日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PF

2015年8月27日(木) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PF042] 評価方式が学習に与える効果の探索的検討

加点法と減点法

福富隆志 (慶應義塾大学大学院)

キーワード:評価方式, 自己調整, 制御焦点

問題と目的
テストなどの評価は,学力を測定する機能を持つだけではなく,それが実施されることで学習者の行動に様々な影響を与える。こうした評価は,形式や主体などによって様々なかたちで実施されるが,基本的な分類として,「良い部分を加点する」評価なのか,「悪い部分を減点する」評価なのかの次元が考えられる。そこで本研究では,作文課題を用いて,加点法・減点法による評価が課題遂行に及ぼす効果を探索的に検討することを目的とした。また,効果に個人差が見られることが予想されるため,自己調整における志向性の違いである制御焦点(Higgins, 1997)を特性として用いて,その効果の違いも検討した。
方 法
参加者 首都圏の私立A大学に通う学生17名(男性6名,女性11名)と私立B大学に通う学生25名(男性5名,女性20名)の計42名。参加者は,制御焦点特性の得点がほぼ等しくなるように,加点群21名と減点群21名に分けられた。
課題 テーマに沿って自由に文章を書く課題を2回実施した。テーマは,1回目が「あなたの好きなこと」,2回目が「最近気になっていること」である。
手続き 実験は個別もしくは集団で,2回に分けて実施された。1回目は,全ての参加者が同じ条件のもとで,課題を行った。2回目は,まず,前回の課題の得点(6~9点のいずれか)を伝えた後に,群ごとに異なるフィードバックおよび教示を与えた。すなわち,加点群には,良い部分を加点する方式で得点を付けたと伝え,加点理由を2つ書いた紙を渡した。一方,減点群には,悪い部分を減点する方式で得点を付けたと伝え,減点理由を2つ書いた紙を渡した。その後,両群ともに,1回目と同じ評価方式で再度評価することを伝えた後,2回目の課題を行った。
事前質問紙 1回目の課題の実施前に配布した。主な測定項目は,Ouschenら(2007)によるRegulatory Focus Strategies Scaleを邦訳したものを使用した。下位尺度は,(1)促進焦点特性:進歩や達成することへの関心,(2)予防焦点特性:損失を回避することへの関心,である。
事後質問紙 1回目および2回目の課題の実施後に配布した。主な測定項目は,(1)内容量への関心:なるべく多くの内容を書こうとする態度,(2)フィードバックの利用:フィードバックの内容を次の課題に活かそうとする態度,(3)課題遂行中の意識(自由記述)である。
作文の評定 作文の内容を,大学院で教育心理学を専攻している大学院生3名で評定した。主な評定項目は,(1)ユニークさ:視点のユニークさ,(2)具体性:具体的な事実や体験の描写,(3)総合評価:全体的な印象の良さ,である。
結果と考察
独立した2群によるt検定を行った結果,加点群が減点群よりも,内容量への関心(t(40)=2.44,p<.05),ユニークさ(t(40)=1.95,p<.10),総合評価(t(40)=2.49,p<.05)が高かった。また,自由記述において,加点群は,より良い文章を書こうとする意識が高いことを示す文が多かった。
さらに,重回帰分析を行った結果,フィードバックの利用に対して,条件と促進焦点特性の交互作用が見られた(F(1,40)=3.08,p<.10;下図)。
全体的に,加点群は減点群よりも,課題の改善意識が高く,内容もより高得点を狙った,ユニークなものとなっているように思われた。したがって,「加点法は減点法よりも,学習目標達成のための自己調整を促進する」という仮説が成り立ちうる。ただし,促進焦点特性の高い人に対しては,減点法による評価の方が情報的に利用される可能性が高いことも示された。今後は、評価方式と学習の関係を,個人差も含めてより詳細に検討する必要があるだろう。