日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PF

2015年8月27日(木) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PF056] 音声を介した感情伝達の発達

理解面と表現面との関連性

近藤綾子1, 林安紀子2 (1.東京学芸大学大学院, 2.東京学芸大学)

キーワード:感情伝達, 音声, 発達

1.問題と目的
コミュニケーションにおいて,音声から他者の感情や意図を理解し,自身の感情や意図を表出することは重要な要素の一つである。このような音声を介した感情伝達は,乳幼児期から段階的に発達するものと考えられるが,表情の研究に比べて明らかになっていないことが少なくない。また,感情の理解面と表現面は関連して発達するものと考えられるが,これについては表情の研究においても明確な結果が得られておらず(枡田,2014),音声についても更なる検討が必要と言える。これまでの予備的研究から,5歳時点ですでに無意味語発話音声に含まれた「怒り」や「悲しみ」の感情を成人と同様に理解する一方で(近藤・林,2015),5歳時点では既に「悲しみ」をよく表現可能であることを示唆した(近藤・林,2014)。しかしながら,理解面と表現面の関連性については明らかになっていない。また,データ数が少ないことが問題であったため,データ数を追加した上で,理解面と表現面との関連性について検討を行った。
2.方法
対象:5歳児10名,7歳児10名,成人10名
刺激:感情は喜び,悲しみ,驚き,怒りの4感情を対象とし,刺激語は無意味語(まなまな/manamana/)とした。刺激として,4感情を表した表情絵,成人女性が感情を込めて無意味語を発話した音声(4感情×4種類=全16刺激)を作成した。
手続き:調査は個別に実施した。対象者は,ヘッドセットマイクを装着し,発話を収録した。課題前に,無意味語の発声練習を複数回行った後,表情絵を提示して感情語と表情絵が理解できることを確認した。
感情表現課題:対象者に表情絵と「まなまな」と書かれた紙を提示し,「嬉しい気持ちでまなまなって言ってね」といったように教示して発話を求めた。各感情2回録音した。次に,表情絵を対象児に示し,どれか1つを選択してその感情を込めて「まなまな」と発話するように求めた。その際,実験者は対象者に背を向けて座り「私は○○ちゃんの顔は見えなくて,声しか聞こえません。どのカードを選んだか当てるから,私にわかるように気持ちを込めて言ってね」と教示した。各感情2回発話を録音した。
感情理解課題:刺激音声をランダムに提示し,どの感情が込められた音声であったか,表情図の指さしにより回答を求めた。全40試行実施した。
結果の処理方法:感情表出課題において収録した音声は,成人評定者20名による感情同定実験により,話者の意図した感情と評定者の選択が一致した場合を1点として得点化した。感情理解課題では,刺激音声の意図した感情と対象児が選択した感情が一致した場合を1点として得点化した。
3.結果
理解課題得点と表現課題得点との相関関係を検討したが,いずれの組み合わせにおいても明確な関連性は示唆されなかった(Fig.1)。
4.考察
本研究においては,音声での感情の理解と表現との間に関連性は示唆されず,表情の先行研究と同様の結果となり,更なる検討が必要である。また,この結果は複数の要因が影響したと考えられ,まず,感情理解課題の得点が全体的に高かったことが挙げられる。また,表現課題は,同定課題により得点化したため,表現の精巧さに差異があったとしても,一致得点の差としては現れず,表現能力の差が適切に得点化されていない可能性が考えられる。そこで予備的に表現の精巧さについて検討したところ,一致得点は同程度であっても,精巧さ得点には差異がある場合が見られた。したがって,理解面との関連性については,精巧さの評定について評定者を増やし更なる検討が必要である。