題解決手段を動的に構成することが求められる。このように考えると,学習者におけるレポート課題の概念や問題解決手段を確認する際には,抽象的状況ではなく具体的な問題内容を示しながらそれを行う必要があることがわかる。そこで,本稿では,学習者がレポート課題の具体的な問題内容に応じて問題解決手段をどのように構成するかについて確認した結果を報告する。
被験者・課題・手続き
大学初年次生に対して, (A)資料内容をまとめることを要求するレポート課題,もしくは,(D)履修者個人の経験を記述・演習するレポート課題のいずれかを示し,それに対する適切な執筆字数を質問した(ダミー課題)。さらに,各被験者に,(s)そのレポート課題について,もしくは,(g)レポート課題一般について,執筆方法1~5が適切であるかを「適切で義務」「適切で自由」「不適切」の3択で判断させた(2群間×2群間)。執筆方法の3と5は,3~5か月前に,全被験者に対して,それが適切であると教授されていた。
結 果
問題内容を扱うことが困難と申告した被験者を除外した,As群10名,Ag群20名,Ds群11名,Dg群25名における適切性判断の結果を表に示す。Ag群とDg群との比較でも,また,As群とDs群との比較でも,執筆方法の1,4,5それぞれについて有意差がみられた(直接確率計算法,p<.01)。
考察
回答直前に提示された特定のレポート課題についてではなく,レポート課題一般についての質問であるにも拘わらず,Ag群とDg群との間で,適切と判断される執筆方法の分布が異なっている。さらに,As群とDs群との比較で有意差が見られた執筆方法については,Ag群とDg群との比較でも同じ方向の有意差が確認されている。これらのことから,学習者に対して一般的なレポート課題についての概念を確認する場合でも,その学習者がどのような具体的なレポート課題を想定するかによって回答が変化すること,および,その想定に際しては,過去にその学習者に与えられた具体的なレポート課題の問題内容が影響することが示唆される。
また,執筆方法の5については,それが適切であると事前に教授されていたにも関わらず,Ds群でもDg群でも適切と判断される率がチャンスレベルよりも有意に低い。ここから,一般的なレポート課題に対する形式的教授は,個々のレポート課題に対する問題解決手段の構成に際して限定的な効果しか持たないことがうかがえる。
これらのことから,学習者に対して具体的なレポート課題を示さずに抽象的なレポート課題についての概念や問題解決手段の制約を問う実験方法には限界があること,および,学習者は過去に与えられた具体的なレポート課題に適応することよって,より一般的なレポート課題についての概念や問題解決手段の制約を学習している可能性があることなどが示唆された。