[PF046] 中学生の社会的行動についての研究(103)
全体的自己価値と問題行動の予兆行動の因果関係の検討
Keywords:中学生, 全体的自己価値, 問題行動の予兆
【目 的】
山本らの一連の研究では,今の自分が好きであるなど自分自身全体についての評価を「全体的自己価値」とし,中学生の全体的自己価値はどのように変化するのか,変化に影響を与えているのはどのような要因かを検討している。本研究では,全体的自己価値と関連する要因として,中学生の学校生活の中で起こりうる問題行動の予兆行動をとりあげる。交差遅延効果モデルを用いて,全体的自己価値と問題行動の予兆行動の経年変化を検討し,全体的自己価値と問題行動の予兆行動の因果関係を検討することを目的とする。
【方 法】
1.調査内容 ①全体的自己価値(5項目):自分のことが好きであるなど自分をどのように評価しているかを6段階評定でたずねた。②問題行動の予兆行動(7項目):「学校に禁じられているものを持っていく」,「制服の形を崩して着ている」など問題行動の予兆となる行動(以下,予兆行動)について,この3ケ月にどれくらいあったかを4段階評定でたずねた。「めったにない」を0点とし,「いくらかある~いつもある」までを1点として得点化した。
2.調査実施時期と調査協力者 調査は愛知県内の中学生と福島県内の中学生に実施した。調査実施時期は,中学1年:2002年9月中旬,中学2年:2003年9月下旬,中学3年:2004年9月下旬であった。今回の分析は,3時点すべての全体的自己価値と予兆行動の項目に回答のあった中学生499名(男子215名,女子284名)について行った。
【結 果】
1.全体的自己価値と予兆行動の平均値(SD)及び分散分析の結果 全体的自己価値は肯定的に評価しているほど高得点になるよう, 予兆行動は多く行動を行っているほど高得点になるよう合計点を算出した(Table1)。時点(3)×性別(2)の分散分析の結果,全体的自己価値は,中1より中2(F=25.45, p<.001),中2より中3(F=5.03, p=.025)時点の得点が低く,女子より男子の得点が高かった(F=46.36, p<.001)。予兆行動も,中1より中2時点の得点が高く(F=33.42, p<.001),男子より女子の得点が高かった(F=37.58, p<.001)。
2.全体的自己価値と向社会的行動の因果関係の検討 交差遅延効果モデルを用いて(Fig.),全体的自己価値と向社会的行動の因果関係を検討した。
⑴ 男子 最終的なモデルの推定結果をTable2に示した。χ2=7.39(p=.597)であり,CFI=1.000,RMSEA=.000(90%C.I.=.000~.067)であった。全体的自己価値の経年変化については,中1時点が中2時点に影響し,中2時点が中3時点に影響していた。予兆行動の経年変化についても,同様であった。全体的自己価値が向社会的行動へ及ぼす影響については,有意なパスは,みられなかった。しかし予兆行動が全体的自己価値へ及ぼす影響については,中1年時点での予兆行動が中2時点の全体的自己価値に影響していた。
⑵ 女子 最終的なモデルの推定結果をTable3に示した。χ2=6.91(p=.547)であり,CFI=1.000,RMSEA=.000(90%C.I.=.000~.063)であった。全体的自己価値,予兆行動いずれも,中1時点が中2時点に影響し,中2時点が中3時点に影響しており,中1時点は中3時点にも影響していた。しかし,全体的自己価値から向社会的行動への影響も,向社会的行動から全体的自己価値への影響も,いずれも有意なパスはみられなかった。
【考 察】
本研究の主な目的は,全体的自己価値と予兆行動の因果関係を検討することであった。その結果,全体的自己価値と予兆行動の因果関係では,女子では関連がまったくみられなかったが,男子は,中1時点の予兆行動が中2時点での全体的自己価値に影響しており,予兆行動によって全体的自己価値が低下する可能性が示唆された。
山本らの一連の研究では,今の自分が好きであるなど自分自身全体についての評価を「全体的自己価値」とし,中学生の全体的自己価値はどのように変化するのか,変化に影響を与えているのはどのような要因かを検討している。本研究では,全体的自己価値と関連する要因として,中学生の学校生活の中で起こりうる問題行動の予兆行動をとりあげる。交差遅延効果モデルを用いて,全体的自己価値と問題行動の予兆行動の経年変化を検討し,全体的自己価値と問題行動の予兆行動の因果関係を検討することを目的とする。
【方 法】
1.調査内容 ①全体的自己価値(5項目):自分のことが好きであるなど自分をどのように評価しているかを6段階評定でたずねた。②問題行動の予兆行動(7項目):「学校に禁じられているものを持っていく」,「制服の形を崩して着ている」など問題行動の予兆となる行動(以下,予兆行動)について,この3ケ月にどれくらいあったかを4段階評定でたずねた。「めったにない」を0点とし,「いくらかある~いつもある」までを1点として得点化した。
2.調査実施時期と調査協力者 調査は愛知県内の中学生と福島県内の中学生に実施した。調査実施時期は,中学1年:2002年9月中旬,中学2年:2003年9月下旬,中学3年:2004年9月下旬であった。今回の分析は,3時点すべての全体的自己価値と予兆行動の項目に回答のあった中学生499名(男子215名,女子284名)について行った。
【結 果】
1.全体的自己価値と予兆行動の平均値(SD)及び分散分析の結果 全体的自己価値は肯定的に評価しているほど高得点になるよう, 予兆行動は多く行動を行っているほど高得点になるよう合計点を算出した(Table1)。時点(3)×性別(2)の分散分析の結果,全体的自己価値は,中1より中2(F=25.45, p<.001),中2より中3(F=5.03, p=.025)時点の得点が低く,女子より男子の得点が高かった(F=46.36, p<.001)。予兆行動も,中1より中2時点の得点が高く(F=33.42, p<.001),男子より女子の得点が高かった(F=37.58, p<.001)。
2.全体的自己価値と向社会的行動の因果関係の検討 交差遅延効果モデルを用いて(Fig.),全体的自己価値と向社会的行動の因果関係を検討した。
⑴ 男子 最終的なモデルの推定結果をTable2に示した。χ2=7.39(p=.597)であり,CFI=1.000,RMSEA=.000(90%C.I.=.000~.067)であった。全体的自己価値の経年変化については,中1時点が中2時点に影響し,中2時点が中3時点に影響していた。予兆行動の経年変化についても,同様であった。全体的自己価値が向社会的行動へ及ぼす影響については,有意なパスは,みられなかった。しかし予兆行動が全体的自己価値へ及ぼす影響については,中1年時点での予兆行動が中2時点の全体的自己価値に影響していた。
⑵ 女子 最終的なモデルの推定結果をTable3に示した。χ2=6.91(p=.547)であり,CFI=1.000,RMSEA=.000(90%C.I.=.000~.063)であった。全体的自己価値,予兆行動いずれも,中1時点が中2時点に影響し,中2時点が中3時点に影響しており,中1時点は中3時点にも影響していた。しかし,全体的自己価値から向社会的行動への影響も,向社会的行動から全体的自己価値への影響も,いずれも有意なパスはみられなかった。
【考 察】
本研究の主な目的は,全体的自己価値と予兆行動の因果関係を検討することであった。その結果,全体的自己価値と予兆行動の因果関係では,女子では関連がまったくみられなかったが,男子は,中1時点の予兆行動が中2時点での全体的自己価値に影響しており,予兆行動によって全体的自己価値が低下する可能性が示唆された。